[TOKYO R30] 第26話「帰ってこないでオーラ」を放つ、同棲中の彼女

ごきげん手帖 / 2017年7月30日 20時0分

彼女と同棲中。オレは、最近家に帰りたくない。

会社の後輩を終電まで連れまわした。最近は、遅くまで飲むことが多い。翔の心の裏には、少しでも家に帰る時間を先延ばしにしたいという思いがあった。

なぜなら、ここ最近、家の空気がものすごく重いのだ。瑠璃が、帰ってこないでオーラを放ってくるように感じる。

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日付が変わった12時半、翔は自宅に帰り着いた。ドアを開けて、そろっと締める。瑠璃は寝ているだろうか。ベッドルームを覗くと、壁際に寝ている彼女がいた。翔は、ほっとする自分に気づいた。

すぐさま洗面所に直行し、ワイシャツ、靴下を床にほっぽる。シャワーの蛇口をひねったところで、「脱いだら、ちゃんと洗濯機に入れてよ！」頭の中で瑠璃の怒鳴り声が聞こえた。

そうだ、これをすると、瑠璃がキレるんだった。翔は脱いだものを洗濯機に入れた。あいつ、細かいよなぁ。一人暮らしの時は、洗濯機を回す直前に、靴下やワイシャツを集め歩いたもんだぜ。

ぬるめのシャワーを浴びる。泡で全身を包み、汗と疲れをざっと流した。外に出て、頭と体を適当に拭く。Tシャツを着ずに、ハーフパンツだけ履いて、クーラーの効いたリビングへ。冷蔵庫から麦茶を取りだし、グラスに注ぐ。飲みながら、ソファに座って、海外サッカーの結果をテレビで見る。この時間が一番の至福だ。

ふとCMに、瑠璃に似ている女優が出ていた。笑うと目尻が下がるところが似ている。ふと、翔は気が付く。最近、瑠璃の笑顔を見ていないな。軽くため息をついた。

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瑠璃と同棲を始めて3か月。なんだかギクシャクすることがある。部屋の空気が張り詰めているというか、なんだか居心地が悪かったりする。瑠璃の身体から、自分を寄せ付けないバリアが出ているようだ。

空気を明るくしようと、おちゃらけてみたりする。しかし、冷めている瑠璃。一体、どうすれば笑ってくれるんだろう。ピエロに徹する自分。しかし、どうしてこんなに気を使っているんだと、疲れるときがある。

「おはよう」と言っても無視された日もある。一体なんなんだ。不満があるなら、ハッキリ言えよと言うが、「察して」なんて返ってくる。エスパーじゃないし、わかるわけないだろう。

ゆっくりできない自宅。家賃は俺が払っているのに、居場所がない。勘弁してくれよ！

そんな思いを閉じ込めるかのように、翔はテレビをバッと消した。

ふと部屋の隅に目をやると、キレイにたたまれたタオルが積んであった。瑠璃がやってくれたのだろう。何も言わずに家事をこなしてくれるのでありがたい。最初は、二人で分担しようと決めたけど、翔があまりにも家事能力がないとの判断が下された。翔が洗濯物をたたんでも、瑠璃がたたみなおす。翔が洗い物をしても、瑠璃がチェックする始末。

「いいよ、もう、私がやるから！」

半分呆れるような、半分怒ったような、吐き捨てられた瑠璃の言葉。たしかに、そのほうがよさそうだな、と翔も任せることにした。肩の荷が下り、とても助かっている。適材適所。不得意なことは得意な人に任せればいい。

瑠璃、グラスの洗い物お願いします！

そう思いながら、翔は使ったグラスをシンクに置いて寝た。

◆

翌日は土曜日だった。今日は瑠璃は出かける予定があるのだろうか。どこかに誘おうか。キッチンに目をやると、瑠璃が立っていた。翔の気配に気づいた瑠璃は、大きな声を上げ始めた。

「ちょっと、翔！　グラス1個くらいも洗えないの？　全部、私がやらなきゃダメなの？いい加減にしてよ。私、あなたの家政婦じゃない！」

青天の霹靂のような瑠璃の怒鳴り声。混乱する翔。瑠璃の目からは、豪雨の降り始めのような涙が降ってきた。

「もう、やだ、私もう嫌だよー！」

瑠璃が大声をあげて泣いている。なになに、一体、何が起こった？　翔は混乱するばかりである。

それから2日間。同じ空間にいながら、お互いを避けるように、2人は言葉を交わすことはなかった。

★毎週日曜日　20時公開
（文・東香名子／イラスト・日暮ろこ子／コスメコメント・LBR編集部）