吉野家とすかいらーく異例の業務提携に学ぶ、美しき顧客第一主義

まぐまぐニュース! / 2018年8月30日 4時45分

写真

吉野家ホールティングスが、業態の変更と業務提携という2つの方向で大きなチャレンジを試みています。今回のメルマガ『理央 周の売れる仕組み創造ラボ【Marketing Report】』では著者でMBAホルダーの理央さんが、吉野家の新業態「黒吉野家」とすかいらーくホールディングスとの業務提携について、MBA目線で深く掘り下げつつそこから学べるべき点について記しています。

吉野家ホールティングス2つのチャレンジ

吉野家が様々な工夫を凝らしている。業態の変更のチャレンジと、すかいらーくホールディングスとの業務提携について、今回は顧客視点、マーケティングの観点から、掘り下げていきたいと思う。

新業態「黒吉野家」とは何か?

まずは、セルフ式店舗を使っている黒吉野家だ。これまでの、座席がUの字になっている形式の店舗ではなく、まるでカフェのような雰囲気の店舗で、女性にも入りやすいイメージになっているとのこと(日経MJ8月20日の記事より)。

この黒吉野家というネーミングは、通常よくある吉野家のオレンジ色のコーポレートカラーではなく、黒を基調にしたブランドロゴにしていることなど、ちょっと落ち着いた雰囲気を出していることに由来している。

これは、女性顧客がこれまでのU字型カウンターの店を、「まるで相部屋みたいで入りづらい」とか、「注文はどのようにすれば良いのか分からない」といったようなイメージを持っていたことを、改善したものだとのこと。

黒吉野家では、レジの隣で支払いをし、奥で頼んだものを引き渡しされる。受け取った後は、テーブル席を広くとっている店内で過ごす。

新業態の店舗の特徴は、まずメニュー構成である。これまでなかった新メニューとして揚げ物を入れたカニ爪ころ唐丼とか、九州では福岡県限定でテスト販売の一汁三菜朝膳を出しているとのことだ。

オペレーションに関しても、これまでの吉野家でやっていた、一人の店員がお茶を出しメニューを聞いて、食べた後の精算も済ませる、フルサービスをやめたことによって、店員が移動する距離を3割短くしたとのことだ。

しかし、ここで特筆したいのは、このメルマガでも以前に取り上げた、吉野家の方針である券売機を置かない主義が貫かれていることだ。券売機を置くと、お客様と話す機会が減るので、創業以来置いていないとのことだが、自分たちで接客するというこのポリシーを曲げていない点が、長く顧客から愛される吉野家の存在の素晴らしさだといえる。

吉野家河村社長は、全体的にこのチャレンジを通して、吉野家はおじさんの店だ、と思われているイメージを変えていきたいということがあるとのこと。私も、ちょうど昨日女性起業家2人と話をしていた際に、肉は好きだけれども吉野家にはどうしても入りづらい、と言うようなことを話していたばかりだったので、この方針の変更は共感できることがある。

さらに社長のコメントの中には、創業120年の節目であること、そして、将来像をどう描いていくのか、という中での自社ブランドを、リポジショニングする中の1つの戦略だと話している。まだ、テスト段階なのであろうが、これからは半分を黒吉野家にしていきたいとのこと。これからが楽しみだ。

すかいらーくホールディングスとの提携

もう一つのチャレンジが、吉野家ホールディングスと、すかいらーくホールディングスが発表した、吉野家とガストすかいらーくで使える共通の割引券発行である。

日本経済新聞8月24日号によると、そもそも、外食産業のビジネスモデルは、店舗数を増やし、規模を大きくしていくことで、全体の売り上げをあげながら、共通でかかってくるコストを減らし、効率を上げることで、利益を改善していく、という形だった。

一方で、ここ最近このビジネスモデルでは、人手不足など競争の激化もあり、これまでのような成長が難しくなっていることも事実だ。そこで、既存店の集客力を高めようと、牛丼チェーン店2位の吉野家と、ファミレス最大手のすかいらーくがタッグを組むと、異例のことに、私も若干驚いた。

吉野家と言えば、安い早いうまいの3拍子、というキャッチフレーズでビジネスを進めてきた。同じように、すかいらーくグループも、家族みんなで、リーズナブルに楽しめる食事を提供する、というモデルでそれぞれ成長してきた。

どちらも、これまでの戦略では、いかに価格を下げることができるかが勝負で、特にデフレ下においては、「他店よりもいかにやすいか」というインパクトを提供する競争が、勝負の分かれ目だったのだ。

この2社のタッグは顧客が来客する時に、お互いを紹介し合う、「相互送客」という形をとる。例えば、ガストに来て何かを注文した際に、お客様に吉野家のクーポン券を差し上げる、ということになる。これにより、顧客には、クーポンによる値引きが提供され、吉野家やガストには、お互いの店舗への相互の送客が見込める、ということになるのだ。

このような相互送客は、これまでは、自社グループ内の各企業の間や、商店街にある個人店舗同士で行われてきた手法である。すかいらーく経営陣のコメントに、「航空会社のアライアンスに似ている」というのがあったが、まさに私もその通りだと思う。

吉野家のチャレンジに私たちは何を学ぶべきか?

まず、黒吉野家に関しては、やすい、早い、うまい、に加えて、「顧客体験価値を提供する方針である点だ。美味しく、安くても、居心地が良くなかったりすると、「いってみよう」というモチベーションが起きない。特に女性顧客に関して、その課題を抱えているが故に、今回は、黒吉野家という新業態でチャレンジしよう、ということだ。

私たち中小企業においても、価格やスペックだけで勝負をするだけでは、値引き合戦になってしまう。顧客が自社商品を体験する際に、何を感じるか、が顧客体験価値なのだが、この顧客体験価値を自社製品に付加」することで、イメージを好転させることができ、ひいては、値段の安さという勝負から抜け出ることができるのだ。ここが、見習いたい点だ。

すかいらーくとの提携に関して、アライアンスを組むまでには、多くの障壁があったのだと思う。何故かと言うと、グループ企業内からは、「どうして自社の中でやり合わないのか」とか、「吉野家はライバルではないか」と、ある意味で反論を中心とする議論が出るに決まっているからである。

このような固定観念に囚われなく過去の成功体験に固執することのない考え方を発案しそして実施した点が素晴らしい。意思決定が複雑な大企業ではなかなかできることではないし、創業社長、ワンマン社長の中小企業でも、同じことが言える。

また、もう一つ素晴らしい点は、消耗戦をやっていてもしょうがないという、吉野家ホールディングスの河村社長の言葉だ。デフレ下ではうまくいっていた低価格戦略も、今、この複雑な経済状況の中では、なかなかうまくいかないことが多い。

そんな中で、顧客が欲しいものと、企業が売りたいものが、「ずれている」ことが大前提であると私は思っているが、「うちの会社が良いものだ」ということだけを強調していても、顧客の求める価値に応える事はなかなか難しい

このケースで言うと、顧客に牛丼を売るというのではなく、顧客は、牛丼食べたいかもしれないし、ガストの日替わりランチを食べたいのかもしれない。また、そのようにメニューだけで選ぶのではなく、ちょっとゆっくりしたいとか、安くランチをあげたいけれど、コーヒーが付いているほうがいいとか、喉が渇いたからドリンクバーがある店がいい、などといったように、多種多様な要求を顧客はするはずである。

このような、ある意味顧客のわがままにも対応できる施策といるのが今回のチャレンジの素晴らしい点だ。

いずれにしても、このタッグを実現させていく、推進力と発想力に関しては、柔軟な考え方を持つ経営者人が、強力なリーダーシップを持って実践推進したのであろうことが、推測できる。

正しいと思うことは、周囲が何と言おうと、理論武装をした上で、推進する。この姿勢が、私たちが見習うべき点だろう。

image by:  吉野家 - Home | Facebook

MAG2 NEWS

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング