オランダの「寿司食べ放題」で嫌がらせ?巨大握りを出す意味とは

まぐまぐニュース! / 2015年10月11日 0時0分

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ヨーロッパ在住の日本人たちが、その土地ならではのユニークな話題を、リレー形式で綴っていく『出たっきり邦人【欧州編】』。今回はオランダ在住のあめでおさんが、現地ですっかり定着しているという「食べ放題のお寿司屋さん」をご紹介。元を取るべく食べまくる客と、それを防ぎたい店側との“静かな攻防”とは?

注文の多い日本料理店

オランダ各地の日本料理店といえば、10年前なら、中国人などがやっている鉄板焼きのお店でした。日本の鉄板焼きではやらないアクロバット調理がお約束で、卵焼きを客の口めがけてシュートし、入っても外しても盛り上がるという、参加型(?)のレストランです。お店によっては、エプロン代わりにテラッテラの派手なサテンのKIMONOが配られ、みんな内心「えーー……」と思いながら袖を通します。はたから見ると、いい大人が無理やりパジャマパーティーに引きずり込まれたような有様で、哀れをもよおします。

そんな鉄板焼きは、料理の質と量に関係なくお値段が立派です。和食という肩書きがあるだけで値段を高くできたのも、日本食に関する一般人の知識が限りなくゼロに近かったからでしょう。和食好きであることが一種のセレブなステータスだった当時、鉄板焼きは、余裕のある人たちが、ちょっとわかった風な顔をして行くお店だったのです。でもそれでは、景気が悪くなると客足が遠のいていきます。

その後、All You Can Eat(食べ放題)スタイルのお寿司屋さんを街中で見かけるようになります。やはり、日本人以外のアジア人たちが手がけるお店ばかりで、大人1人25~30ユーロで2時間半食べ放題(ドリンク別)という、外食が高くつくオランダでは割とお得な設定です。メニューは、寿司に代表される冷菜と、肉・魚のグリルものが半々で、そこに数種類の中華デザートが加わります。定額で好きなものを色々と少しずつ楽しめるのが魅力で、米を主食としない現地人なら、寿司をいくつかつまんだ後は、温かい肉料理を食べたいので、このメニュー構成がぴったりくるようです。

リーマンショックがもたらした不景気の波にも後押しされたのでしょう、店舗数は着実に増えていき、最近のデータによると、全国で400店舗にまで膨れ上がっているそうです。九州くらいの国土に約1700万人が暮らす小さな国のことですから、なかなかの密集度だと思います。

たとえばオランダ南部のティルブルフ(Tilburg)市では、数年前からでしょうか、中心部の大通りにAll You Can Eatのお店が3軒も並びました。さすがに飽和状態になったのか、今年の6月には1軒閉店しましたが、その間に同じエリアにもう1軒できたので、中心部には相変わらず3店舗あるわけです。かつて紡績工場で栄えたこの町は、工場労働者が多く暮らしていたことから、オランダ南部の他都市に比べると外食文化が発達しておらず、また大学があって若い人も多いため、エコノミーな飲食店は新規参入しやすかったのかもしれません。しかし、この町で同じ商品を扱うお店がこんな風に並ぶとしたら、カフェか靴屋くらいでしたから、この人気は一種異様な現象です。

こうして、日本に縁も興味もない人たちが、手軽に寿司を食べられるようになりました。でも、日本食に対する認識が高まったかといえば、かなり個人差があるようです。相変わらず、寿司とは魚を生で食べる料理のことだと思っている人も少なくありません。寿司なんて食べそうもない若い男性が「寿司食いに行こうぜ!」と言って周囲を驚かした挙句、お店では寿司以外のものばかり頼んでいた、なんていう残念な笑い話もあります。そうやって、食べ放題の店寿司屋の代名詞になりつつあるようで、ちょっと寂しい気もします。

私も食べ放題の店には何度か行きました。いずれもオランダ南部ですが、初めて行ったのは、走りの頃にできたアイントホーフェン(Eindhoven)の某店、デンボス(Den Bosch)の1軒、アイントホーフェンにある別の2軒、そしてティルブルフの3軒。こうしてみると、結構あちこち行ってます。通算10回、平均年2回のペースです。お味のほうは、10年前の寿司を思えば最近はだいぶ良くなり、お店間の差もほとんど感じられません。きっと、食べ放題のビジネスモデルが定着したので、どこも同じような業者から素材を仕入れているのでしょう。

オランダのAll You Can Eatで一番思い出深いのは、食べ放題初体験で5年前に行ったアイントホーフェンの某「老舗」です。食べ放題だから、餃子の王将にいるようなツワモノたちの豪快な食いっぷりが拝めるのかと思いきや、周囲の客からは食欲を感じることすらできません。米を食べつけないせいか、お寿司1皿か2皿だけ、それもきちんと食べきっておらず、その他の品もおつまみ程度に頼むだけ。食べるよりもおしゃべりに忙しく、これでは元が取れないどころか、返って割高です。こんな客ばかりならお店も儲かってしょうがないだろうなと思いながら、ちょっとした使命感に燃えて、メニューにじっくりと目を通します。

ご存じの方もおられると思いますが、ここで説明を入れましょう。食べ放題には、どの店にも共通するルールがあります。注文は自分で記入した注文カードを店員さんにピックアップしてもらうのですが、2時間半の間に5ラウンド注文することができます。各ラウンド1人5品まで注文できますが、前のラウンドの注文品が全部出てくるまで、次のラウンドの注文をしてはいけません。注文した品は完食が義務付けられており、残した場合は罰金として、1品当たり所定の金額が追加で請求されます。

さて、食い意地の張った私と連れは、値段の高そうなネタを中心に、ひたすら寿司ばかり注文し、出てくるとあっという間に平らげ、また次の注文を入れます。米食に慣れた我々の腹には、寿司ならいくらでも入るのです。3ラウンドで30品の寿司を完食し、4ラウンド目もフルで10品、美味しかったものをリピートします。でも気のせいか、先のラウンドよりも出てくるのに時間がかかりました。店内の真ん中にある厨房エリアに目をやると、アジア人の調理人が2人、背伸びをしてこちらの様子を伺っています。「こいつらなんでこんなに食うんだ?」と言わんばかりの困惑した表情。特に連れがオランダ人のくせして寿司ばかり食べるから、余計に不安を煽ったのかもしれません。

しばらくすると、エビの握りが出てきました。2人とも、とっさに言葉が出ません。写真に撮っておいたらよかったといまだに後悔するような、それはそれは立派なエビの握り……いや、エビのおにぎり、と呼ぶべき物体でした。シャリの分量が通常の3倍くらいで、それはもう、猫の背中のようにこんもりとしています。そして上に載っているのは、いつも通りのペラペラなエビが一枚。なんだかトラ猫みたいにも見えますが、「これ以上食うな」という、厨房からの直球メッセージです。さすがの我々も、エビの酢飯おにぎりを食べるとほぼ満腹ラインに達し、5ラウンド目に駒を進めることはできませんでした。

「天網恢々疎にして漏らさず(天の報いは遅くとも、悪事は必ず罰せられる)」とはよく言ったもので、そんな我々の意地汚さにも、天罰の下る日がやってきます。

先日行ったティルブルフの某店で、食べ放題10回目にして、初めてややこしい目に遭いました。食べ放題のシステムは分かっているつもりだったので、このお店に入ったときも、特に店員さんにルールを説明してもらうことなくスタートしました。……が、前のラウンドの注文品が全部出てくるまで、次のラウンドの注文をしてはいけない、というルールをすっかり忘れていたのです。

1ラウンド目の注文をすると、店員さんがオーダーを通して、注文カードを返してくれます。頼んだものがいくつか出てきたので、それを食べてから2ラウンド目の注文を記入しました。1ラウンド目の注文品がまだ全部来ていないうちに、注文カードがまたピックアップされます。1ラウンド目の残りの品はすぐに出てきたので、その時点ではまだ順調でした。

2ラウンド目でも同様に、半分くらい出てきたところで3ラウンド目を注文し、3ラウンド目の品が出はじめたところでまた4ラウンド目を注文します。ぼさっと何も考えずに、出されるものを順番に食べていただけだったので、「あれ?」と思ったのは、4ラウンド目の注文を通してもらって、カードが返ってきたときでした。

3ラウンド目に頼んだ品が半分くらい出た辺りでしたが、2ラウンド目の品がまだ全部来ていないことに気づいたのです。(もっと早く気づけよ!!)と自分にツッコミを入れながら、4ラウンド目の注文が全部腹に収まるだろうか、と内心かなり焦りました。

言うまでもなく、ルールを忘れて注文しすぎた我々がすべて悪いのですが、お店の人が誰も我々の間違いに気づいていなかったのが不思議でした。でも店内を見渡せば、その理由はすぐに分かります。3人のホールスタッフが、1人は注文カード係、1人は料理のお運び係、1人はドリンクのお運び係に割り当てられていて、完全に流れ作業です。各テーブルの進捗状況把握している人誰もいません

厨房も、各テーブルのオーダーをラウンドごとに管理するのでなく、入った注文を手当たり次第に調理して、出来たものからどんどん流しているだけのようです。チェック機能がなく、お客がルールを守るのを前提にしている緩さは、良くも悪くもオランダ的ですが、トラブるとかなり混乱します。

錯綜している注文状況を確認しようと、連れがカウンターに出向きましたが、なかなか戻ってきません。注文の通し漏れがあったのか、どの品がまだ出ていないのか、すぐに分かる人が一人もいなかったのです。すったもんだの末ようやく確認が取れて、2ラウンド目と3ラウンド目の残りの品は全て出してもらい、4ラウンド目を全部キャンセルすることで交渉成立となりました。しかし、連れが戻ってくるのを待っている間に、行き違いで4ラウンド目に注文したキュウリの浅漬けがやって来たのです。しかも、不自然なほどに山盛り…。前のラウンドがまだ終わっていない状況でこれを食べたら、完全に土俵を割ってしまいます。

よもや4ラウンド目をキャンセルできるとは夢にも思っていませんから、これはもうどこかに捨てに行くしかない、と覚悟を決めました。頬っぺたが膨らまないように注意しながら、キュウリをめいっぱい口に詰め込み、平静を装って女子トイレへ。乱切りのキュウリたちがぷかぷかと白い便器に浮かぶ光景は、ちょっとシュールでしたが、やがて渦を巻いて姿を消しました。残りのキュウリは連れが平らげてくれたので、トイレ2往復の刑は免れましたが、食べ放題の奈落に落ちたような気分で、すっかり情けなくなりました。

こういう経験をすると、改めて、アイントホーフェンの新しい某店は、格段に便利だなと思います。注文に使うのが紙の用紙ではなくiPadなのです。入店するとテーブル毎にiPadが支給され、あとは画面の指示に従ってラウンドごとに注文するだけ。広い店内で店員さんをつかまえる手間は省けるし(これかなり重要)、注文データは直接厨房に飛ぶので、iPadが正常動作している限り注文の漏れは一切ありません。お店側も注文状況をリアルタイムで正確に把握できるし、在庫管理にも大いに役立つでしょう。

さらに、注文にかかる時間が圧倒的に短縮されるため、他店に比べて料理が出てくるのも早い。ただ、広い店内がほとんど一杯になる金曜や土曜の夜などは、厨房がかなりの修羅場になるようです。2度目に行ったのがたまたま金曜の夜でしたが、カリフォルニアロールを頼んだら、ゴミみたいな切れ端が出てきて、厨房の断末魔を聞いた思いがいたしました(笑)。そんなわけで、どこも一長一短ですが、食べ放題に多くを求めるのがそもそも間違っているのです。

食べ物をいただくときは、感謝してゆっくり味わい、腹八分目でやめておく。それは、食べ放題のお店でも忘れてはいけないことなのだと、今回の失態で思い知りました。

休暇太りした腹を抱えて猛省しつつ、今日はこの辺で。

(オランダ・アイントホーフェン郊外 あめでお)

image by: Shutterstock

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