「一斉配信」は人気アニメも話題になりづらい問題「ネタバレ」を恐れてSNSから遠ざかり…
マグミクス / 2022年8月14日 11時50分
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■一斉配信の問題点
近年、新作アニメが動画配信サービスで全話一斉配信される事例が増えています。2022年だけでも『スプリガン』や『TIGER & BUNNY 2』など根強いファンを抱える作品が複数配信されていますが、率直に言ってそれほど話題になったとは思えない状況です。なぜ、多くのファンが長年待ち望んだタイトルであるにも関わらず、作品について語る人があまりいないのでしょうか。
その大きな理由として考えられるのが、全話一斉配信の場合、個人ごとに見るタイミングや何話まで見るのかが異なる点です。時間に余裕のある熱心なファンならば、一斉配信が開始されたのと同時に最後までずっと見続けることも可能でしょうが、忙しい日々を送る現代人にとって、アニメをまとめて視聴するのは至難の業です。休みの日に時間を作って一気に見る人もいれば、毎日1話ずつ見る人もいるでしょう。電車での通勤通学中に行きで1話、帰りに1話、合わせて2話を見る人もいるかもしれません。いつどのようにして見るのかを完全に個人の都合に合わせて決められるのは、時間の有効利用の観点から考えれば便利極まりないと言えるでしょう。
しかしながら個人ごとに見るタイミングが違うことは、SNSで話題に出しづらい問題点を抱えています。かつて主流だったTVでのアニメ放送の場合は最も早く放送された地域の視聴者から先んじて感想が出てくることがしばしばありました。その内容にはネタバレが含まれていることもありましたが、仮に内容を知ってしまったとしても1話分でしかなく、放送時間も定まっていたため、意識していれば回避も十分可能でした。
これが一斉配信の場合は事情が一変します。配信開始から半日後には、すべて見終わってしまった方が存在している状態になっているのです。まだ視聴時間が取れない方がたくさんいるのに、自分はもう見終わってしまった。このような状況ではネタバレだと叩かれる危険性を考えれば、感想を書くのは難しいでしょう。
■ブームを生むには時間が必要
『スプリガン』 (C)2021 たかしげ宙、皆川亮二・小学館/スプリガン Project
過去から現在まで、数多くのアニメがブームを巻き起こしてきましたが、その多くは「このアニメはすごい」という一人ひとりの視聴者による口コミやSNSなどへの書き込みが大きな原動力となっていました。
近年では2011年に放送された『魔法少女まどか☆マギカ』が視聴者の行動によって大きなムーブメントが起きた作品だと思われます。当初、1話と2話が放送された段階ではさほどの話題とはなっていなかった本作ですが、3話の放送で頼りになる先輩魔法少女として描かれていた巴マミが一瞬の油断から戦死を遂げたことから一挙に話題が沸騰しています。
各所のアニメ系掲示板では『まどマギ』の話題一色となり、膨大な量の感想や考察が書きこまれました。その後は次の回が放送されるごとにその壮絶な内容や提示された細やかな情報について多くの人が語り合い、ファンアートも続々と登場するなど、ブームが加速していきました。
『まどマギ』の事例から考えれば、ブームを起こす作品にはファンが語り合う時間や場所の存在が重要と言えるでしょう。次の回を待つ一週間という時間で、ファン同士が熱を持って語り合い考察し、文章が書ける方はショートストーリーを、絵が描ける方はファンアートを作り上げ、そのなかから新たなクリエイターが生まれ、ブームにさらなる力が加わっていくのです。
残念ながら一斉配信の場合はファン同士が語り合うタイミングがないため、熱意がブームを起こすのは難しいでしょう。アニメの放送形態としてはあまり向いていないのではないでしょうか。
では、なぜ一斉配信が行われるのか。これは独占配信の形式を取り、コンテンツを直接視聴者に届ける事業者が増加しているためと思われます。チャンネルの登録料/使用料という形で収益を確保できているため、ブームを起こすという視点がない可能性があります。もしくは「そもそもブームを起こすには時間が必要」であることを認識できていないかもしれません。
もし何らかの考えがあって一斉配信を行っているのであればよいのですが、もし何も考えずに慣習で行っているとすれば、ファンは素晴らしい作品に出会う機会を、配信事業者は大きな利益を失っているのかもしれません。願わくは、素晴らしい作品にはブームを醸成する時間と機会を与えて欲しい。筆者はそう願っています。
(早川清一朗)
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