読売は記事を読ませたくないのかも…新聞各紙の安保特別委員会の伝え方

まぐまぐニュース! / 2015年8月27日 19時50分

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26日に行われた参院安保特別委員会の一般質疑で、野党議員の質問に矛盾だらけと取られても致し方ない答弁に終始した中谷防衛大臣。主要新聞各紙はこの件についてどう報じたのでしょうか。ジャーナリストの内田誠さんがメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ』で比較・分析しています。

参院安保特別委員会の一般質疑、新聞各紙はどう伝えた?

今朝の各紙が、共通して重視しているのは……。

1つは国会の審議のなかで飛び出した防衛大臣の答弁を巡る問題。集団的自衛権行使のわずかな実例として安倍氏がパネルを使って説明した「米艦防護」のケースで、「存立危機事態」をどのように判定するのかということについて、「邦人乗船は絶対条件ではない」と発言してしまった問題です。もう1つは生命保険業界の大きな動きについての続報。

1面トップは……。

《朝日》…「集団的自衛権 揺れる事例」

《読売》…「日生 国内外で買収攻勢」

《毎日》…「ガザ 遠い復興」

《東京》…「困窮家庭「子どものご飯どうしたら」」

《朝日》《読売》は、それぞれ今日の2大テーマを1面トップにしていますが、《毎日》《東京》は緊急性のあるテーマではないと判断したのでしょう。同じく、今日でなければならないテーマではないですが、もっと大きな本質的な問題があるということでしょう、イスラエル軍に破壊されたガザの状況と、日本国内の貧困家庭の問題をそれぞれトップにしました。ただ、両紙とも「2大テーマ」については重視もしていて、生保について《毎日》は1面、《東京》は7面経済面に、そして集団的自衛権について《毎日》は5面に、国会関係の様々な情報として、《東京》は1面左肩に大きく取り上げるほか、解説では別角度からも取り上げています。

解説面は……。

《朝日》…「生保 細る国内市場」

《読売》…「中国「大技」鈍い反応」

《毎日》…「首位陥落 交渉一気に」「日生、三井生命買収へ」

《東京》…「「海外で武力」は戦争」

今朝はまず、「集団的自衛権」に関わる基本的な報道内容を昨日の国会審議を中心にして整理し、そのうえで各紙の扱いを比較することにします。一部、「集団安全保障」に関しても議論がありました。

基本的な報道内容

26日の国会審議で、昨年5月の記者会見以来、安倍氏が集団的自衛権行使の具体例として、米艦に輸送される日本人母子を描いたパネルを使って強調した「米艦防護」につき、中谷防衛相は「邦人が米艦に乗っているかどうかは(行使条件の)絶対的なものではない」と述べた。安倍氏は「日本人の命を守るため、自衛隊が米国の船を守る」と言っていたので、基本的な前提が崩れてしまった形だ。

この答弁のもとになった民主党大野元裕議員の質問は、朝鮮半島有事の際でも、日本人が米艦で朝鮮半島から退避するだけでは「存立危機事態」にあたらないのではないかというものだった。中谷防衛相は「総合的な判断」を繰り返したため審議は紛糾、その後に「邦人が乗っているかどうかは判断の一要素だが、絶対的なものではない」と答弁。大野氏は「女性や子どもを使って国民感情に訴え、立法事実を覆い隠すのは姑息なやり方だ」と批判した。

集団的自衛権行使の条件が曖昧になる中、安倍氏は公海上で弾道ミサイル対応にあたる米イージス艦の防御について強調することが増えている。米艦が破壊されれば日本の存立が脅かされるという。しかし、イージス艦は艦隊の一部であり、自衛隊が防護する必要はもともとないという指摘を、政府は否定できないでいる。

岸田外相は審議の中で、「武力行使の新3要件」が満たされれば、国連安保理の決議に基づく集団安全保障での武力行使に当初から参加できると答弁した。これまでは日本が自衛権の行使途中で集団安全保障に切り替わった場合のみ参加できると説明してきたが、この日の答弁は日本が自衛権を行使する前でも、国連決議を根拠に武力行使が出来るとした。

存立危機事態の認定について、政府は他国の要請や同意が前提と説明しているが、6月に礒崎陽輔首相補佐官が自身のツイッターで、「条件ではない」と書き込んでいた問題が、委員会審議の中で指摘された。中谷防衛相は「政府の方針と異なると言っても致し方ない」と答弁。鴻池委員長は記者団に対して、「あの日に腹切っておけばいいんだ」と語った。

ということで、以下、個別に。

今頃ホルムズ海峡の話ですか…

【朝日】は1面トップでこの問題を正面から扱っている。そのうえで、3面と4面、38面に関連記事を置く。

3面記事は、「ホルムズ封鎖にも疑問」として、原油の輸送にはパイプラインが代替手段になり、しかも穏健派の現ロハニ政権は対話路線で、機雷封鎖の危険は非常に低いとする。さらに、テヘランでイランの軍事・安全保障政策の責任者にインタビューし、封鎖を否定する発言を引き出している。

uttiiの眼

安保法案の採決を巡る攻防が激しくなるこの時期に、1面トップに集団的自衛権を巡る安保法制の滅茶苦茶ぶりを指摘する記事を載せていることには敬意を表する。何時間議論しようが、こんな不体裁でいい加減な法律案は、サッサと廃案にすべきだし、そのような世論が非常な勢いで強まっていると思う。しかし、《朝日》の記事はもうちょっとなんとかならないものか。

3面のホルムズ海峡に絡む話は全くその通りなのだろうが、完全にタイミングを逸している。既に国会の中では安倍氏自身、ホルムズ海峡のことについてはもう言わなくなっている。代わりに出てきたのが南シナ海についての中国による機雷封鎖とそれに対する機雷掃海云々だ。南シナ海の機雷封鎖も不可能だと言われており、空疎な話なのだが、いくらなんでもホルムズ海峡の話は古すぎる。

だんまりではないが…

【読売】の安保法案関係の記事は2面に3件。1つは、新たに可能になる後方支援として米軍等に弾薬などを提供する具体例について、中谷氏が「拳銃や小銃、機関銃などの弾薬」を上げたという。「核兵器などの大量破壊兵器やクラスター弾、劣化ウラン弾を提供することはあり得ないし、我が国は保有していない」と強調したとする。その後に、《朝日》が1面トップとした「米艦防護の判断に邦人乗船の有無は判断要素の1つだが絶対的なものではない」と述べたことも伝えている。

あとはBS日テレに公明党の山口代表が出演して安保法案を成立させる決意を述べ、大半の創価学会員から法案への賛同を得ていると話したこと。もう1つは「安保 ポイント解説」で、「戦闘現場以外なら一体化の恐れなし」という、安倍政権の説明を載せている。

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《読売》はこの「米艦防護」に関して国会が紛糾したにもかかわらず、通り一遍の情報しか掲載していない。僅か400字ほどの短い記事に、他の論点との合わせ技になっていて、全く重要視していない、いや、この部分を読者に読ませる気がないかのように感じる。

集団安全保障の方が気になる?

【毎日】は2面に、集団安全保障に関する審議の内容を載せている。他紙にはこの内容は見当たらない。「武力行使の新3要件」が満たされれば、国連安保理の決議に基づく集団安全保障での武力行使に参加できる、それはしかも、日本が自衛権を行使する前であっても、国連決議を根拠に武力行使が出来るとした。

それ以外には5面に安保法案採決を巡る問題、民主党が、不規則発言など、審議中の首相の態度について抗議し、自民党も陳謝して再発防止を約束したとの記事。北沢俊美理事は「これ以上委員会に相応しくない態度なら、頭を冷やしてもらうため委員会を休ませていただきたい」と審議拒否の可能性に言及したという。

さらに、鴻池委員長の「あの日に腹を切っとけば」発言についても。

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今朝の《毎日》は、不思議なことに《朝日》がトップに持ってきた「米艦防護」の話を載せていない。代わりにというわけではないだろうが、岸田外務大臣の発言についてはスペースを割いている。どうも、集団的自衛権の話よりも集団安全保障やPKOの方に関心が向いているように感じる。確かに、朝鮮有事を含め、集団的自衛権の行使の場面には現実性が薄い。安保法制が成立した場合に、真っ先に具体的に問題になるのは、南スーダンPKOであることは既に指摘されている。《毎日》はかなり以前から南スーダンの取材にも力を入れているようだから、編集部の中に、そうした取材の方向性に関する共通理解があるのかもしれない。

戦争法案で間違いない

【東京】は《朝日》と同様の記事を、1面左肩に置いている。中谷答弁に対する大野議員の批判も載せているのが特徴。政府によるこれまでの説明と、26日の答弁の内容を図で比較している。

関連して、2面の解説記事「核心」で、「首相の『戦争法案でない』発言を考える」と題して、安保法案は戦争法案だと考えるか否かについて、4人の識者に意見を求めている。4人は、立教大学の西谷修特任教授(比較文明学)、現代史家の秦郁彦氏杏林大学の金田一秀穂教授(日本語学)、漫画家の小林よしのり氏

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大野議員の指摘は重要だ。「女性や子どもを使って国民感情に訴え、立法事実を覆い隠すのは姑息なやり方だ」というのは本質的な批判で、この法案全体について立法事実が曖昧であり、立法の必要性がそもそも説得力を持って政府から語られていないという、あり得ないことが起こっていることを示している。安倍氏の説明が嘘だったという書き方をしてもよかったのではないかと思うほどの事態。

2面の記事については、小林よしのり氏1人にインタビューした方が良かったのではないかと思った。他の人もそれなりに興味深いことを言ってはいるが、全体に論点が散漫になっているように感じた。

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『uttiiの電子版ウォッチ』2015/8/27号より一部抜粋

著者/内田誠(ジャーナリスト)

朝日、読売、毎日、東京の各紙朝刊(電子版)を比較し、一面を中心に隠されたラインを読み解きます。月曜日から金曜日までは可能な限り早く、土曜日は夜までにその週のまとめをお届け。これさえ読んでおけば「偏向報道」に惑わされずに済みます。

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