「独裁政治の始まり」とも。安保国会最終盤を新聞各紙はどう伝えたか

まぐまぐニュース! / 2015年9月16日 10時40分

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与党が週内に成立を目指している安保法案。国会前だけでなく全国で連日抗議デモが開かれるなど、とても国民の理解を得られているとは言いがたい状況の中、17日には参院本会議で採択が行われようとしています。この一連の流れを新聞各紙はどう伝えたのでしょうか。ジャーナリストの内田誠さんがメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ』で比較・分析しています。

採択迫る安保法案、新聞各紙はどう伝えたのか

今朝の各紙が、共通して重視しているのは……。

第1に、採決が近づく「安保法案」関連

第2に、消費税10%時の還付金案と軽減税率案

の2つです。

1面トップは……。

《朝日》…「自公、『週内成立』を確認」「参院委きょう総括質疑」

《読売》…「軽減税率導入を検討」「今秋とりまとめへ」

《毎日》…「参院委きょうにも採決」

《東京》…「深まる疑念 矛盾」「安保法案 きょう審議打ち切り」

ということで、いよいよ採決が迫ってきた「安保法案」について、《読売》を除く3紙が1面トップです。《読売》さすがに今日は1面の左肩に「安保法案きょう最終質疑」との見出しで記事を置いています。

解説面は……。

《朝日》…「最終版「違憲」次々」

《読売》…「財務省案 公明が危機感」「「選挙戦えぬ」「消費者に負担」」

《毎日》…「与党「国民負担大きい」」「財務省還付案困難に」

《東京》…「安保デモ拡大 市民続々」

ということで、《朝日》と《東京》は1面トップに対応して安保法制関連、《読売》も1面トップに対応の形ですが中身は軽減税率。《毎日》は1面左肩に載せた軽減税率関連の記事に対応した解説ですが、強烈な社説を1面中央に持ってきています。

ということで、「安保法制」に関わって各紙は何をどのように伝えたか、比較分析します。

基本的な報道内容

ここは試みに、項目的な整理に止めます。

1.中央公聴会について 6人の公述人/SEALDsの奥田愛基さん他

2.国会内情勢、修正協議など 次世代の党など3党が修正合意

3.国会前を中心とした安保法案反対の集会 連日の抗議運動

4.論点のまとめ

以上の4点を基本に、各紙の取り上げた内容を整理しましょう。

そもそも集団的自衛権の出発点は?

【朝日】は1面で国会内情勢について、与党が17日参院本会議での採決を目指していること。野党は内閣不信任決議案や問責決議案などを提出して抵抗する考えであること。与党は遅くとも週内には採決できると踏んでいることなどを記す。左肩には昨夜国会前に集まった抗議の声を上げる人々の写真。さらに、中央公聴会の概略についての記事。関連は、2面の「時時刻刻」、4面に中央公聴会の発言一覧、16面社説「国会は国民の声を聴け」、39面社会面に「憲法の危機」と題する記事。

「時時刻刻」の見出しは、「最終盤『違憲』次々」。中央公聴会の模様を伝えるが、「国会の最終盤に来て、なお、法案の合憲性や必要性など根幹部分に疑問が突きつけられているが、自公は採決に突き進もうとしている」とする。

uttiiの眼

今回の中央公聴会は、法案に反対する側が特別に華やかだった。お馴染みの憲法学者、小林節氏に加え、SEALDsの奥田愛基氏、もと最高裁判事の浜田邦夫氏、さらに国際法学者の松井芳郎氏がいたからだ。浜田氏は「砂川判決」を集団的自衛権の根拠にしようとすることに対して、「法律専門家の検証に耐えられない。裁判所では通らない」と指摘。これは、法案が仮に成立した後の違憲訴訟で大きな意味を持ってくる発言。

松井氏の議論で《朝日》が紹介しているのは、武力紛争時に攻撃目標となる軍艦を使って民間人を退避させるなどということは考えられないと、政府の想定を批判した部分。これも重要だが、松井氏はもっと凄いことも言っていて、そこは4面の発言一覧で紹介されている。松井氏は「そもそも集団的自衛権は、先進国が海外の帝国主義的な権益を守るために考え出した概念であるという出発点をおさえておく必要がある」と発言した。憲法上認められるか否かという話の前に、そもそもそんな権利を国家が当たり前に持っているとすること自体に深刻な疑問が呈されていることになる。その他、小林氏は「政治家が憲法を無視することは独裁政治の始まりだ」と批判、奥田氏は「国会を異例の9月末まで延ばした結果、国民の理解を得られなかったのだから、廃案しかない」とした。

最後に、この中央公聴会では国会への「警告」も発せられたと《朝日》は記している。小林節氏が「まずは次の参院選、最終的には衆院選国民が賢い判断をすると思っている」と言ったこと。また浜田氏も法案の是非は国政選で決着をつけるべきだとして「一番早いのは選挙だ。主権者たる国民が審判を下すと、一人ひとり肝に銘じて審議してもらいたい」としたことを指している。

「採決の前提」となる儀式とみなされ、まともに報じられることがなかった中央公聴会が、これほど大きく報じられたのは初めてのことではないだろうか。いかに異常な事態が進行しているか、そのことの1つの証左なのだと思う。

不信任、問責が当然では?

【読売】はまず1面左肩の短い記事でこの問題を伝える。見出しは「安保法案きょう最終質疑」。その最後のブロックには、「国会関与の拡充など野党3党と大筋合意」の小見出しで、次世代の党など野党3党が法案に賛成することを記している。維新の党との修正協議は決裂したとも。

関連記事は2面に修正協議についての短い記事。そして4面の政治面。見出しは「与党『連休前』成立方針」。

uttiiの眼

政治面の関連記事には、縦書きの見出しで「野党連携 引き延ばし策」とある。問責や不信任の動きを《読売》流にまとめればこういうことになるのだろう。だが、憲法違反の法律案を無理矢理通そうとする行為は、衆院では不信任、参院では問責に値すると言われても仕方あるまい。

《読売》にとって、次世代の党ら3つの小政党が修正協議の末、法案に賛成することになったのは慶事の極みなのだろう。1面、2面、4面の3つの記事のすべてにこの旨の記述がある。ちょっとしつこいくらい。これで強行採決の印象を薄めることができると与党は喜んでいるようだ。少なくともメディアは「自公だけで採決強行」と伝えることができなくなる。反対運動も沈静化するだろうということか。

しかし、《読売》によれば、与党が反発を押し切って締めくくり質疑を決めたのは「法案成立が連休にずれ込むと、反対運動が勢いづきかねない」と警戒しているからだという。この種の議論は各紙ともどこかで書いてきた話で、自民党は、これまでの運動の規模を大きく超える反対運動が起こる可能性を考えているということなのだろう。確かに、連休に入ってしまえば、明るいうちから家族連れで抗議行動に参加する人たちも増えるだろう。

しかし、最大の抗議運動は、法案が通った後に起こる可能性が高く、まさしく連休中は強行採決に対する抗議の声がそれこそ津々浦々に響き渡ることになる。そのことは、《読売》が何をしようが、もはや止めようがあるまい。

予言者・安部晋三

【毎日】は1面記事「参院委きょうにも採決」「与党、週内成立図る」の左隣に社説「法案成立に強く反対する」を置く異例の編成。5面の政治面には3つの小政党が修正協議の上、法案に賛成する話。

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1面の社説は激越だ。書き出しは「安部晋三首相は予言者になったつもりだろうか」。参院委で安倍氏が「成立し、時が経てゆく中において間違いなく理解は広がっていく」と述べたことを揶揄したのだ。提起された数々の異論に適切な反証ができていないのに、「いずれは分かる」と根拠なく言うのは、「国民を見くびる慢心の表れだ」と。

《毎日》は言及していないが、すぐに思い起こされるのは岸氏の発言だ。60年安保の時、安倍氏の祖父、岸信介氏は「声なき声を聴く」と言って火に油を注ぐ結果になった。今、岸氏の孫はそれ以上に不遜な態度で国会と国民を愚弄している。

この社説、全文引用したいくらいで、非常によく書けているように思える。日本の安保政策は「憲法9条と日米安保条約との強い緊張関係の下で成り立ってきた」のに、この法案が成立すれば9条の拘束力は極端に緩められてしまう。今国会で最も印象に残るのは礒崎補佐官の「法的安定性は関係ない」という発言。この言葉こそ、「法案の設計思想を如実に示している」という。この理解に共感する。

社説は後段で、「…国内に生じている亀裂を修復する展望を持ち合わせずに、時間が解決するのを夢想するのは許されない」と冒頭の論点に戻る。そして、「日本は今、戦後史の大きな分岐点にさしかかっている。自衛隊の創設や安保条約の改定に匹敵するかそれ以上だ。日本を傷付ける分岐になることを強く憂う」と締め括(くく)る。

フルスペック

【東京】はまず1面に「安保国会 論点進行表」を載せる。合憲性や集団的自衛権など5分野、10項目がまとめられている。この論点を検証すると、疑念や矛盾はいっそう強まる、とリードで前置きし、記事に入る。この記事の関連として、8面9面全部を使い、15週間に及ぶ国会の論点進行表が掲載されている。その他、2面に中央公聴会の詳報、3面解説記事「核心」は反対運動の盛り上がりについての分析、5面に社説「「民の声」に耳を傾けよ」、30面と31面の社会面には元裁判官75人による、法案を違憲とした意見書提出、国会前の昨日の動き、さらに、自ら残虐行為に手を染めた元戦犯の証言「間違って殺す それが戦争」の記事。

1面には公述人として発言するSEALDsの奥田愛基さんの写真があり、この奥田さんの全発言を6面に掲載している。他の5人については発言要旨のみ。

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全くのフルスペック対応。読みこなすのに大変時間がかかるが、この日の朝刊を持ち歩き、検証用に使うこともできるだろう。論点の解説に紙面を割き、奥田愛基さんの発言をすべて載せ、社説もこのテーマで対応する。論点に関しては、ここ数日の間に《読売》を除く各紙は似たような企画を立てるかもしれないが、《東京》が一歩先んじたというところか。

正直、この1面の体裁に関して言うと、あまりよくはない。だが、本来1本1本審議しなければならないはずの安保関連法案を11本まとめて「議論」するなどという異常事態の中で、1面トップの1に「論点表」を置くという奇手に出ざるを得なかったものと推察。逆に、読み物としての価値が出たかもしれない。新聞としては明らかに異例だが、ニーズには合っている。

image by: Chris McGinley / Shutterstock.com

 

『uttiiの電子版ウォッチ』2015/9/16号より一部抜粋

著者/内田誠(ジャーナリスト)

朝日、読売、毎日、東京の各紙朝刊(電子版)を比較し、一面を中心に隠されたラインを読み解きます。月曜日から金曜日までは可能な限り早く、土曜日は夜までにその週のまとめをお届け。これさえ読んでおけば「偏向報道」に惑わされずに済みます。

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