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『竜とそばかすの姫』は意見の異なる人と一緒に観ることで完成する? 「金ロー」で初放映

マグミクス / 2022年7月8日 11時50分

『竜とそばかすの姫』は意見の異なる人と一緒に観ることで完成する? 「金ロー」で初放映

■中村佳穂さんが歌う劇中歌が大きな話題に

 2021年7月15日に公開され、大ヒットした劇場アニメが早くも地上波テレビに登場します。2022年7月8日(金)の「金曜ロードショー」(日本テレビ系)では、細田守監督の最新作『竜とそばかすの姫』が放送枠を30分拡大して、ノーカット初放映されます。
※「金曜ロードショー」の放送は休止となりました。同作の放映日は改めて告知されるとのことです。

 コロナ禍にありながら、『竜とそばかすの姫』は主人公を演じたシンガーソングライター・中村佳穂さんが歌う劇中歌が話題を呼び、興収66億円の大ヒットを記録しました。細田監督作品史上最大のヒット作となっています。

 50億人ものユーザーが参加する仮想空間「U」の壮大かつカラフルな世界観が、観る者を圧倒します。常田大希さんが作詞&作曲したテーマ曲「U」も、とても印象的です。

 ですが、その一方では主人公の行動に批判的な声も一部では挙がりました。賛否両論を呼ぶ、細田監督の作品性について考えてみたいと思います。

■冴えない女子高生が、ネット空間で「歌姫」に変身

 高知県の田舎町で父親とふたりで暮らす女子高生・すずが主人公です。すずが幼い頃に、優しかった母親は水難事故で亡くなっています。以来、すずは内向的な性格に育ちました。

 すずは人前でモジモジしてしまう自分のことが好きになれません。歌を作ることは好きなのに、人前で歌うことができないのです。そんなすずは、インターネットに詳しい親友のヒロちゃんにサポートされ、仮想空間「U」の世界で、理想の女性・Belleへと変身を遂げるのでした。

 Belleは自作した歌を、「U」の世界で高らかに歌います。「自分の存在を認めてもらいたい」という承認欲求が満たされたことで、現実世界のすずも明るくなっていきます。主人公のひと夏の冒険が、日常生活を変えていくことになります。

 正体不明の歌姫として、Belleは「U」の世界で大いにバズります。多くのファンからの声援を浴びるBelleですが、ライブ中に逃げ込んできた「竜」というキャラクターに遭遇し、物語は意外な方向へと展開していきます。

 訳ありそうな「竜」のことが、すずは気になって仕方ありません。父親との関係がギクシャクしているすずは、「竜」も深刻な悩みを抱えていることを察したのです。

 なんとかして「竜」を助けたい。実名も顔も分からない相手のために、すず/Belleは必死になります。知らない相手のために、命がけになる姿は、かつて川で溺れた男の子を助けようとして亡くなったすずの母親とそっくりです。

■ネット世界では誹謗中傷に傷つくことも

『竜とそばかすの姫』メインテーマ「U」通常版CD(アリオラジャパン)

 細田守監督は、これまでにも『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム』(2000年)、『サマーウォーズ』(2009年)と、ネット社会をテーマにしたファンタジー作品を手がけてきました。現実では不可能な夢も、ネット世界なら叶えることができるのです。すずも田舎町に暮らしながら、世界的な歌姫「Belle」として賞賛されるようになります。まさに夢のような仮想空間です。

 しかし、実名が明かされず、素顔も分からないネットの世界は、誹謗中傷も多く、無責任なフェイクニュースも出回ります。ファンの声援に喜ぶだけでなく、厳しい意見にも向き合うタフさ、表現者としての芯の強さも必要となってきます。

 アクセス数が増え、「いいね」の数が多ければ、それだけでうれしくなりがちですが、数字以上にもっと大事なものがあることに、すず/Belleは気づくのでした。

 見逃されがちな小さな声の持ち主に、きちんと手を差し伸べることができるのか。ネット上のキャラクターたちは、現実世界では生きた生身の人間であることを忘れていないか。ネット世界の利便性や華やかさだけでなく、人を容易に傷つけてしまうネット世界のマイナス面も、本作では描かれています。

■賛否両論となった、すずがクライマックスで見せた行動

 ヒロちゃんや幼なじみのしのぶくんたちの協力もあって、すずは「竜」の正体だけでなく、彼が傷ついている理由も知ることになります。ネット世界では暴れん坊で、自警団から排除の対象になっていた「竜」は、現実世界ではとても繊細で、しかも命に関わる窮地に立たされていたのです。

 すずがクライマックスで見せる行動に対して、一部では疑問を投げかける声もありました。ひとりの女子高生が、事件性の高い問題に立ち向かっても、簡単には解決できるものではないからです。すず自身がもっと危険な目に遭った可能性もあります。

 2022年7月1日に放送された『時をかける少女』(2006年)の真琴をはじめ、細田作品の主人公たちは失敗を重ねます。常に正しい行動ができる優等生キャラクターではありません。視聴者が放っておけなくなる、未完成のキャラクターばかりです。

 特に本作のすずは、これまでの生々しさがあった細田作品の主人公たちに比べると、おとなしい性格もあって存在が希薄に感じられます。思うに、すずというキャラクターは固有の女子高生というよりは、視聴者それぞれのポジティブになれずにいる心の気弱な一面を象徴した存在ではないでしょうか。誰の心のなかにも、繊細なひとりの少女がいるのです。そんなナイーブな存在が、勇気を振り絞って現実世界へと一歩踏み出していくことで、本当の意味での変身を果たすことになります。

 もちろん、これは筆者個人の感想です。視聴者がそれぞれ「自分はこう思う」「自分ならこうするのに」と考えることで、『竜とそばかすの姫』は物語として完成するように感じます。

 いろんな世代、いろんな地域の人たちが、同時間に一緒に視聴する「金ロー」は、家族みんなで楽しめるように作られた細田作品とぴったりマッチしています。放送中には、いろんな人たちのさまざまな声や意見がネット上で飛び交うことでしょう。

 応援の声だけでなく、建設的な批評も交えることで、視聴者もいろんな視点や考え方があることを知ることになります。視聴者も成長していくことで、細田作品もまた、進化を遂げていくのではないでしょうか。

(長野辰次)

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