『うる星やつら』イラつくのはナゼ？ 僕らは有能な諸星あたるに嫉妬しているだけなんだ

■有能過ぎるあたるに我々は嫉妬している？

『うる星やつら』に登場する一途なラムと、彼女を邪険にするあたる。読者はあたるの態度に少なからずイラついたものですが、そのイラ立ちはラムへの扱いに起因するものなのでしょうか？　優秀過ぎるあたるに我々が嫉妬しているだけなのではないでしょうか？　そう思う、彼の有能っぷりを改めて紹介します。

●高校生の少年にしては十分にモテる素養を持つ

　そもそもあたるは幼馴染の三宅しのぶと交際しており、しのぶはラムを含めあたるが女の子にちょっかいを出すことに嫉妬する言動を見せています。面堂終太郎が登場するまでしのぶは恋愛感情を表に出し、結婚をほのめかすほど気持ちは本気のようでした。

　また、神回「最後のデート」では、あたるに好意をよせる幽霊少女・望とデートをします。彼女の編んだマフラーやセーターをがっかりさせないため、真夏というのに着用する優しさは、高校生というくくりを超え、男としてモテる素養を十分持っています。

●ちょっと不良なのが、女性や友人を惹きつける

　明朗快活で友人が多く、呼吸をするようにガールハントで女性を口説くコミュ力の鬼であるあたる。しかし勉強は苦手なようで、母親から「アホの活き造り」と罵倒され、友人からは「並みのアホではない」「並み以下」とシリアスに言われてしまうほどです。

　また学校生活でも遅刻をするわ授業中にどぎついエロ本を読むわ、教師である温泉マークに攻撃的だったりするわで態度に難ありです。さらに林間学校時では、ビールを隠し持っている描写もあり、見た目は普通ですが問題児、もしくは不良に該当すると思われます。

　ただ、勉強については面堂にノートを借りるなど努力する姿勢はあり、持ち前の陽キャ力で学級委員長になるなど、不良特有の「人望」は嫉妬の対象になるほど魅力を感じます。

●マネできないほどの頑丈過ぎるフィジカル

　電柱の下敷きになっても校舎の3階から落ちてもノーダメージなあたる。そもそもラムの電撃を何度喰らっても割りと平気そうな肉体は異常です。また体力面では、ラムとの出会いと最終章での「10日間鬼ごっこ」を最終日までこなすなど、信じられないスタミナをみせ、最終的には飛び回るラムを捕まえる超人的な体幹を持っています。

　他には、面堂の刀やカジキの角を「真剣白刃取り」する集中力と動体視力を持っていて、友人から「さすが真剣白羽取りの第一人者」と称えられるほどです。

■「好き」と言わないあたるはクールでかっこいい？

あたるはラムの抜け落ちた角を握りしめ最後の鬼ごっこに臨む『うる星やつら』〔新装版〕第34巻（小学館）

●脳内の世界観が独特でアーティスティック

　惹かれる男の要素として個性的な「世界観」があると思います。普段は節操がないだけで、能天気な普通の男子に見えるあたるですが、脳内は普段の姿とはかけ離れ過ぎてひくほどシュールな世界観を持っています。

　セクハラに怒ったクラマがあたるの脳内を覗くと、女の子を数珠繋ぎにしたすごろくが登場。女のことしか考えていないことが晒されました。

　また、あたるが精神を吸って成長する卵を拾い、爆発させると学校中があたるの世界観に飲み込まれます。その世界というのが、ジャングルのような姿で、岩肌が巨大な裸婦になっている山や時計や目のある洋ナシが生えた樹木、その幹には蛇口も生えています。さらに女の子を追いかける木、スカートをめくる植物などがあるなか、絶滅危惧種にも選定されるショクダイオオコンニャクも。

　あたるの脳内や精神がこのようなシュールな世界観で構成されていると思うと、能天気は外向きで、実はカオスでクレイジーな感性を持っていて闇と病みを感じます。これはアーティスティックな男の色気でもあるように思います。

●なんやかんやでラムのことが好きな健気さ

　そっけないあたるというより、一途なラムに切なさを感じるふたりの関係。物語が進むにつれ、次第にあたるの心の揺れが描かれていきます。最初、あたるはラムを邪険にしたり、面堂に押し付けたりしていましたが、ラムのことは「かわいい」と思っており「好意」もきちんとあります。

　上述したクラマが暴いたあたるの脳内すごろくのなかにラムはいましたし、姿が牛になってしまう病にかかったと思い込んだラムを思いやり、自宅の庭にウシ小屋を建設しようとしたり、好意を態度で示したりしてきました。その感情の集大成が最終回で繰り広げられた鬼ごっこです。

　この戦いであたるから「好きだ」と言われたいラムと、決して言わないあたる。しかし戦いのなかであたるからの「愛情」を感じ、ハッピーエンドで終わりました。

　このあたるの性分が現れているのが最終ページの「いまわの際にいってやる」の名ゼリフです。暗に「いまわの際まで一緒にいるつもり」であることを告白するのは男前過ぎます。

　これだけ有能な男・諸星あたるに惚れるラムの気持ちは大いに解せます。かといってラムを邪険にしていいのか、と外野は思ってしまいますが、その実ラムもきちんとあたるの愛情を感受していたのだと思います。なのでやはり我々のあたるへのイラ立ちは嫉妬以外なにものでもないように思うわけです。

（南城与右衛門）