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アニメや特撮で描かれた「団地文化」の変遷 耳をすませば、ウルトラセブン、漂流団地

マグミクス / 2022年10月13日 19時10分

アニメや特撮で描かれた「団地文化」の変遷 耳をすませば、ウルトラセブン、漂流団地

■主人公たちの10年後を描く実写版『耳をすませば』

 スタジオジブリの劇場アニメ『耳をすませば』(1995年)は、公開から27年経った今も、とても人気の高い作品です。自分の進むべき道を懸命に模索する中学生たちの青春ストーリーは、大人になって見返しても感慨深いものがあります。

 2022年10月14日(金)から、実写映画『耳をすませば WHISPER OF THE HEART』が劇場公開されます。劇場アニメで描かれた物語から10年の歳月が流れ、大人になった主人公たちの姿が描かれます。清野菜名さん演じる月島雫は出版社に勤め、松坂桃李さん演じる天沢聖司はイタリアでチェロ奏者となっています。近藤正臣さん演じるアンティーク店「地球屋」のおじいさんも登場します。聖司の演奏に合わせ、雫が歌うシーンが大きな見どころとなっています。

 宮崎駿脚本・絵コンテ、近藤喜文監督によるアニメ版『耳をすませば』では、雫たち家族が暮らす東京都郊外にある団地での生活がディテールたっぷりに描かれていたことも印象的でした。劇場アニメや特撮ドラマで描かれた、懐かしい団地文化について振り返りたいと思います。

■アニメ版だけの設定だった団地生活

 小さい頃から本を読むのが大好きだった雫は、童話作家になるという夢を持つようになります。創作を志すきっかけは聖司と出会ったことですが、図書館の司書を務める父親の影響も大きいでしょう。本に関する幅広い知識を必要とする司書ですが、収入はあまり高くはありません。部屋数の限られた団地のなかで、雫たち4人家族は慎ましく暮らしています。

 団地生活を送った方なら分かるかと思いますが、団地は意外なほど樹木が豊かで公園などの公共スペースがしっかりと設けられている分、居住空間はかなりコンパクトに設計されています。雫のお父さんは、団地の階段でご近所さんとすれ違う際、「こんばんわ」「すいませんね」と譲り合っています。また、ご近所同士で余り物をお裾分けする場面もあります。適度なご近所づきあいのある理想的なコミュニティーとして、団地文化が描かれています。

 雫の姉である大学生の汐はバイト代を貯めて、団地から早々に出ていくことを決めています。一方、中学生の雫は団地への愛着が強いようです。「カントリー・ロード」の替え歌「コンクリート・ロード」を歌うなど、団地で育った自身のアイデンティティーに自覚的です。

 実は柊あおいさんの原作マンガにも、今回の実写映画版にも、雫が団地暮らしをしている描写はまったくありません。劇場アニメだけのオリジナル設定です。団地で暮らす中流階級に対する、宮崎駿&近藤喜文コンビの温かい目線が感じられます。

■『ウルトラセブン』で描かれたシュールな団地世界

実在の団地でロケが行われた第47話「あなたはだぁれ?」を収録した、「DVD ウルトラセブン Vol.12」(ハピネット・ピクチャーズ)

 戦後の日本では1950年代なかばから、「公団住宅」として団地の建設が始まりました。水洗トイレ、内風呂、ダイニングキッチン、ベランダを備えた洋式の居住空間は、当時の一般庶民にとっては大変な憧れでした。高倍率で選ばれた幸運な家族が暮らす、夢のような世界だったことでしょう。

 しかし、高度経済成長が進むにつれ、日本国民の所得は向上し、団地の立場は徐々に変わっていきます。1970年代に入り、各地にマンモス団地が建てられるようになると、部屋の狭さなどの問題点がクローズアップされるようになります。同じデザインの棟がずらりと並ぶ光景は、個性のない、均一的な空間としてとらえられるようにもなっていきます。

 団地をモチーフにした象徴的な特撮ドラマとして、1968年に放映された『ウルトラセブン』(TBS系)の第47話「あなたはだぁれ?」があります。団地で暮らすサラリーマンの佐藤さん(小林昭二)が酔っ払って深夜に帰宅すると、玄関に出てきた妻から「どなたで?」と言われてしまうのです。ご近所さんも、団地前にある交番の警察官も、佐藤さんのことを知らないと言います。背筋がゾッとするシュールなストーリーです。

 ちなみに「あなたはだぁれ?」がロケ撮影されたのは、神奈川県横浜市にある「たまプラーザ団地」です。同じく『ウルトラセブン』の名エピソード、第43話「第四惑星の悪夢」のロケ地にもなっています。

 団地といえば、給水塔がそびえ、ユニークな形状の遊具のある児童公園があったことも思い出されます。そんな近未来的な空間が次々と誕生していることが、当時の円谷プロのスタッフにはSFチックに感じられたようです。

■郷愁を誘う新作アニメ『雨を告げる漂流団地』

『雨を告げる漂流団地』公開直前ビジュアル (C)コロリド・ツインエンジンパートナーズ

 かつては憧れの空間だった「団地」ですが、建設から半世紀以上が経ち、今では取り壊しや建て替え工事が進んでいる状況です。団地内の公園で遊ぶ子供たちの数も、すっかり減ってしまいました。

 そんな団地で育った世代に郷愁を感じさせるのは、2022年9月から劇場公開され、Netflixでも配信中のスタジオコロリド制作の新作アニメ『雨を告げる漂流団地』です。団地で育った小学6年生たちが取り壊しの決まった「おばけ団地」を訪ねたところ、団地の棟ごと異世界を漂流することになるという、ミステリアスなファンタジーものです。

 少年の冒険ファンタジー『ペンギン・ハイウェイ』(2018年)でデビューを果たした石田祐康監督は、東京都調布市の「神代団地」に入居し、『漂流団地』を完成させたそうです。この団地は、『ウルトラマン』(TBS系)の第26話~27話「怪獣殿下」のロケ地としても知られています。石田監督の団地文化への愛情を感じさせます。

 かつてのような活気は失われたものの、残された団地には緑があふれ、さながら陸の孤島のようになっています。「昭和遺産」「昭和レトロ」とも称されています。大友克洋氏のSFコミック『童夢』や中村義洋監督の実写映画『みなさん、さようなら』(2013年)などの舞台にもなった「団地」は、これからも価値観を変えながら、多くの人々の記憶に残り続けることになりそうです。

(長野辰次)

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