中野に行ったら立ち寄りたい、怪獣たちのいるところ

まぐまぐニュース! / 2015年8月6日 0時0分

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「たかじんNOマネー」などの構成作家として知られる放送作家の吉村智樹さんが、街で出会ったユニークなスポットや人を紹介してくださる無料メルマガ『「まちめぐ!」吉村智樹の街めぐり人めぐり』。今回吉村さんが足を踏み入れたのは、真っ赤な怪獣が出迎えてくれる「大怪獣カフェ」ですが…、そこには想像をはるかに超える「愛情」があふれていました。あのマツコ・デラックスも乱入してきたんだとか!?

東京 夜の巷に蠢く怪獣たち

東京には、地元の寺や神社の名前がそのまま冠された駅がいくつもある。

たとえば、かつて僕が事務所を構えていた高円寺がそうであるし、同じJR中央線には国分寺という駅がある。そしてやっぱりそれぞれ、駅から徒歩圏内に同名の寺が建っている(とはいえ、なぜか吉祥寺の駅前には吉祥寺という寺がないのだけれど)。

ほか、高幡不動、祐天寺、泉岳寺、Let’s豪徳寺! などなど地方から訪れた僕にでも、駅名を見ただけでそこが門前町であることがわかるのがありがたい。

また、そういった街は参詣道がそのまま商圏として発達しているため、駅前には高確率で、歩いているだけで心がほどける、のんびりムードの商店街が横たわっている。このように参道と商店街が一体化しているゆえにシャッター通り化が食いとめられているのが、東京の街の大きな魅力のひとつ。

中野区にある西武新宿線「新井薬師前」駅もそう。

駅名となった新井薬師寺のご神体は、眼の病を癒す神様として地域住民から永く愛されている。

陽が暮れても閉門しない新井薬師寺。眼の神様だけに、夜も提灯をともしてくれて見えやすい。

 

しっとりとした風情のある境内。

そして駅の南口からはL字型に広がった商店街があり、およそ100店舗もの小売店や飲食店がひしめいている。毎月8の日には商店街で縁日が開かれ、さらに第1日曜日には骨董市が催される。盆おどり桜まつりなど季節ごとのイベントも行われ、深いおもむきを味わうことができる。

場所だけで言えば、背伸びをすれば都庁のビルが見えるほどの都心部なのに、このようなほっこりエアポケットがあるなんてにわかに信じがたい。ここは都会の絵の具に染まっていない都会なのだ。

「新井薬師前」駅から続く通りは、ご年配のユーザーが多い参詣道との一体型商店街なので、店じまいは早い。早稲田通り1本隔てただけで中野駅前の不夜城的大歓楽街が現れるのだが、そこでのどんちゃん騒ぎの声など、ここにはまったく届かない。まるで別の宇宙のできごとかのように街は早々に寝息を立て、ひそやかでおだやかな空気感に包まれている。

明るくも暗くもない、絶妙にメロウな色あいの街燈。

 

「皆様の泥棒」。ねずみ小僧?

 

二次元怪獣ガヴァドンの目を思わせる、抽象アートな窓。

 

遺伝子組み換えの疑いがある果樹。

こうして夜の新井薬師を徘徊すること5分。西武新宿線「新井薬師前」駅からJR「中野」駅方向へと歩いてゆくと、商店街「新井薬師商店会」はカックンとL字に折れ、「薬師あいロード」と名を変える。そしてあいロードに建つマンションの地下から漏れる灯りに誘われて足を踏み入れると、そこには、この世のものとは思えない真っ赤な生き物が立っていた。

マンションの地下で、赤い怪獣の女子がお出迎え。

このぽかんと口を開けた怪な獣がお出迎えするこのスポットの名は「大怪獣サロン」。お昼はカフェ、夜はBARという、ウルトラ怪獣ザラガスのように変態を遂げる社交場だ。

なかに入ると、そこには、カウンターにテーブルに鴨居にと、色とりどりなソフトビニール製怪獣がぎっしり並んでいた。

ソフビ人形がたくさんあるが、ディスプレイが端正で、店内は明るく清潔。

 

怪獣好きたちが集まり、怪獣が活躍(?)する映像を鑑賞中。

 

カウンターの上は怪獣のデザイン博状態。まさにカウンター・カルチャー。

 

店のいたるところで息づく半ブキミ半かわいい怪獣たち。どれも見たことがないデザインばかり。それもそのはず……。

どれも心のなかに隠しておいた「ひみつきち」を開けてしまうほどのワクワクを禁じ得ない、おぞまし&かわいいフォルム。ここはキモ愛らしい極彩色クリーチャーたちに囲まれてお茶やお酒、バツグンにおいしい軽食をいただけ、さらに同好の士たちとの話がはずむ、大人も子供も、そして「おとなこども」も楽しめるお店だ。

しかしながら、ここは単なる「怪獣酒場」ではない(単なる怪獣酒場という言い方もヘンだけれど)。いまでは飲食業界のいちジャンルをなすほどになった、昭和時代のヒーローグッズを並べたレトロ系の居酒屋とは、まるで趣旨が違う。決定的に違うポイントは、これら怪獣が「オリジナル作品」であること。ここは、新進の作家たちがうみだしたオリジナル怪獣が常設展示された、おそらく日本で唯一であろう、怪獣芸術のギャラリーカフェなのだ。そして、怪獣がオリジナルなのだから、特撮番組の専門知識が皆無であっても臆することなく入店できるのがうれしい。

ここ「大怪獣サロン」のオーナーは、中野貴雄さん。秘宝的映画好きなら知らぬ者なしの、泣く子も濡れる映像クリエイター。ピンク映画や「サワリーマン金太郎VS痴女軍団」「花弁の忍者 桃影 忍法花ビラ大回転」などなどお色気Vシネマの演出や脚本、また、キャットファイト団体「ギャルショッカー」を起ちあげバトルライブイベントを興行するなどなどモンドな世界で名を馳せ、現在は7月14から放送を開始した「ウルトラマンX」(テレビ東京系)の構成と脚本を担っている。

「むかしは特撮ヒーローもののエロなパロディをやっていた人間が、いまは公式にウルトラマンの本編に携わっているのですから、人生は何があるかわかりませんね」

中野さんは、しみじみとそうつぶやく。

映像クリエイターの中野貴雄さん。手に持つのはウレタンやラテックスで自らつくったかぶりもの「カエル怪人ゲロゲラー」。

そんな中野さんがこの大怪獣サロンを開いたきっかけは、とても意外な理由だった。

「僕はいま52歳で、糖尿病なんですよ。原因ですか? お酒はそんなに飲まないんですけれど、永年の不摂生がたたりましてね。一種の職業病です。それで妻(キャットファイターの春咲小紅さん)が僕の身体を気遣って、野菜がたっぷり入ったカレーなど、健康的なメニューをたくさん作ってくれるようになりました。これがとっても美味しくて、仲間からも評判がよくってね。『だったら70年代の怪獣ブームに影響を受けた人が集まって、美味しいものが食べながら語りあえるスペースを作ろう』と思ったんです」

なんときっかけは、糖尿病。

確かにやつは、倒すのは不可能に近いと言われるしぶとい強敵怪獣だ。

そうしてレセプションオープンしたのが2011年の6月。

はじめは現在のこの場所とは違い、お隣のBARを水曜日だけ間借りしていたのだそう。

「はじめから怪獣というコンセプトでしたね。ただ、現在よりずっとマニアックな雰囲気でした。敷居が高い? 敷居が高いって思われがちですけど、僕ら、普通のBARの方がよっぽど入りにくいですよ。ぜんぜん知らない単なる呑み屋って、入れます? 僕はコンセプトBARの方がお客さんが入りやすいと思ったんです」

確かに! 街はずれの、なんてことないBARのほうが情報なさすぎて圧倒的に入りづらい。怪獣という誰もが知るコンセプトがあるからこそ、むしろお客さんを選ばないのだ。

中野さんのこの読みは的中。目にも楽しくて、味がいいBARとして口コミで広がり、遂に今年の3月11日、基本全日営業の新生「大怪獣サロン」が雄たけびをあげることとあいなった。おいしい料理をふるまう奥様のほか、怪獣作家のピコピコさんもスタッフとしてカウンターに入っている。

サンバイザーの男性が調理も担う天才怪獣芸術家のピコピコさん。カウンターのスキンヘッドの方が奥様。

 

名物の、ピコピコさん監修による大怪獣サングリア「ピコグリア」(500円 おつまみつき)。冷たく、ほの甘く、フルーティで、ごくごく飲めちゃう。水のない惑星に不時着したジャミラに飲ませてあげたい。

 

奥様特製。野菜たっぷりでデラ絶品な「大怪獣カレー」(800円)。

 

ガラスケースにはピコピコさんの作品がずらり並んでいる。

 

ホルモン丸出しのガッキーくん。ハーフ&ハーフなカラーリングで気持ち悪いけど、アメリカのガムみたいでおいしそう。

 

ベロチューが上手そうな怪獣「ベッコス」。

 

マドラーまでオリジナル!

 

ほしい! オリジナル怪獣の湯呑み。

 

ここでは中野さんの過去の作品も写真で振り返ることができる。 たとえば、パチモン駄文具の「ぬりえ」表紙をまさかの実物化!

「新装の際は妻のアイデアをたくさん採りいれ、明るくて風通しのよい店になりました。BARだけではなくお昼から夕方のカフェタイムを設けたので、怪獣や特撮のファンだけではなく、ご近所のお母さんがたがお子さんとお見えになって、にぎわっています」

カウンターで調理も担当する怪獣造形作家のピコピコさんによる工作のワークショップも開かれ、新井薬師に現れた怪獣は、意外にもこの街の住民に愛されている様子。

気になるのは、展示作品。これらソフトビニール製の怪獣たちは、どういったいきさつで集まってきているのだろう。

「ピコピコさん以外にも、怪獣のオリジナルソフビ(ソフトビニール)を作るお客さんが5、6人いて、その方々の作品です。ソフビのイベントがあって、そういうところで知り合うんです。本職はそれぞれ彫金師やCMディレクターなど、ばらばらですね。そんな人たちが自分でデザインをし、下町の工場に交渉して作ってもらったり。オリジナルソフビの魅力ですか? やっぱり著作権がオールクリアなところですね。自分の作品なんですよ。ですから、コレクションとはまた違った喜びがあります」

ここに並ぶ怪獣たちは、言わば作家たちが目に入れても痛くないほどかわいい我が子。それゆえこのサロンは情愛に溢れていて、いるだけでおだやかな気持ちになる。そしてそれは、表に立つ、ユーモラスな造形の、あの謎めいた赤い怪獣によるところも大きい。

「あの娘はピコピコさんがデザインした、小悪獣ムーチョという名前のホステスです。お父さんはタコでお母さんが金魚というハーフなんです。そうだ、今日はたまたまスーツアクターの方がいらっしゃっているので、かぶっていただきましょう」

え! 実際に動かせるのですか?!

支柱からはずすため、奥様から思いっきり口に手をつっこまれるムーチョちゃん。

 

上半身をはずすのもふたりががり。

 

おほほ。偶然いらっしゃっていたスーツアクターの方が中に入り、いっそうチャーミングに。

そうして小悪獣ムーチョは「中の人」の飛び入りで命を宿し、プリティなしぐさで僕を悩殺した。

こんなふうに笑みが絶えない空間にいて、中野さんは目を細めながら、再びしみじみとこうつぶやいた。

「副業を始めようと思ったのは、正直言って、本職がうまくいかなくなっていたからなんです。2011年頃からVシネ業界、AV業界がほんと景気が悪くなって、仕事がなくなってきていたんです。追い討ちをかけるように東日本大震災が起きて、あれが決定的でした。業界が先細りなんで、『別口の仕事を探さないと……』と考えて、この店を始めたというのも動機のひとつなんです。しかしお店を開いたら、とたんにウルトラマンの仕事が来たり、忙しくてなかなか顔を出せないほどになってきて。風向きが変わって、ほんと、不思議なんですよね」

思えば怪獣のデザインというのは、クリエイティビティのかたまりだ。二次元怪獣ガヴァドンのように、純度の高い創造物がいつか魂を宿し、ここに集っているのでは。そして人間たちに熱い息を吐きかけ、闘いを挑んでいる。怪獣たちがあげる気炎が、人間たちの運気をも燃えあがらせようとしているのかもしれない。

いやあ、眼の神様がつかさどるこの新井薬師で、いい眼の保養になったなあ……と感動していた矢先の突然、それまで外で夜の巷を徘徊していた怪獣が、デラックスな体躯を揺らしながらのしのし店へと入ってきた。

大怪獣サロンに突然入ってきた怪獣。

ガチのノンアポロケだ。

タレントさんの写真を勝手に載せていいかどうかわからないので目線を入れておいた。怪獣が魂を宿す場所には、やはり怪獣が吸い寄せられるのだな。東京ならではのサプライズ。こんなことに出くわすなんて、夜ふかしはしてみるものだ。

●大怪獣サロン

東京都中野区新井1-14-16

ライオンズマンション中野第5 B-101

03-5318-9980

営業時間 平日15時~23時

土曜、日曜、祝日は13時~23時

18時以降はBAR TIME

不定休

「お写真、撮らせてください」と頼んだら、とっさにレジ袋をかぶったお客さん。大怪獣サロンの夜はミステリアス。

 

『「まちめぐ!」吉村智樹の街めぐり人めぐり』

放送作家の吉村智樹とイラストレーターのせろりあんが散歩や小旅行で出会った心くすぐられるスポットやユニークな活動をしている人物を紹介する旅情あふれるメールマガジン。画像満載でお届けします。

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