地味~な登場に唖然…幻の公開番組「ウルトラマン誕生」のドタバタ劇とは?
マグミクス / 2022年7月10日 9時10分
![地味~な登場に唖然…幻の公開番組「ウルトラマン誕生」のドタバタ劇とは?](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_100194_0-small.jpg)
■ウルトラマンTV初登場の瞬間! でもちょっと地味?
7月9日から新シリーズ『ウルトラマンデッカー』がスタートします。そして10日は「ウルトラマンの日」です。これは56年前の1966年7月10日に『ウルトラマン』の放送スタートした日を記念して制定されたのですが、実はこの日に第1回「ウルトラ作戦第一号」が放送されたわけではありません。どういうことなのでしょうか。
●急遽決定した公開収録
円谷プロダクションは焦っていました。『ウルトラQ』最終話を予定していたエピソード「あけてくれ!」が、TBSテレビ側から「話が子どもには難し過ぎる」としてNGにされ、予定より1週間前倒しで新番組『ウルトラマン』をスタートせよ、と要請があったからです。しかし7月10日の第1回放送までに完成させられないため、苦肉の策として7月9日に公開収録番組を撮り、翌日放送するとを決めます。急遽、台本やステージセットを作成、あまりリハーサルもできないまま超満員の客を前に本番がスタートします。
●1966年7月10日、TVにウルトラマン初登場!
では、夜7時から30分放送された公開収録番組「ウルトラマン前夜祭 ウルトラマン誕生」とはどんな内容だったのでしょうか。
(※白黒テレビでの放送)舞台の幕が上がると、屋敷か基地のようなセットが。そこへ、怪獣を製造するモンスター博士という人物が登場。来週から新番組『ウルトラマン』が始まることを説明し「前夜祭開幕~!」と宣言します。すると客席側に立つコーラスグループが「ウルトラマンの歌」を初披露。……確認ですが、会場のお客さんも視聴者も、動くウルトラマンや怪獣、科特隊など、基本的には初見であることをご理解ください。
●怪獣と素手で戦う科特隊
ステージにレッドキング、アントラー、バルタン星人、カネゴン、ガラモンといった怪獣たちが登場し暴れ出すと、出動要請を受けた科学特捜隊員とホシノ少年が客席出入口から登場。ステージで怪獣と戦います。なんと、素手で取っ組み合いです。しかも段取りした立ち回りなどなく、もみ合っているだけです。……この光景を観客も視聴者もどんな目線で見たでしょう? 「ウルトラマンってこんな感じ?」「人間と等身大の怪獣が戦うの?」 そんな戸惑いの声が聞こえてきそうです。
でも、最大のポイントは主役のヒーロー「ウルトラマン」です。科特隊と怪獣がドタバタと戦っている最中、ついにTVのブラウン管初登場の瞬間がやってきました! 突然、フジ隊員がアップになり画面右上を指さして「ウルトラマンよ!」と叫びます。ちょっと暗い音楽が流れるなか、建物セット2階の右端にある入口に、ひょっこりとウルトラマンが登場し仁王立ち。……「え?」 そう、これが「ウルトラマン」テレビ初登場の瞬間です。中途半端で地味な登場シーンに、パラパラとした拍手と少しの歓声があるだけでした。
……なぜこんな登場に!? ウルトラマンショーのように、ちびっ子たちに「みんなで呼ぼう、せーの、ウルトラマーン!」と声をかけるとか、カラフルなライトのなか「ジャジャ~ン!」とカッコいい音に合わせて登場するとか、50年以上前でも主役の引き立て方は考えられたと思います。しかし、派手な登場の音も照明もスモークもなく、目立たないセット右上からしれーっと姿を現わすとは…笑うしかありません。
登場を下から見守る科特隊員と怪獣たち。ウルトラマンは階段をスタコラ降りてきます。モンスター博士が「科学特捜隊が絶体絶命のピンチに陥ったとき、彼らに協力するために現れたウルトラマン! はたして正体は何者か、宇宙人かそれとも、ロボットかー!」…と煽るあいだ、全員時間を持てあましあたふた。客はザワザワ。そしてついにウルトラマンVS怪獣軍団の戦いが始まる!……とおもいきやウルトラマンは左奥に隠れて見えなくなります。あれ? 逃げるのかウルトラマン?……すると突然、画面は収録済みの特撮映像に切り替わります。舞台上と大きさがまるで違う巨大なウルトラマンと怪獣ネロンガが対決するシーンが流れ、スペシウム光線でネロンガは倒れます。おそらく視聴者に「本当の戦いはこんなだよ」という映像を見せたかったのでしょう。
最後は舞台上でエンディング。見どころの説明や円谷英二監督のインタビューがあり、「来週からの放送をお楽しみに!」と公開番組は終了。次回予告として「ウルトラ作戦第一号」の映像が流れ、7月10日のオンエアは終わるのでした。
●実家へ帰った実相寺監督
裏話です。円谷監督は「夢を壊すので、きぐるみのウルトラマンを人前にさらしてはダメ」と言っていたそうですが、緊急事態ということで説得され、しぶしぶOKしたとか。出演者のなかでも、ウルトラマンと怪獣と人間が同じステージに立つことに違和感を持った人が多かったようです。
放送は30分に編集されましたが、公開収録は1時間以上ありました。転倒したガラモンの頭が外れかけて人の頭が見えたり、アントラーの動体は前後ろが逆で着られていたり、なぜか舞台に子豚が紛れ込んだり。ウルトラマンが階段を降りる際、足元が見にくくて転びそうになり、客席から笑い声が起こりました。また最後は空を飛んで去っていく演出があり、ボディにピアノ線を付けて持ち上げたのは良いですが、滑車が壊れて長い間宙吊り状態に。他にも細かなミスが多かったそうです。無理もありません、急仕上げの収録で全体的にアイディアも準備も体制も間に合わなかったのでしょう。
当時TBSディレクターとして担当した実相寺昭雄さんは、あまりのできの悪さを嘆き、テロップに自分の名前を入れず、落胆して実家へ帰ったそうです。しかし、視聴率が30.6%と高かったことを聞いて東京へ戻ったとか。
56年続くウルトラマンシリーズの始まりは、そんな伝説的な公開収録番組でした。会場となった杉並公会堂には7月10日「ウルトラマンの日」の記念プレートが設置されています。
(石原久稔)
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