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『戦争めし』の魚乃目三太氏 日本人の「食卓」描いて伝えたいこととは

マグミクス / 2022年8月15日 7時10分

『戦争めし』の魚乃目三太氏 日本人の「食卓」描いて伝えたいこととは

■カツ丼にナポリタン、焼き餃子…日本人のリアルな食卓描く

 累計発行部数35万部の『戦争めし』などの人気「食マンガ」を手がけるマンガ家・魚乃目三太さん。そのデビュー15周年を記念して、画集『魚乃目三太のマンガめし画帖 幸福ゴハンのきのう・きょう・あした』(玄光社)が発売されます。近年、食マンガのストーリーが多様化するなか、魚乃目三太さんは独自の作品世界を貫いて、読者の共感を集めています。「食べることは、生きること」と語る魚乃目三太さんに、創作の裏話をお聞きします。

「実は、食マンガを描くことに特別なこだわりはないんです」

 食マンガのホープとして知られる魚乃目三太さんに、「食事」をテーマとする理由を尋ねると、返ってきたのは意外な答えでした。

「大好きな江戸時代の絵師・東洲斎写楽のお話も描いてみたいし、いろんな分野に興味がある。食べることが好きな僕ですが、マンガに関しても『食いしん坊』なのかもしれませんね」

 大学卒業後、建設関連の会社に勤めていたという魚乃目三太さん。今も土木工学に興味があり、建設に携わる人びとの物語をいつか描いてみたいと笑顔で語ります。

 サラリーマン生活の傍らでマンガを描き続けた魚乃目さんは、30代を迎えたのを機に念願のマンガ家デビュー。

「子どもの頃からお話を考えるのが好きで、ノートに構想をたくさん描き留めていました。そんな僕が、初めて“食”をテーマに描いたマンガが『祖母(おばあ)のカツ丼』です。

 2010年に食マンガの専門誌として登場した「思い出食堂」(少年画報社)の第2号「おふくろの味編」に寄稿した作品で、以来10年以上「思い出食堂」に短編を執筆し続けています。

 僕が描くのは豪華グルメではなくて、日常的にみんながよく食べている食事がほとんどです。僕は、フツウの人たちのドラマに興味がある。普通に生きているのになぜか思いがすれ違っていく……日常的な食事を背景に、動き出すドラマを描きたいと思っているんです」

「思い出食堂」(少年画報社)の表紙画ギャラリー。左側に掲載の駄菓子屋のイラストは、作者お気に入りの1枚。『魚乃目三太のマンガめし画帖 幸福ゴハンのきのう・きょう・あした』(玄光社)より (C)魚乃目三太/少年画報社

 祖母と少年の家族愛を描いた『祖母(おばあ)のカツ丼』は、魚乃目三太の食マンガデビューを飾る快作として評価を受けました。一躍「思い出食堂」看板作家のひとりとなった魚乃目三太さんは、同誌の表紙イラストを任されるようになります。

「『思い出食堂』〈夏の味編〉の表紙に描いた駄菓子屋のイラストは、僕の子ども時代の体験そのまま。プール帰りの子どもが、水着のまま入店している様子まで描いていて、もう二度とこういった作品は描けないと思う。お気に入りの1枚で、今回発売する画集『魚乃目三太のマンガめし画帖』にも掲載しています」

■『宮沢賢治の食卓』は、少年時代に読んだ『注文の多い料理店』がルーツ

『宮沢賢治の食卓』(少年画報社)の紹介ページ。『魚乃目三太のマンガめし画帖 幸福ゴハンのきのう・きょう・あした』(玄光社)より (C)魚乃目三太/少年画報社

 少年画報社「思い出食堂」で、感動の食マンガを描き続ける魚乃目三太さん。2014~20年には、宮沢賢治の「食」にまつわる伝記マンガ『宮沢賢治の食卓』を連載しています。

「大正時代に、童話作家・詩人として活躍した宮沢賢治さん。代表作『注文の多い料理店』のなかには、『バター』や『ビネガー』などの言葉が出てきます。でも、この作品が執筆されたのは、まだ洋食が珍しい時代だったはずです。西洋の食事情に詳しい賢治さんは、かなりの食いしん坊だったのではないか――子どもの頃に抱いた疑問から『宮沢賢治の食卓』のアイデアが生まれました」

「雨ニモ負ケズ……」の詩で知られる宮沢賢治は、病弱で質素、我慢の人というイメージが一般的です。
「編集長に企画を相談したところ、宮沢賢治は小食で菜食家のイメージだから、食マンガにするのは難しいと言われました。でも、編集長はあきらめずに情報を集めてくれて、「思い出食堂」での本格連載に漕ぎつけることができました。

 宮沢賢治の出身地・岩手県の花巻にある「やぶ屋」という蕎麦屋は、宮沢賢治にゆかりのあるお店。英語で藪(やぶ)を「BUSH」ということから、彼はこの店を「ぶっしゅ」と呼んで足繁く通っていました。賢治さんは、天ぷら蕎麦とサイダーが好きでよく頼んでいたそうです。

 宮沢賢治さんは、調べれば調べるほどユニークな人。『宮沢賢治の食卓』の執筆は、とても楽しい仕事となりました。本作では、宮沢賢治作品から着想したイラストをカラー扉に描いています。幻想的な世界にするため、いろいろな画材を使って手描きをしたり、パソコンのデジタル画と合成したり、いろいろな工夫をしました。画集では、大型サイズでカラー掲載されているので、賢治さんの世界を楽しんでほしいと思います」

■「食べることが、生きること」 『戦争めし』で語り継ぎたいこと

『戦争めし』の紹介ページ。旧日本陸軍の糧食をイラストと共に解説している。『魚乃目三太のマンガめし画帖 幸福ゴハンのきのう・きょう・あした』(玄光社)より (C)魚乃目三太/秋田書店

 2015年より「ヤングチャンピオン烈」(秋田書店)などで連載中の『戦争めし』。魚乃目三太さんは、本作で人間の営みの根源である「食」をテーマに戦争を描き、あらゆる世代から反響を呼んでいます。

「僕が『戦争めし』を描くきっかけとなったのは、テレビの戦争特集で紹介された1枚の絵を見たことです。インパール作戦の生還者による作品で、「空の飯盒(はんごう)」を握りしめてジャングルを逃げまどう、若き日のご自身を描かれていました。兵士なのに、手にしているのは銃ではなく飯盒だった。気になって、インパール作戦のことを調べたんです」

 1944年のビルマ戦線において、旧日本陸軍がインド北東部の都市・インパールの攻略を目指した「インパール作戦」。ビルマとアッサム地方の間には2000メートル級のアラカン山脈が横たわっています。前線への食糧補給が困難なことから、作戦は発動から3か月あまりで失敗。そして、撤退路で多くの将兵が飢えと病に倒れています。

「インパール作戦について、調べれば調べるほど無謀な作戦だったことがわかりました。悲惨な体験を描いたイラストには、百万言の言葉より伝わるものがあった。その絵からは『食べることこそが、生きること』だというメッセージを感じたんです。

 僕が『戦争めし』の連載を始めてから、今年で8年目の夏を迎えることができました。今も、あの時に見た1枚のイラストに、尊敬の念を込めながら『戦争めし』を描き続けています」

 戦争体験者や遺族の協力のもと、取材を続ける魚乃目三太さん。『戦争めし』をきっかけに戦争を学ぶようになった若い世代との交流も生まれています。最新刊のyc COMICS『戦争めし』8巻(秋田書店)には、沖縄・本土復帰50年を機に、恩納村戦没者遺族会・恩納村立うんな中学校の協力で誕生した「沖縄戦場めし」を収録。

 画集『魚乃目三太のマンガめし画帖』では、魚乃目三太氏によるイラストと共に「戦艦大和のオムライス」や「零戦の空弁」などのエピソードから、戦時下の食事情を解説しています。

 終戦から77年目の夏――。「食べることが、生きること」という魚乃目三太さんのメッセージとともに、私たちの「食」の歴史を見つめ直してみてはいかがでしょうか。

※文中一部敬称略

(C)魚乃目三太

※『魚乃目三太のマンガめし画帖 幸福ゴハンのきのう・きょう・あした』(玄光社)は、2022年8月16日(火)より発売予定、東京・神保町「書泉グランデ」と「書泉オンラインショップ」にて、「魚乃目三太フェア in 書泉グランデ」を31日まで開催。画集の誌面を用いた複製原画の展示や関連書籍の販売が行われます。同日より、仙台・喜久屋書店仙台店でも、複製原画の展示が開催予定です。

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