東京五輪のボランティアが「ブラック」という説は大きな勘違いだ

まぐまぐニュース! / 2018年8月29日 4時45分

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現在募集されている東京五輪のボランティアに関して、各所から様々な批判が噴出しています。中にはバイト代や交通費の支払いなどを求める声もありますが、そんな動きに異を唱えるのは、世界的エンジニアでアメリカ在住の中島聡さん。中島さんはメルマガ『週刊 Life is beautiful』の中で、自身がボランティアだからこそ出来た貴重な体験を例にあげ、仕事や学校を休んででもオリンピックにボランティアとして参加する価値はあるとする一方で、日本におけるこの手の活動の問題点を指摘しています。

今週のざっくばらん:東京五輪ボランティアに関する「勘違い」について

東京オリンピックのボランティアを集めている事に関して、「ブラックボランティアだ」とか「バイト代や交通費を払うべきだ」などの声がネット上に溢れていますが、これは大きな勘違いだと思います。

ボランティアとは無償奉仕の事なのですから、バイト代が出ないのは当然です。交通費に関しては、出るボランティアと出ないボランティがありますが、東京オリンピックの場合は、大した交通費のかからない東京都に住む人にボランティアを期待しているのですから、交通費が出なくても仕方がありません。

そもそも、この手のイベントは、ボランティがいなければ成り立たないのが普通です。

私自身も、米国で開かれるゴルフトーナメントでボランティアを2回したことがありますが、当然、無償だし、交通費も出ませんでした。それどころか、ユニフォームを含む「ボランティア・キットを買わされました

この手のイベントのボランティアの醍醐味は中の人になれることです。必ずしも、有名な選手に近づく機会が与えられるわけではありませんが、一般の人が入れない裏口から入ったり、自分が選手や観客を案内したりする立場になるという経験は、滅多に味わえない貴重なものです。

最初のゴルフトーナメント(全米プロ)では、配属は駐車場で、最初は「これじゃあゴルフが見られない」とがっくりしたのですが、実際の役割は、ゴルフ場に隣接された駐車場に到着したプロを、選手の控室までエスコートする役割で、それは楽しい思いが出来ました。

2回目のゴルフトーナメント(全米シニアオープン)は、スコアラーの役割で、選手と一緒にコースを歩いて、彼らのスコアを1ホールずつ中継センターに報告する役割でした。私が間違うと、テレビ画面やスコアボードに表示される数字が間違ってしまうので、結構重要な仕事で、仕事中は一切選手と口をきくことなど出来ませんでした。

しかし、最終日にスコアをつけた組に日本から来ている渡辺司選手がおり、終わった後にキャディさんと「どこに食べに行こうか」と相談しているのを聞きつけ、「良いレストランを知っているから一緒に行きませんか」と誘ってみたところ喜んで付いて来てくれた、という貴重な体験が出来ました。

オリンピックのボランティアをしたからと言って、上のような体験が出来るとは限りませんが、それによって東京オリンピックが自分にとって「忘れられない体験になることだけは確実だと思います。会社や学校を休んで参加する価値があると思います。

日本のこの手の活動で唯一問題なのが、この手の組織の理事や役員がボランティアではなく給料をもらってしまうことです。日本の場合、これがこの手の組織が「天下りの温床」になってしまう一番の原因になっており、直ちに辞めるべきです(シンギュラリティ・ソサエティは、理事は無給であることを定款に明記しています)。

米国では、この手の「名誉職」は、ボランティアであることが当然などころかある程度の寄付をすることが必要です。私の妻は、シアトル・シンフォニーの理事の一人ですが、「理事になるには最低限これだけ寄付してください」という最低金額が明確に定まっている上に、ほとんどの理事が、その金額を大きく上回る寄付をしています。

今週のざっくばらん2:AIエンジニアの雇い方

先日、医療ベンチャーのCEOをしている知り合いから連絡があり、「網膜画像の病理判定のために、AIが出来る人を雇いたいんだけど良い人を紹介してくれない?」というリクエストを受けました。「AIが出来る人」と言っても色んな人がいるし、本当に優秀な人は私が雇いたいので、こんなリクエストをもらって結構困ってしまいます。

「AIが出来る人」の中でも、もっとも貴重な人は、数学にやたらと強い人で(必ずと言って良いほど博士号を持っています)、関わっている分野の最新の論文に目を通し、自らニューラルネットワークの設計もするし、自分で論文を書く、エンジニアというよりも研究者です。この分野で実績をあげるには、設計したニューラル・ネットワークを微妙に調整しながら、1回数時間から数日間かかるトレーニング(機械学習)を繰り返して最適なハイパーパラメターを見つけ出すなど、研究者特有の忍耐力を持った人です(私には到底無理です)。

こんな人たちは、とても貴重なため、GoogleやFacebookが高給で雇おうと必死で、今や年収$1 million (1億円強)超のオファーがされることもあるそうです(参照:A.I. Researchers Are Making More Than $1 Million, Even at a Nonprofit)。

たとえ運よくこんな研究者が雇えたとしても、彼らはあくまでも研究者なので、研究のためのお金はふんだんに使う上に、締め切りとか人事評価のようなコンセプトは拒否するし、研究の成果は論文にして発表したがるので、よほど余裕のあって長期投資が出来る会社ではないと抱えることが難しいのです。

MicrosoftやGoogleはもともとそんなカルチャーの研究部門がある会社なので問題ありませんが、秘密主義のAppleのカルチャーとは長いこと馴染まず、ようやく2016年になって、AppleのAI研究者も論文を書いても良いことになったことが大きな話題になったぐらいです(参照:Apple Has Finally Published Its First AI Research Paper)。

そんな状況なので、日本の医療ベンチャーがその手のトップAI研究者を雇うことがそもそも無理だし、短期間で成果を出さなければならないベンチャー企業には全く馴染まないのです。

AI研究者の下に、彼らの成果をビジネスに活用する仕事に携わるAIエンジニアたちがいます。

AIエンジニアもピンからキリで、AI研究者たちの最新の研究を追いかけて、プロジェクトごとにその時点で最適なニューラル・ネットワーク・アーキテクチャを選び出したり、そのハイパーパラメターを持っているデータに合わせて最適化する、などの仕事が出来るスーパー・AIエンジニアから、理論的なことがちゃんと出来ていないものの、オープンソース化されているAIのライブラリを使いこなせることだけが自慢の、なんちゃってAIエンジニアまで、様々です。

医療ベンチャーがAIエンジニアを雇おうとすると、応募してくるエンジニアの大半がなんちゃってAIエンジニアで、にも関わらず10万ドル以上の給料を要求してくる彼らに悩まされることになることは目に見えています。本来ならば、まず最初に実績のあるスーパー・AIエンジニアを、GoogleやMicrosoftから引き抜く形で雇い、その人にチームを作らせれば良いのですが、Googleでボーナスも合わせると毎年50万ドルを稼いでいる連中を、引き抜くのは簡単ではありません

そうなるとITコンサルティング会社にAIシステムを作ってもらうぐらいしか選択肢がありませんが、これはこれで大きな罠があります。彼らは、とにかく人月工数で稼ごうとするため、黒魔法のようなAI案件の受注コストはとんでもないものになる(少なくとも数億円)と覚悟した方が良いと思います。

ちなみに、もし私がこのプロジェクトの担当者であれば、AppleがWWDCで発表したcreateMLをまずは使ってどんな認識率が出るかを試してみると思います。(技術的に細かな話になりますが)createMLの画像認識は、すでにfeature mapと呼ばれるレイヤーまではトレーニング済みのニューラル・ネットワークを使って機械学習をさせるため、

  • 自分でニューラル・ネットワークの設計をする必要がない
  • 学習時間が桁違いに短い
  • という利点があります。

本当に優秀なAI研究者やスーパー・AIエンジニアがニューラル・ネットワークの設計からハイパーパラメターのバランスまで調整すれば、ひょっとすればcreateMLを使った場合よりも若干良い結果が出る可能性もありますが、それに伴うリスクやコストを考えれば、createMLを使って着実な成果を出す方がはるかに実用的(practical)です。

皮肉なことに、AI研究者はこんな安直な答えを嫌い、自分でニューラル・ネットワークの設計をしたがるし、ITコンサルタントは、こんな解決方法で工数が少なすぎて儲けに繋がらないのであえて選択ないのです。かと言って、なんちゃってAIエンジニアでは、そんな判断も出来ないため、こんな答えにたどり着けるのは、「出来るだけ手間をかけずに良い結果を出そう」という正しいインセンティブを与えられた優秀なAIエンジニアだけであり、そんなエンジニアの使いこなしが医療ベンチャーのCEOに出来るとは私には思えないのです。

ちなみに、AIエンジニアリングが、createMLのように、エンジニアがニューラル・ネットワークの設計をしないでも済むような方向に進化することは、とても自然な流れで、少なくともMicrosoft、Google、Amazonはこちらの方向にツールを進化させて来るのは確実だと私は思います。

なんて話を彼に口頭でしても通じるわけがないので、とりあえずここに書いてみることにしました。

image by: JPstocker / Shutterstock.com

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