『∀ガンダム』主役メカは「スモー」になってたかも? 異色デザイン誕生秘話
マグミクス / 2022年10月25日 6時10分
![『∀ガンダム』主役メカは「スモー」になってたかも? 異色デザイン誕生秘話](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_115997_0-small.jpg)
■異色メカデザインが生まれたワケ
『∀ガンダム』と言えば、これまでの『ガンダム』シリーズを物語の歴史に組み込み、久しぶりに富野由悠季監督が采配をふるった作品として、また主人公が操る「ホワイトドール」をはじめとする、この作品オリジナルのモビルスーツのデザインが世界的な工業デザイナーのシド・ミード氏だったことで注目を集めました。
ミード氏は、車のコンセプトデザインや現実を踏まえた宇宙時代の未来都市、テーマパーク、また映画『ブレードランナー』『エイリアン2』『スタートレック』などの美術デザインでも知られた著名なデザイナーでありイラストレーターです。そんなミード氏の、これまでの国内のデザイナーとは根本的に違うモビルスーツデザインは、当時のガンダムファンの間でも賛否両論を巻き起こしました。
主人公が操縦する「ホワイトドール」がこの物語のガンダムにあたり、ムーンレィス側の、いわば「シャアザク」にあたるのが「スモー」です。ところが工学的な美しい曲線とがっしりとした体型が魅力のスモーこそが、実はミード氏が本作のガンダムとしてデザインしたものでした。なぜなら、ミード氏はモビルスーツを「実在できるロボット」としてデザインしていたからなのです。
もともとガンダムの設定などに係わっているサンライズ(当時は日本サンライズ)側のスタッフ間でもミード氏は有名で、『機動戦士Zガンダム』放映直前に渡米したスタッフがミード氏と面会する機会を得て、このときの依頼でミード氏が描いたのが『Zガンダム』の番組宣伝用のポスターです。このポスターのあまりにもオーバーパースに見えるガンダムMk-IIに、当初はスタッフも驚きました。ですが、画面に近付き、踏み出した左足の「膝」に目線を合わせると、異様に見えたガンダムMk-IIが「18m」という設定の大さそのままに描かれていることに気付き、あくまでも「実在」を前提としたミード氏の画力に改めて驚愕したのでした。
そんなミード氏ですから、18mで駆動する人型のロボットの強度や重量を考慮すれば、最低でもこのくらいのプロポーションになるはずだ、とデザインされたのが「スモー」だったのです。ところが、日本側では、このプロポーションではOKを出せず「これはガンダムじゃない」と拒否。作業は暗礁に乗り上げてしまいました。
そこで、たまたま別の仕事でミード氏の住むロサンゼルスに長期出張していたサンライズのプロデューサーに、ミード氏と話しが出来ないか、との指令が飛びました。話しを聞いた彼は、日本側があたり前のように使う「リアルロボット」と言う言葉に気が付きます。ネイティブ英語の「real」は「本物・実在」です。「real robot」と聞けば、当然ミード氏は実在できるものを考えてデザインしてしまうのです。そこで彼は「日本のいうrealは本物ではない」、ミード氏がデザインしたモビルスーツを「日本が求めているのはロボットの格好をしたヒーローだ。だがこのプロボーションではスモーレスラーになってしまう。欲しいのはカラテファイターなんだ」と話します。この言葉でミード氏は日本の要求を理解し、あの「ホワイトドール」を描き上げました。
そのラフ画の隅にミード氏が書き添えたメモにあったのが「前のデザインは彼にsumoだと言われたよ」という一言でした。こうして旧デザインは通称「スモー」になりました。しかしデザインそのものは魅力的だったので、改めてライバル機「スモー」として作品内に登場することになったのです。この件以来ミード氏は、以降もガンダムのことを的確にレクチャーし続けたサンライズのプロデューサーのことを「私のガンダム導師」と呼び、ミード氏が亡くなる2019年末まで、親しい友人としての交流が続きました。
ちなみに「ヒゲ」と呼ばれたホワイトドールの頭部左右にある三角のパーツは、ヒゲではなく、日本鎧の兜の左右についている「吹き返し」をイメージしたものだとミード氏は語っています。
【著者プロフィール】
風間洋(河原よしえ)
1975年よりアニメ制作会社サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の『勇者ライディーン』(東北新社)制作スタジオに学生バイトで所属。卒業後、正規所属にて『無敵超人ザンボット3』等の設定助手、『最強ロボ ダイオージャ』『戦闘メカ ザブングル』『聖戦士ダンバイン』『巨神ゴーグ』等の文芸設定制作、『重戦機エルガイム』では「河原よしえ」名で脚本参加。『機甲戦記ドラグナー』『魔神英雄伝ワタル』『鎧伝 サムライトルーパー』等々の企画開発等に携わる。1989年より著述家として独立。同社作品のノベライズ、オリジナル小説、脚本、ムック関係やコラム等も手掛けている。
(風間洋(河原よしえ))
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