プライバシー侵害の基準となっている「宴のあと事件」とは

シェアしたくなる法律相談所 / 2015年9月28日 9時36分

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先日、「母親が息子の部屋を捜索することは「プライバシー侵害」になるのか?」という記事を書いたのですが、この記事ではプライバシー侵害の基準となっている「宴のあと」事件(東京地判昭和39・9・28)というものがある、という紹介をしました。

そうしたところ、この事件はどういうものだったのかという質問がありましたので、解説してみようと思います。

■「宴のあと」事件とは

「宴のあと」というのは、三島由紀夫の小説です。

この小説は、いわゆるモデル小説で、昭和34年の東京都知事選で敗れた元外務大臣とその妻で料亭の経営者である女性をモデルとしたものです。

小説中でモデルとなった人物の本名は出てくるわけではないですが、モデルとされた側が、私生活を「のぞき見」し、もしくは、「のぞき見したかのような」描写を公開されたとして、謝罪広告と損害賠償の請求を行った事案です。

■モデル小説とプライバシー

モデル小説は、事実報道やルポルタージュとは異なり、ストーリーを作者が創作することが通常です。つまり、モデル小説は、ある部分は実在のモデルや出来事に依拠しつつ、ある部分については創作である、という形になっています。

そうすると、創作部分については私生活を暴かれているわけではないので、プライバシー侵害が成立するのかという疑問も生じるところです。

しかし、東京地判昭和39・9・28は、

「モデル小説の一般の読者にとつて、当該モデル小説のどの叙述がフイクシヨンであり、どの叙述が現実に生起した事象に依拠しているものであるかは必ずしも明らかではないところから、読者の脳裏にあるモデルに関する知識、印象からら推して当該小説に描写されているような主人公の行動が現実にあり得べきことと判断されるかぎり、そのあり得べきことに関する叙述が現実に生起した事象に依拠したものすなわちフイクシヨンではなく実際にもあつた事実と誤解される危険性は常に胚胎しているものとみなければならない」

として、創作部分についてもプライバシー侵害が成立し得ると考えています。

そして、プライバシー侵害の要件の一つめとして、私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれのあることがらであること、とされています。

このように、本当のことじゃないからプライバシー侵害にならないと思って好き勝手に書いてしまっても、プライバシー侵害となるということは意外と意識されていません。

何かを書き込む際にはこの点も意識する必要があるでしょう。

*著者:弁護士 清水陽平(法律事務所アルシエン。インターネット上でされる誹謗中傷への対策、炎上対策のほか、名誉・プライバシー関連訴訟などに対応。)

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