【書評】相談者を返り討ち。直木賞作家の怖くて素敵な人生相談

まぐまぐニュース! / 2019年4月11日 20時24分

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人生相談といえば、質問者に寄り添った、厳しさの中にも優しさが溢れている回答がなされる、というイメージがありますが、やはり世の中は広いもので、そんな思い込みを払拭してしまうような書籍が存在します。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』で編集長の柴田忠男さんが紹介しているのは、直木賞作家の車谷長吉氏による人生相談をまとめた本。「反時代毒虫」である彼の、全く相談者に寄り添わない回答とは?

偏屈BOOK案内:『車谷長吉の人生相談 人生の救い』 

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『車谷長吉の人生相談 人生の救い』

車谷長吉 著/朝日新聞出版

不運で人生がきまるの?」と問う、就職活動でまだ内定がない22歳の大学生。その回答は3ページにわたって、回答者・車谷長吉の自分と弟の不運語りに尽きる。兄弟とも遺伝性蓄膿症で鼻呼吸ができない。「不運な人は不運なりに生きていければよいのです」と突き放すのが回答というんだから、人生相談として不成立のような気がする。相談者を返り討ちするような回答もある。

回答者としてどうよ、車谷長吉。人間としてどうか、とまで言われかねない辛辣な対応。ほんとにこれが人生相談なのか。全部創作ではないのかと思ったくらいの、異色の人生相談が実在した。朝日新聞別刷に掲載された人生相談をまとめた本がコレ。“最後の文士”にして“反時代的毒虫”たる著者、というのがセールスポイントである。相談者に寄り添わない潔いスタイルが素敵!

老後の夫婦が円満に生きるための秘訣を知りたい」という、まとも過ぎる質問。わたしもちょっと気になる。それにどう応じたか。回答「円満の秘訣など人生にひとかけらもなし」ときた。車谷は結婚したら妻から、家を買ってくれ、高級洋服を買ってくれ、船で世界一周の旅に連れて行け、など様々な要求をされて、53歳で脅迫神経症に罹り、10年近くの神経科病院通いになったという。

散々自分語りをしておいて、最後に「いままでのところ、あなたはなまくらな人です。世の9割の人は、そういう人ですが」。そうくるかい。まるで回答になっていない。「いろいろ心配にとりつかれている」という相談に、「つまり、人生には救いがないということです。その救いのない人生を、救いを求めて生きるのが人の一生です」って、まったく救いがない。加えて余計なことを

「うちの嫁はんの女友だちを見ていると、まず8割は虫のいい女です。地道に働いて、なるべくお喋りをしない、という覚悟がない」。書かんでもいいことを。田舎の母親は親類の男から「あんたの伜に悪う書かれた」と棒で殴られ半殺しの目にあわされた。「小説を書くにはある程度覚悟はいります」って……。

小説を書きたいという71歳の向学心ある年金生活者。回答は「善人には小説は書けません」。人の頭脳は4種類、頭のいい人頭の悪い人頭の強い人頭の弱い人。この中で絶対に小説を書けないのが頭のいい人。人には真、善、美、偽、悪、醜の6要素が備わり、頭のいい人は醜について考えると頭が痛くなるからだという。善人と頭脳の種類は別の話だと思うがなあ。

人生の目標の立て方は?」と真摯に問う46歳・主婦。回答はまず「中高年に人生の目標などなくて当然であるから、迷いの段階で必ずより困難な道のほうを選んでいけば、そこから新しい道が開けてくる」と格好いいこと、無責任なことを言いながら、結局は自分一人で何かを楽しむことを見つけることが大事です、と平凡にまとめるんだから、著者らしからぬ投げやりな対応である。

「車谷長吉の人生相談」と銘打っているが、質問者によりそった優しい回答者とは思えない質問を無視して自分語りをすることが度々。先生のことなんか聞いてません、もっとわたしの悩みを聞いてください、対面でなら相談者はきっとそう言うだろう。車谷の小説はこわいからわたしは近寄らない。車谷長吉(くるまたに ちょうきつ)は2015年に69歳で没。

編集長 柴田忠男

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