『レインボーマン』放送50周年 「死ね死ね団」のテロ活動は現代にも通じるリアルさ
マグミクス / 2022年10月6日 6時10分
■当時では珍しい苦悩するヒーロー
本日10月6日は、半世紀前の1972年にTV特撮番組『愛の戦士レインボーマン』が放送開始した日です。第二次特撮ブームと言われた時代に誕生したヒーローのなかでも、特異な存在だった本作について振り返ってみましょう。
本作の原作は川内康範(かわうち こうはん)先生。現在ではその偉業を知らない人も多いかもしれませんが、さまざまな分野で名を馳せた方です。作詞家として森進一さんの「おふくろさん」をはじめとするヒット曲をいくつも生み出し、脚本家としても多くの作品を手がけていました。
特に日本のヒーロー第一号と言われている『月光仮面』(1958年)を生み出した原作者といえば、誰もがその偉業を理解できることと思います。実写ヒーローだけでなく、長寿番組だったTVアニメ『まんが日本昔ばなし』(1975年)にも監修としてかかわるなど、その活躍は多岐にわたりました。
そんな川内先生が変身ヒーローブームと言われていた時代に生み出したのが本作です。しかし、本作のヒーローであるレインボーマンは、この時代に生まれたヒーローのなかでも異質な存在でした。当時のヒーローといえば、基本的にヒーロー然とした主人公気質のキャラが普通です。ところが本作の主人公、レインボーマンに変身するヤマト タケシは苦悩するヒーローで、たったひとりで悪と戦うという孤独ゆえに嘆き苦しむさまが赤裸々なまでに描かれていました。
初期のエンディング「ヤマトタケシの歌」では、自分の若さゆえの欲望を捨て、悪と戦う意味を歌っています。もちろん作詞は川内先生。現在では普通のことですが、完成されたヒーローでなく主人公の成長を1年間丹念に描いたという点では、本作が同時期のヒーロー番組のなかでも特筆するところだったと思います。
こう書くと暗いイメージがつきまとうかもしれませんが、レインボーマンは当時の子供たちから注目を集めるほどのカッコいいヒーローでもあります。現代風に言うと、はじめてフォームチェンジをするようになったヒーローでした。
ダッシュ1から7まで一週間にちなんだ7つの形態を持つレインボーマンは「阿耨多羅三藐三菩提(あのくたら さんみゃく さんぼだい)」という経文で変身しますが、当時の子供たちのほとんどがこの言葉をおぼえています。
また、力を使い果たした時に座禅を組んで行う「ヨガの眠り」も印象的でした。この年代の子供たちの一部には居眠りをヨガの眠りと言ってる人もいましたし、筆者は今でも眠い時はヨガの眠りとか言っています。
この他にも本作が子供に愛されていたことがよくわかる逸話に、オープニング曲の替え歌が流行したことが挙げられるでしょう。インドの山奥で……から始まる歌詞を変えたバージョンは各地ごとにあったらしく、後年になってさまざまな地方ごとの歌があったことを知りました。
このようにヒーローなのに完全無欠でないレインボーマンでしたが、秘められた魅力にひかれた当時の子供たちから多大な支持を得ます。そして、ヒーローといえば、戦う悪の組織があるものですが、こちらも印象深い存在でした。
■現代にも起こりうるテロを行う悪の組織「死ね死ね団」
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「死ね死ね団」。このふざけた名前の組織が本作の敵役です。この名前には大きな意味がありました。あまりにもバカげた名前にすれば本当にあると思わない。……そう作中設定ではなっています。妙にリアルな設定が多く、当時の悪の組織でもっとも現実的な作戦を実行したのが、この死ね死ね団でした。
死ね死ね団の目的は日本国の崩壊、および日本人の抹殺です。それは旧日本軍が起こした戦争の犠牲になった人間たちによって結成された組織だったからでした。このリアリティのある設定で、悪の組織が日本しか襲わないことを理論づけています。
その作戦も薬物により日本人の精神をおかしくする、大量のニセ札をバラまきインフレを起こす、外国人要人を暗殺して日本を危険な国だと世界に風潮する……など、どれも現実にテロとしてありそうなものばかりでした。
この死ね死ね団のボスがミスターK、演じているのは特撮作品での出演が多いことで知られる平田昭彦さん。冷静沈着に恐ろしい作戦を実行する面と、思い通りにならないとヒステリックになるという役どころを巧みに演じていました。
死ね死ね団の特徴的なところが、怪人のような存在がいないことです。基本的にボスのミスターK以下は側近である女性幹部、その下には戦闘員にあたる覆面姿の男たちがいるだけでした。
第2クールで7人の殺人プロフェッショナルという怪人的存在が現れますが、必ずしも全身着ぐるみというわけではありません。しかし、そのチープに見える作りが逆に不気味さを引き立て、レインボーマンを苦しめる強敵というイメージを与えました。
そして、死ね死ね団で思い出す人が多いのが挿入歌である「死ね死ね団のテーマ」でしょうか。「死ね」というフレーズが延々と続くこの歌は、おぼえやすい曲調ということもあってか、当時からよく子供にも歌われていました。昨今では本作の中身は知らなくても、この歌は知っているという人が多いと聞いたことがあります。
現代では、この死ね死ね団という存在が現在の倫理規定にそぐわないので、本作のTV放送は不可能という意見を聞きました。確かに過激なまでの作品内容に、眉をひそめる方もいることでしょう。しかし、川内先生がこの作品に込めた思いは、現代の方が必要なのではないでしょうか?
現代の日本を取り巻く環境を考えた時、川内先生の考えた死ね死ね団の恐ろしさを身近に感じることがあります。もちろん死ね死ね団が実在するという意味ではなく、そのリアリティゆえに似たようなことがあっても不思議ではない。……それほどまでに近年は犯罪やテロの不安が身近ということです。
川内先生は未来の日本を予言したかもしれない。……そう思えるほど、子供の頃に見た『レインボーマン』は、現代ではよりリアリティあふれる作品だと感じてしまいます。
(加々美利治)
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