最近の『ファイアーエムブレム』は「ぬるくなった」はホント? 重すぎる死の変遷
マグミクス / 2022年7月18日 19時10分
■「個性化」と「喪失」で、ユニットにキャラクター性を持たせた「ファイアーエムブレム」の今に迫る。
1990年4月に発売されたファミリーコンピュータソフト『ファイアーエムブレム 暗黒竜と光の剣』は、それまで「無個性な駒」としての扱いだった「ユニット」に特徴を持たせ、さらにキャラクター性も付加。替えの利かない唯一無二の仲間を率いて戦う「シミュレーションRPG」というジャンルを切り開きました。
しかも本作は、個性の付加によってユニットの価値を高めると共に、戦場で倒れたら(=HPがゼロになったら)死亡扱いでロスト(=失われる)するという過酷なルールも同時に敷き、「個性」と「命」の両面でユニットの存在を確立させました。
豊かな個性によってユニットに愛着が湧き、プレイヤーの判断ミスで気に入ったキャラがいなくなる喪失感を味わう。この見事な表裏一体がかつてないゲーム体験を生み出し、今も愛され続ける人気シリーズの礎を築いたのです。
ユニットに「生」の息吹を与え、同時に「死」の残酷さも取り入れた「ファイアーエムブレム」の魅力は、後のシリーズ作にも引き継がれていきました。ですが、ここしばらくのシリーズ作について、古参のファンから「ぬるくなったのでは?」との疑問が投げかけられています。
なぜそんな疑問が持ち上がったのか。そして、この指摘は事実なのか。生と死を描いてきた「ファイアーエムブレム」シリーズの今へ迫り、その実態へと迫ってみました。なお今回は、ゲームの難易度ではなく、あくまで「生と死」の重みや扱われ方のみに絞らせていただきます。
●疑問のきっかけは、新規ユーザーに向けた「カジュアルモード」
本シリーズについて「ぬるくなった」と指摘するポイントは、人によってさまざま。しかし、そのなかでも特に挙げられやすいのは、「カジュアルモード」の存在です。
「カジュアルモード」に設定すると、戦闘中にやられても死亡扱いにならず、次の戦いからまた参戦できるようになります。2010年7月発売の『ファイアーエムブレム 新・紋章の謎 ~光と影の英雄~』で初めて導入され、以降のシリーズ作に継承。最新作の『ファイアーエムブレム 風花雪月』にも採用されたゲームシステムです。
HPが0になっても死亡しない。それは、「ファイアーエムブレム」が打ち出した「死の重み」を、自ら軽んじるものではないか……そのように考えた方が少なくありませんし、確かにこの点だけ見ると、「死」の印象が少し変わったようにも感じます。
ですが、「倒れる=死亡扱い」という従来の緊張感が味わえる「クラシックモード」も用意されており、どちらかにするかはプレイヤーが任意で選択可能。一概に「ぬるくなった」わけではありませんが、死を回避できる選択があること自体を「甘さ」と見ることもできます。
「カジュアルモード」を搭載したことで、新規のユーザーを呼び込む間口の広さにつながった一面は否定できません。そのメリットと引き換えに、「ファイアーエムブレム」は本当に「ぬるく」なってしまったのでしょうか。
■「ぬるくなった」と言えないワケ
序盤は比較的穏やかな『風花雪月』。しかし、第2部が幕を開けると、そこには過酷な戦いが……
●1作目にもあった「死を回避する手段」
「カジュアルモード」が搭載された『新・紋章の謎 ~光と影の英雄~』以降の作品群を指し、死の重みが薄れたと指摘する声があります。ですが、こうした時代よりも前から、「死」を回避できる対応はありました。
そもそも1作目の『暗黒竜と光の剣』の時点で、実は死亡したキャラを生き返らせる救済措置が用意されています。復活の杖「オーム」を使えば、死亡した仲間を蘇生することが可能でした。
しかし、この「オーム」が手に入るのは終盤ですし、使える場所も最終面のひとつ前と限られています。また、対象のキャラが十分に育っていなければ、次の最終面で出番が回ってこない可能性はかなり低くなります。死を回避する手段そのものはあっても、「これがあるから死んでも大丈夫」とはいきません。そうした点を考慮すると、蘇生手段があっても「死」の重みは変わらず、と捉えることもできます。
一方で、物語の展開上で欠かせない一部のキャラが死んだ場合、「ゲームオーバー(=対象キャラの死を、やり直すことで強制的に回避)」もしくは「戦闘からは離脱するが、死亡はせず物語にだけ参加」という形になる場合もあります。
ゲームオーバーや戦闘に参加できない状態は明確なデメリットなので、これも「死」の重みと言えるかもしれません。が、「死を回避する(もしくはさせられる)」システム自体は、限定的ながらも昔から存在していたのです。
●最新作の展開に、重すぎる「死」の手応えが潜む
本シリーズでは「死の重み」を描いていますが、それは「ユニットの死亡」のみで表現されているわけではありません。愛する者と道を違えた悲劇や、報われぬ戦いの結末など、状況や物語を通した形での「生と死」も紡いできました。
黎明期だと、特に『ファイアーエムブレム 聖戦の系譜』が印象的です。こちらの作品は2部構成ですが、1部終了時点で大きな悲劇に見舞われ、第2部では登場キャラクターの大半が一新される形で幕を開けます。具体的な理由は伏せておきますが、この衝撃的な展開を前置きなく味わった当時のユーザーは、大きな衝撃を覚えたものです。
死を伴う絶望的な展開も描いてきた「ファイアーエムブレム」シリーズですが、その傾向は昨今薄れてしまったのか。この点について、シリーズ中で最も新しい『ファイアーエムブレム 風花雪月』に迫ってみます。
『風花雪月』はシリーズのなかでも珍しく、前半は士官学校での日々を描いています。在学中に出撃する場合もありますが、そのほかは生徒たちの訓練や日常、コミュニケーションなどを行って過ごします。また、主人公は教師となり、生徒を導く立場として彼らと接点を持ち、関係性が育っていきます。
出撃の際に「死」の危険(クラシックモードの場合)があるとはいえ、戦争が中心だった『FE』シリーズ全般と比べると、かなり穏やかな印象を受けます。こうした切り口を見て、「ぬるくなった」と判断するユーザーも一部にいました。
しかし、『風花雪月』が「ぬるい」ゲームなのかと問われれば、個人的には全く同意できません。というのも、後半に突入することで、この世界にも大規模な戦争が訪れます。それは同時に、「学級こそ異なるものの、生徒同士が戦場で殺し合う」という地獄の始まりでもありました。
かつての生徒たちは、それぞれ出身や立場に合わせて戦争に加わります。当然、全員が同じ陣営に属することはあり得ません。どれだけ手を尽くしても、生徒同士の戦いの全てを回避する術はなく、同じ場所で学んだ者同士による命の奪い合いがいずれ始まります。
ただし、生徒同士の直接の対決を避ける方法も、あると言えばあります。生徒の代わりに自分が……教師だった主人公が、敵対する生徒と戦うことで、生徒同士の殺し合いは避けられます。もちろんそれは、「かつて先生と呼んでくれた相手を、自分の手で殺める地獄」に変わるだけの話に過ぎません。
戦争に絶対の正義はなく、同時に絶対の悪もありません。だからこそ、全員が同じ道を歩めるはずもなく、死を伴う決別こそが彼らの関係に残された最後の接点なのでしょう。
こうした形の「死」は、受け止める側にとって賛否が分かれます。それは好みの問題でもあるので、どちらも正しい感想に他なりません。ですが、昨今の「FE」シリーズがぬるいかどうかと問われれば、この『風花雪月』の一例だけで見ても、ぬるさとは対極の位置にあると言っていいでしょう。
「カジュアルモード」や更にパワーアップさせた「フェニックスモード」の存在によって、本シリーズにおける「生」の価値は少し変わったかもしれません。ですが、「死」の重みと過酷さは、「クラシックモード」と物語のなかに今も力強く息づいています。そんな名シリーズの魅力を、あなたも直接味わってみてはいかがですか?
(臥待)
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