アニメ化されやすい森見登美彦作品 今後の候補は? 自由な作風が映像にも反映される
マグミクス / 2022年8月11日 20時20分
![アニメ化されやすい森見登美彦作品 今後の候補は? 自由な作風が映像にも反映される](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_105402_0-small.jpg)
■饒舌な森見登美彦ワールドはむしろアニメの方が相性良い?
小説家・森見登美彦さんの作品と「アニメ」の相性は抜群のようです。これまでに『四畳半神話大系』『夜は短し歩けよ乙女』『有頂天家族』『ペンギン・ハイウェイ』とヒット作を連発。いずれもアニメ化され、大ヒット、高評価を獲得しました。
例えば2010年にアニメ化された『四畳半神話大系』は、京大生の主人公が、華々しいキャンパスライフを送るためにサークルを分岐点として生まれる並行世界を描いた傑作青春小説です。原作のインテリジェンスを半ば戯画化したかのような饒舌な文体は、アニメでも圧倒的なモノローグで再現されました。湯浅政明監督による輪郭線による変幻自在でスタイリッシュな映像も高く評価され、文化庁メディア芸術祭アニメーション部門を受賞。森見登美彦作品のアニメ作品との親和性を見事に証明しました。さらに代表作『夜は短し歩けよ乙女』もまた湯浅監督によって2017年にアニメ映画化され、大ヒットを記録しています。圧倒的情報量の原作に対して、映像はできる限り抽象生を高める演出が冴え渡りました。
動物が主人公の作品もまた、森見さんの得意分野です。『有頂天家族』は、因縁深いタヌキの一族同士の争いを描いたファンタジー作品。こちらも京都を舞台に、空飛ぶ茶室を始めとしたダイナミックな映像が頭に流れ込む物語です。2013年には漫画家・久米田康治氏によるキャラクターデザインでテレビアニメ化され話題になりました。また普通の町にペンギンが大量発生する謎を小学生が解き明かそうとする、第31回日本SF大賞受賞作『ペンギン・ハイウェイ』も2018年にアニメ映画化されました。
その他、上記作品群は続編もアニメ化されており、活字が苦手な方であっても森見登美彦ワールドは十二分に堪能できるのです。
■今後、アニメ化されそうな森見登美彦作品は……?
マンガ化された『太陽の塔』1巻(講談社)
さてそうなってくると気になってくるのが今後の展望です。森見さんは多作であり、他にも多くの作品を発表されています。上記以外で、今後「アニメ化」されそうなものはあるのでしょうか。例えばデビュー作『太陽の塔』は「四畳半」シリーズと同じく、アクの強い京都の大学生が主人公。すでに私たちの知る森見ワールドは完成していますし、かしのこおりさんによってコミカライズもされているので、アニメ化も十分考えられますが、いかんせん他作品と比べると静的なため実写作品の方が魅力を抽出できるかもしれません。
また直木賞候補となった、2016年刊行の『夜行』はどうでしょうか。舞台はおなじみの京都です。物語は10年前に起きたある女性の失踪事件から幕を開け、かつての大学の仲間たちが空白の10年間に起きた様々な怪異によって紡がれる新感覚ホラー。これまでの森見登美彦作品のような朗らかさはなく、絶えず死の香りが漂う不穏さが魅力で表紙絵の女性もアニメ的です。少々、難解で解釈が人によって異なる点は、テレビアニメよりか映画向きかもしれません。
また、同じく直木賞候補となった話題作『熱帯』は森見さんが10年近い苦悩の果てに完成させたもので、主人公はなんと森見登美彦さんご本人。誰も最後まで読んだことがない小説『熱帯』をめぐる小説そのものを題材にした本作は、もしかしたら最も「アニメ化」が難しい森見作品かもしれません。
小説の映像化=実写という業界のイメージ自体を変えてしまった森見登美彦さんは、さらにそのイメージをここ数年、ご自身で塗り替えようとしています。それをさらにアニメ業界がどう捉えるのか? そもそも一旦、距離をとっていくのか? クリエイター同士の知的な鬼ごっこに、勝手ながら胸がときめきます。
(片野)
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