40年前のアニメを代表する「挿入歌」 主題歌でなくても、歴史を変えた傑作曲
マグミクス / 2022年8月5日 6時10分
■1982年という時代を代表するアニメの挿入歌
歌はアニメとは切っても切れない関係にあります。しかし、TV番組のアニメ特集でも使われる曲はだいたい主題歌だけ。確かに主題歌は放映では必ず使用される作品の顔ですが、普段はあまり使用されない挿入歌にも時には作品を印象づける名曲が多くありました。
そこで筆者が印象的だった挿入歌について振り返ってみたいと思います。ちょうど40年前の1982年に放送された作品から3曲お届けしましょう。
1982年頃は、レコード会社の広告がどのアニメ雑誌でも大きく掲載されていた時代です。まだビデオもそれほど普及していなかった時代ですから、アニメファンにとって音に関する販売物はレコード(カセットテープ)がメインでした。この頃のアニメファンなら、ほとんどの人が何かしらの作品のレコードを買ったことがあるのではないでしょうか?
この年のアニメ挿入歌で筆者がもっとも記憶に残っているのが『戦闘メカ ザブングル』の「HEY YOU」。後半の戦闘シーンで主に使われていた曲です。歌手はMIOさんで、彼女のデビュー曲になります。
明るくノリのいい曲調で、歌詞も秀逸でした。それもそのはず、歌詞は井荻麟さん、富野由悠季監督の作詞家としてのペンネームです。つまり、もっとも作品世界に精通した作詞家でした。
歌詞を聞いていると、男勝りの女性視線なことが分かります。おそらく劇中の女性キャラであるラグ・ウラロの視点から書かれているのでしょう。そうすると、歌詞のなかで登場するもうひとりは主人公のジロン・アモスと考えられ、作品に合わせたストーリー性のある歌詞だと考えられます。こういったドラマ仕立ての歌詞は富野監督の十八番とも言えて、ラグの心情を歌った名曲だと考えられませんか?
「HEY YOU」がラグのイメージだとすると、カップリング曲である「わすれ草」はもうひとりのヒロインであるエルチ・カーゴを思い起こさせます。そう考えると、ダブルヒロインの心情を歌に乗せた曲がファンの心をつかんだのも納得と言うもの。
そして、デビュー曲でいきなりパワフルなイメージをファンに与えたMIOさんは、いわゆるアニソン歌手として期待の新星でした。翌年に開催されたアニメ雑誌「アニメージュ」主催の「アニメグランプリ」第6回では、それまでトップを独占していた堀江美都子さんを抑えて女性歌手第1位の座を手にしています。
この後、MIOさんは劇場版である『ザブングル グラフィティ』でも「GET IT!」と「Coming Hey You」を歌っていました。この他にも『ザブングル』の後番組となる『聖戦士ダンバイン』、『重戦機エルガイム』ではオープニング曲とエンディング曲を担当しています。
井荻麟こと富野監督が作った詩を、MIOさんのパワフルボイスで聞かせる名曲の数々は、この時代のアニメファンには忘れられない印象的な歌でした。
■アニメと歌の歴史に忘れられない名曲は?
「嗚呼!逆転王」も収録されたベストアルバム『タイムボカン 名曲の夕べ』(JVCエンタテインメント)
続いては『タイムボカンシリーズ 逆転イッパツマン』の挿入歌「嗚呼!逆転王」。本作の主人公ロボである逆転王のメインテーマ曲です。
『タイムボカンシリーズ』といえば、ギャグ満載のドタバタコメディのイメージがありますが、本作の主人公であるイッパツマンこと豪速九(ごう・そっきゅう)はいたって真面目な人でした。シリーズのマンネリ化を打破するべく、シリーズでもっともシリアスな雰囲気が強い作品となっています。
この「嗚呼!逆転王」ですが、実は逆転王に使われたシーンではメロオケがほとんどで、ボーカル入りが使用されたのは一度きりというレアな曲でした。しかし、本格的に使われたのは逆転王が破壊されて、2号ロボである三冠王の登場後だったのです。
三冠王の登場後、「逆転王」の部分を「三冠王」に変えた別バージョンの「嗚呼!逆転王」が使われるようになりました。「嗚呼!三冠王」とも呼ばれるこのバージョンは劇中でひんぱんに使用され、ファンからは独創的な歌詞とテンポのいい曲調が高評価を得ます。
『タイムボカンシリーズ』ですから、作詞、作曲、歌手は山本正之さん。(歌手の名義はやまもとまさゆきさん)個人的には山本さんの作った曲の中では一、二を争うくらい好きな曲です。独特の歌詞に注目したファンも多くいました。
ちなみに、この「嗚呼!三冠王」は正式な挿入歌としてソフト化されていません。なぜなら、この歌は山本さんがアフレコスタジオで、即興で歌ったからだそうです。ある意味で「幻の挿入歌」と言えるかもしれません。ちなみに、カラオケで「嗚呼!逆転王」を入れて、「嗚呼!三冠王」で歌う人は多く見受けられます。
最後にご紹介するのは『超時空要塞マクロス』から劇中のアイドルであるリン・ミンメイのデビュー曲「私の彼はパイロット」。歌はミンメイの声優を務めた飯島真理さんです。
それまでのアニメ作品でも歌手を題材にした作品は多くありましたが、この作品をきっかけに劇中の歌手を商品のひとつとしてプッシュするという方法がアニメでも使われるようになりました。その点では、現在のようなアニメと音楽でメディアミックスするようになったきっかけと言えます。
しかし、本作はメカをセールスするロボットアニメで、それほど音楽面には大きな比重が置かれていませんでした。実際、「私の彼はパイロット」は単品として発売はされておらず、放送中にサウンドトラックLPのなかの一曲として他のミンメイの曲と一緒に収録されたのみです。しかも当初は1番のみが作られた1分ほどの曲でした。
ところが作品としての人気、試みの目新しさといったものが加味され、アニメファンの注目を浴びることになります。一部のファンには曲はもちろん、振り付けまでも覚えるというコアな層も現れ、アニメの音楽における革命的な曲となりました。
前述しましたが、アニメにおける音楽との関係性はもともと深いものでしたが、「私の彼はパイロット」がきっかけに、それまでと違った新たな可能性が模索されることとなったわけです。その点では今に至るアニメと音楽の密接的な関係の始祖と言えるかもしれません。
以上が40年前の1982年に印象的だったアニメの挿入歌3曲です。この年代を知るファンなら、多くの人が3曲とも歌えるのではないでしょうか?
(加々美利治)
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