『ガンダム』なぜ、あんなに種類必要? 水陸両用MSのナゾ
マグミクス / 2022年8月26日 6時10分
![『ガンダム』なぜ、あんなに種類必要? 水陸両用MSのナゾ](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_106617_0-small.jpg)
■「宇宙育ちの軍隊」が地球の海の戦いを制するための兵器開発
ジオン公国が地球侵攻作戦を行うなかで新たに必要となったのが、水陸の両方で運用できるモビルスーツの存在でした。スペースコロニーには存在しない、広大な海でモビルスーツを使用してどう戦うか? ジオン公国軍が求めていった兵器の在り方が、限定条件でのみ運用されるモビルスーツを多く生み出すことになっていきました。
では、どうしてさまざまなスタイルの水陸両用モビルスーツが必要だったのでしょうか? 用途別に開発されることになる水陸両用モビルスーツの発展史を解説していきましょう。
●水中での使用を前提に汎用性を捨てて進化
ジオン公国軍は、地球連邦軍の勢力圏である地上に降り立ち、対抗していくためには陸、海、空のそれぞれの領域で対抗しうる兵器を用意する必要がありました。
陸と空に関しては、モビルスーツの存在とコロニー内で開発してきた航空戦力によってある程度対応できましたが、大きな障害となったのは地球の大部分を覆う「海」の存在でした。モビルスーツを持たないながらも、地球連邦軍は海上で使用可能な軍用艦や潜水艦を多数擁しており、海での戦闘に関しては大きくリードしていました。それに対し、船や潜水艦の数が少ないジオン公国軍は、宇宙空間と同じようにモビルスーツ頼りの海上、海中戦闘を行わなければなりませんでした。
ジオン公国軍も地球侵攻作戦を行うに際して、海を攻略することの重要性は理解しており、作戦実行に向けて水中用モビルスーツの開発を行っていました。そのテストベッドとなったのが、MS-06ザクIIをベースに開発されたMS-06M水中用ザクです。
ザクの基本フレームを活かしつつ、水中用のシーリングや耐圧処理、推進機構を取り付けたザクは、水中での行動を可能としたものの、水中での移動スピードの低さ、艦船への攻撃力の弱さ、構造的な問題から運用可能な水域が浅いなど、問題点が多く挙げられることになります。また、水中用の外装は、地上に上がった際には運動性や機動性が低下してしまうという欠点も明らかとなりました。
こうしたデータのもと、水陸両用モビルスーツは下記のような条件を克服しなければならなくなります。
・水中での移動能力や行動範囲を広げるのに特化した強度と形状、推進力の獲得
・水中での対艦攻撃能力と地上での対モビルスーツ戦闘などに対応する武装
・水中だけでなく、地上でも高い運動性能を発揮する性能
モビルスーツと言えば、局地戦に特化する形で機能面の強化を図る形で進化を遂げるものの、一方で、5指型のマニピュレーターで武装を装備し、武器の共通化や運用目的にあわせた武装変更が容易な「汎用性」が重要視されていました。しかし、水陸両用MSは汎用性を捨て、使用する場所を限定する専門性に特化する方向で進化することになります。その結果、水陸両用モビルスーツのなかで、運用目的に合わせた機体開発がなされ、機体の種類が増えていくことになります。
水中用モビルスーツは、ジオン公国にある兵器メーカーであるジオニック社とツィマッド社が同時に開発を開始します。
ツィマッド社とジオニック社は共に、運動性の向上やメガ粒子砲を内蔵するために、ザクIIなどと比較するとより高出力を発揮できる大型のジェネレーターを内蔵した重モビルスーツとして水陸両用モビルスーツの開発が行われることになります。海なかから軍艦の底部を物理的に攻撃可能な強固なツメ型の武装の装備、手持ち式ではない内蔵型メガ粒子砲や魚雷発射装置を取り付けるという基本的な思想は変わらないながらも、いくつかのアプローチが異なる機体が完成することになります。
ツィマッド社は腕部を格納することで水中の移動能力を向上させ、重装甲と腹部に配置したメガ粒子砲による攻撃力を持つことで、上陸作戦時の活躍を期待できるMSM-03ゴッグを開発。ジオニック社は、両腕の内部にメガ粒子砲を内蔵することで腕を向けた方向へフレキシブルな攻撃能力を持ち、地上では高い運動性能を発揮できる設計を行ったMSM-07ズゴックの開発を進めます。
結果的には、ゴッグの方が早く完成を迎えたため、型式番号は若くなりましたが、ジオン公国軍としては、パワーがありながらも運動性が低いゴッグよりも、トータルバランスがよく、水陸の両面で戦闘能力の高いズゴックを主力の水中用モビルスーツとして採用することになります。
■廉価版や特務作戦、求められるさらなる水陸両用の機体
廉価版の水陸両用モビルスーツとして改初されたアッガイ。この機体の存在がさらなる特務作戦型の機体を生むことになる。画像は「MG 1/100 MSM-04アッガイ」(BANDAI SPIRITS)
一方、大型のジェネレーターを積載した重モビルスーツ扱いの水陸両用モビルスーツは、生産や運用コストが高くなってしまうため、従来のモビルスーツで使用していたジェネレーター出力を抑えた廉価版とも言える機体の開発も同様に求められました。
ジオニック社は、ザクIIからパーツを流用する形で、MSM-04アッガイを開発。こちらは、ズゴックよりも先に完成したために、若い形式番号が与えられています。アッガイはジェネレーター出力の問題でメガ粒子砲は片腕にのみ装備されました、複座式コックピットを採用することで人員を多く運ぶことができ、偵察用として採用されることになりました。
ゴッグは上陸作戦でハイパワーと重装甲、大きな火力で港湾部などの上陸作戦で先陣を切る機体、アッガイは攻撃力こそ低いものの高い運動性と低視認性を活かした偵察用、そしてバランスを重視した高い戦闘能力を持つズゴックが主力の機体として戦うという、目的別に運用されることになります。流線形の外観と耐圧性を上げた装甲によって、水陸両用モビルスーツは潜水艦との連動運用をすることが可能となり、地球連邦軍の海上戦力や補給網に大きな打撃を与えることになりました。
●さらに増え続ける水陸両用MSの種類
この他にMSM-10ゾックが開発されます。水中の単独移動が可能ことから、分類こそ水陸両用モビルスーツですが、大型の機体サイズと多数のメガ粒子砲を装備し、歩行不可能な形状は移動砲台とも言えるものとなっています。拠点攻略のための特殊な設計がなされた機体は、その後に登場するモビルアーマーの先駆けとも言えるでしょう。
さらに、水陸両用モビルスーツは、地球連邦軍の本部であり、巨大な軍需工場を擁するジャブローを攻略するために、さらなるバリエーションが生まれることになります。
敵の重要拠点であるジャブローを攻略するには、さらに運用目的ごとに機能を特化させた特務型水陸両用モビルスーツが開発されました。通称「アッグシリーズ」と言われる水陸両用MSたちは、3種存在します。
MSN-04Gジュアッグは中距離での攻撃性能に特化。MSN-04Nアッグガイは接近戦用にヒートロッドを装備し、運動性を向上。この機体はどちらも型式番号からわかる通り、アッガイをベースに開発が行われました。そして、アッグガイ、ジュアッグと共にジャブロー内部への進入路を切り拓くための機体としてMSM-05アッグも加えられています。さらに、ズゴックと同時期に開発されながらも、特務型として分類されることになるMSM-08ゾゴックなども存在しています。
しかし、ジャブロー攻略戦に関しては、アッグシリーズを中心とした特務型水陸両用モビルスーツが使用されることはありませんでした。その後の『機動戦士ガンダムZZ』や『機動戦士ガンダムUC』で特務型水陸両用モビルスーツが登場しているので、実際に生産されており、ジャブロー攻略戦はそれほどに重要であり、水陸両用モビルスーツに対する期待度は高かったと言えるでしょう。
大きなツメとずんぐりとした巨体を持つ水陸両用モビルスーツたちは、汎用型のモビルスーツに比べると特異な姿をしているためになんとなくユーモアを感じさせる存在ではあります。しかし、ジオン公国軍が地球で戦うためには、欠かすことのない兵器だったことは間違いないでしょう。
(石井誠)
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