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『ガンダム』 本伝から除外…同じ宇宙世紀でも並行世界な「Another U.C.」とは

マグミクス / 2022年7月23日 6時10分

『ガンダム』 本伝から除外…同じ宇宙世紀でも並行世界な「Another U.C.」とは

■「Another U.C.」って何?

 日本のロボットアニメの代表作『機動戦士ガンダム』。初めて本格的なSF要素を世界観構築に取り入れた作品です。その世界観の基本は、人類が宇宙移民を開始した年を「元年」とする「宇宙世紀」です。初めて映像化されたのが宇宙世紀0079年の『機動戦士ガンダム』で、宇宙世紀0153年の『機動戦士Vガンダム』まで映像化されており、積み重ねがある世界観と言えます。

 その宇宙世紀シリーズ映像作品で「Another U.C.」、つまり「パラレルワールド」として扱われている作品があるのは、ご存じでしょうか。それは2015年から映像化された『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』と、2016年から映像化された『機動戦士ガンダム サンダーボルト』のシリーズ作品です。

『機動戦士ガンダムNT』製作発表時に、サンライズの小形尚弘プロデューサーは「『サンダーボルト』はパラレルで本伝ではない」と発言されています。

 また、劇場アニメ『機動戦士ガンダムNT』上映時に発行された書籍『ガンダム宇宙世紀メモリアル』では、本作と『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』は「Another U.C.」に分類されていますから「宇宙世紀の本伝扱いではない」と判断できるわけです。

 では、これらの作品はどうして「正規作品」扱いされないのでしょうか。

 まず『機動戦士ガンダム サンダーボルト』について。「ビッグコミックスペリオール」連載中の人気マンガであり、1年戦争末期を舞台に、連邦軍とジオン軍それぞれの主人公の対立を描いた群像劇です。

 アニメでも音楽性の高い戦闘描写や、主人公の手足が損失しても神経を接続してモビルスーツを操縦するような、ハードな世界観、SF的アプローチがなされたメカデザインなど、単体の作品としては、深い魅力を備えています。

 この作品で「本伝」とされないのは、その「メカデザイン」の部分にあるのではないかと思われます。作者の太田垣康男氏は、近未来の宇宙飛行士達を描いた『MOONLIGHT MILE』も手掛けており、作中のメカも現実の宇宙開発を踏まえた独自解釈をなされています。

 例えば、主人公の一人であるジオン軍のダリル・ローレンツが搭乗する「リユース・P・デバイス装備 高機動型ザク(通称サイコ・ザク)」は、人型の本体よりも巨大なバックパックが装備されており、ジャイアント・バズ2基、ザク・マシンガン2基、シュツルム・ファウスト3基、ザク・マシンガンのマガジン4つといった大量の兵器が搭載されています。さらに、大量の武器の交換用としてサブアーム2基も装備されているのです。

 もう一人の主人公であるイオ・フレミングは「フルアーマーガンダム」に搭乗していますが、こちらも巨大なバックパックや、サブアームによるシールド4枚装備など、それまでの1年戦争に登場するモビルスーツとは、かけ離れた姿をしています。

 従来設定では、モビルスーツが従来兵器を圧倒できるのは、手足の動きを機体制御に組み込んだ「AMBAC」などもあって、柔軟で広範な戦術が可能であるから、というものでした。

 本作の主役級モビルスーツは大出力スラスターと重武装により、敵を圧倒するデザインですが、手足の運動量など問題にならないほどの巨大バックパックや、「AMBAC」を妨げそうなサブアームなど、モビルスーツ本来の運用性とはかけ離れています。モビルスーツの開発当初で出現するデザインとは思えず、通常の1年戦争史に組み込むにはやや無理があるメカデザインだと感じます。

 また、基本の「ガンダム」よりも、本作の「フルアーマーガンダム」はずっと高性能に見えますので(これはゲームの主役機もそうですが……)、実用化されているなら、ホワイトベースに回してアムロに使わせた方がよく、そこでも無理があります。

「サイコ・ザク」も、その「フルアーマーガンダム」と相討ちになるほどの高性能機。それを、ザクベースで作るのは時系列的に不思議ですし、パイロットの失った手足と操縦系を直接接続するシステムなら、人型を逸脱したデザインにしない方が操縦しやすいようにも思えます。

『サンダーボルト』は最近でも、宇宙世紀0080なのに7年後の「機動戦士Zガンダム」に登場するモビルスーツと同じデザインの機体が多数登場するなど、整合性という意味では解釈が極めて難しいと思いますが、その外連味こそが魅力の作品なので「もっとやれ」と個人的には思います。ただ、パラレル扱いなのは、仕方ないですね。

 もうひとつの「Another U.C.」である『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』も『機動戦士ガンダム』のマンガ化を打診された安彦良和氏が「原作通りだと整合性が取れない部分について、設定の再解釈をする」という意向で描かれた作品なので、原作との違いはそれなりにあります。

 一番大きいのは「モビルスーツの登場時期」で、ガンタンクはザクの出現前から存在した戦車が原型ですし、ガンキャノンがザクの対抗機として、開戦前に配備されています。このため、初めての「モビルスーツ同士の戦闘」は、原作の1年戦争時の「ガンダム対ザク」ではなく、開戦前の「ガンキャノン最初期型対ザクI」となっているわけです。

 兵器が実用に達するには、それなりの稼働期間が必要です。試作機であるガンダムが大きなトラブルもなく、過酷な実戦で大活躍するのはリアリティを重視した作品としてはおかしいため、妥当な変更ではあると思いますが、原作と同じ時系列ではありません。

 そして原作のマンガでは、北米大陸からアジア、ヨーロッパへと地球を一周して南米ジャブローを目指していたホワイトベースが「行動が不自然」として、直接北米からジャブローを目指すように変更されたり、オデッサの戦いが前倒しされたりといった変更点があります(他にもダイクンの死因や登場人物の階級など、たくさんありますが、割愛します)。

 公開中の劇場版映画『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』の描写も『THE ORIGIN』の時系列に準拠していますから、「Another U.C.」作品と言えるでしょう。

 なお、筆者は『機動戦士ガンダム』の本放送から、ずっとガンダムを見てきましたが、多数の派生作品が登場することは想定外でしょうし、個人的にはそろそろ世界観の再構築をしてもいいのではないかと思えます。

『THE ORIGIN』も『サンダーボルト』も本伝にできるような世界観に変更した方が、派生作品も作りやすく、これまでの作品も、新設定や他作品の存在を留意したリメイクができるのではないでしょうか。

(安藤昌季)

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