ロボットアニメの新常識生んだ「ウォーカー・ギャリア」の衝撃 背景には「クリスマス」が?
マグミクス / 2022年8月7日 6時10分
■今では当たり前な「主役機交代」のきっかけ
本日2022年8月7日は、40年前の1982年に『戦闘メカ ザブングル』第26話「イノセント大乱戦」が放送された日です。このエピソードで初登場したのが、作品後半の主役メカとなる「ウォーカー・ギャリア」でした。後に定番化した主人公機交代劇のきっかけとなったギャリアについて解説していきましょう。
作品中盤に登場し、後半までの主人公メカとなる通称「2号ロボ」は、今では当たり前の存在となっていますが、本格的に登場して活躍したのはギャリアが最初だと言われています。たとえば、ゲッターロボからゲッターロボGへの交代は別番組となったためのバージョンアップ、メカンダーロボは2号といっても外見上はほとんど同じと、意味合いが違いました。
あえて言うならば、特撮番組『ジャンボーグA』でのジャンボーグAからジャンボーグ9がありますが、これも本作の持つ交代劇の意味とはちょっと違います。ザブングルからギャリアへの主役機交代は、当時のアニメファンをおどろかせた、富野由悠季監督が本作で試みた「パターン破り」の一環でした。
そうはいっても予兆となる点は事前にいくつか見受けられます。そのひとつが、スポンサーである玩具会社がクリスマス商戦に向けた目玉商品という点でした。現在ではクリスマス商戦のために新アイテムを発売するのは当たり前のことですが、当時はまだそれほど確立したものではありません。主力商品となる主役機が発売されると、それ以上の展開はないのが普通だったのです。
しかし、本作のスポンサーだった株式会社クローバーは、3年前から1年間放送する予定のアニメ作品後半に強化アイテムを投入していました。『機動戦士ガンダム』のGファイター、『無敵ロボ トライダーG7』トライダーシャトル、『最強ロボ ダイオージャ』クロスエイダーです。いずれも主役機と合体するというプレイバリューを意識した拡張商品でした。
つまり本作も、作品後半にザブングルと合体する飛行機的なものが発売されると当時のファンは思っていたので、ギャリアの登場は画期的だったというわけです。ちなみに当初は2機のザブングルが合体するというアイデアもあったとのこと。こういった既成概念にとらわれずに新たな主役機を登場させたという点で、本作が後の作品群に大きな影響を与えたという点は間違いないでしょう。
ここまでの解説で異論を唱える人は、おそらく『タイムボカンシリーズ』を例に挙げることと思います。確かにシリーズ第二弾『ヤッターマン』のヤッターワンが破壊されてからのヤッターキングの登場、ヤッターゾウへの交代という前例がありました。しかし、作品タイトルがロボット名でないことや、他作品に与えた影響を考えるとちょっと違うといえるでしょう。
むしろシリーズの交代劇でインパクトがあったのが、その後のシリーズの『逆転イッパツマン』の逆転王から三冠王でした。実は本作と同じ年の作品だったのですが、2号ロボの登場が1982年9月11日で、わずかの差でギャリアに初の交代劇を譲っています。
余談ですが、この『イッパツマン』の交代劇の原因となった悪役・隠球四郎(かくれ たましろう)の担当声優は、『ザブングル』の主役ジロン・アモスの担当声優である小滝進(現在は大滝進矢)さんでした。
■ギャリア最大の武器が「ICBM投げ」だった理由
『戦闘メカ ザブングル』前半の主役機、「HI-METAL Rザブングル 塗装済み可動フィギュア」(BANDAI SPIRITS)。物語中盤で、このザブングルが大破し、ウォーカー・ギャリアに主役機の座を譲ることになる
ギャリア登場の理由は他にもありました。それは本来の主役機であるザブングルのデザインです。劇中に登場するウォーカーマシンの基本的なデザインと、ザブングルには大きな差異がありました。その理由は本作がもともとは宇宙を舞台にした物語でしたが、途中で加わることになった富野監督により、地上を舞台にした西部劇調の物語に変更されたからです。
そのため、ウォーカーマシンというカテゴリーのなかでザブングルだけがデザイン的に浮いてしまうことになりました。そういった事情で富野監督は早い段階からギャリアの登場を決めていたそうです。
ギャリアのデザインは富野監督のアイデアをメカデザイナーの大河原邦男さんがまとめたそうですが、同時期に同じサンライズで製作していた『太陽の牙ダグラム』の登場兵器であるコンバットアーマーに似てしまったため、キャラデザインの湖川友謙さんが大幅な修正を加えて決定稿としました。
こうして完成したギャリアは主人公機にしては珍しいマッチョな体形で、本作の世界観に添ったデザインの機体となります。主役であるジロンが、それまでのロボットアニメの主人公にはない丸顔だったこととあわせて、本作独自の世界観構築に一役買っていました。
本作での活躍も、時にはザブングル以上のコミカルさを見せたかと思えば、逆に力強い活躍シーンを見せるなど、人気の高い主役機だったと思いますが、オモチャの売り上げは予想以上に悪かったそうです。当時の分析では、分離後のデザインがザブングルと違って車にも飛行機にも見えなかったからと言われていました。
そして、さらに悲劇的だったのがバンダイのプラモデルシリーズが不調で、主役機であるにもかかわらず発売は1/144だけで、1/100は販売されなかったことです。もっともプラモデルの販売不振の理由は人気面というより販売戦略によるところが多く、本来なら一番最初に発売するはずの主役機ザブングルの発売を年末まで繰り下げたことが原因でした。
これにより未発売に終わった1/100ギャリアは、2008年に『R3 1/100ウォーカー・ギャリア』として発売されるまで、25年もの間、ファンには幻の商品となります。
ギャリアの武装はライフルやバズーカといった一般的なものから、ロケットランチャーながら使用後は投擲武器にもなるブーメランイディオム、アニメ本編では使われなかった両肩にマウントする5連装ミサイルランチャーといった一風変わったものまでありました。
しかし、ゲーム『スーパーロボット大戦シリーズ』をプレイした方には「ICBM投げ」のインパクトが大きいことでしょう。これは本作第49話の最終決戦で、敵のICBMを着弾前に受け止め、それを敵艦に投げ返したというエピソードを技として再現したものです。
敵艦を撃破するほどの破壊力ですから、ギャリアの最高威力の武器になるのは仕方ありません。さらにゲームではギャリアは乗り換え可能なため、各キャラのリアクションがそれぞれ新規録音されていました。ちなみにアニメでは大爆発は起こりますが、乗組員は真っ黒でボロボロになった程度で生きています。ギャグ要素の濃い本作ならではの名シーンでした。
このようにギャリア自身を語るエピソードもあるのですが、これ以降に2号ロボを定番化させたという点だけ見ても、アニメ史に残る功績を果たした歴史的な主役機といえるでしょう。
(加々美利治)
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