新作ソーシャルゲーム「リリース延期」の裏側で起こる、「想像を絶する戦い」とは?
マグミクス / 2022年11月10日 20時20分
■そもそもリリース日を明確にしないのが一般的、なのになぜ?
数あるソーシャルゲーム(ソシャゲ)のなかには、「事前登録から数か月経ってもリリースされない」「重大な問題が起きて長期停止してしまった」といった事態が起こり、リリースを待っているプレイヤーたちを心配させる出来事も起こっています。こうした出来事の裏側では何が起こっているのでしょうか?
皆さんお気づきだったかどうか、実はソシャゲでリリース日が明かされることはほとんどありません。ただ「事前登録」が大体2週間~1か月前ぐらいに始まり、それを機に広報活動も盛んになるなど、目星のつけようはあります。これは、店頭でゲームを売る場合、小売店や流通が計画を立てるためにメーカー側も不確かな情報を出さざるを得ないのに対して、ソシャゲは開発会社が自分で作って自分で運営するため(※)、リスクを負う必要が少ない……というのが一因です。
※本記事では、話を単純化するために「ソーシャルゲームの開発と運営は同じ会社が行うもの」とします。
しかしソシャゲには冒頭に書いたように「事前登録から数か月経ってもリリースされない」「重大な問題が起きて長期停止してしまった」「あっという間にサービスが終了した」といったトラブルがあります。これは結局自社や他社、プレイヤーに多大な影響を及ぼします。「きちんと完成する前に、計画が甘いままリリースするからこうなる」ということは、みなさんもおわかりでしょう。リリース日を言わないのだから焦る必要はないはずなのに、なぜこんなことが起きるのでしょうか?
それは、発表をするしないにかかわらず、内部的には「計画」が決まっているからです。
内部的な計画とは、例えば1億円の予算をかけて今から11か月後にゲームを出す……というように、予算だけでなく期限も決まっているということです。
会社は「決算」といって1年単位で損得を計算しなければなりません。1億円かけたら1年以内に取り返さないと赤字です。商品を売ったら最初の売り上げは1か月後に出るので、今回の例だとギリギリ1年後にサービス開始初月の売り上げが出ます。これが1億円を超えることを経営者は期待しているわけです。
そのためにリリース2か月前には告知をし、1か月前には事前登録開始、リリースと同時に有名アニメとコラボをするなどの計画が立てられます。ここでは極端に書いていますが、「夢を売る仕事」といえども社会の仕組みからは逃れられません。「予算と期限」という壁はとても高いものとして立ちはだかります。
■皆さんならどうやって乗り越えますか?
さて、もしもみなさんがこの計画の責任者だったら、開発が遅れている時どうしますか?
人を増やす、機能を削るなどして対処しようとするでしょう。実は、開発現場は常にこういうものだとお考えください。責任者は、自分の力不足のために1億円が消えてしまうかもしれないプレッシャーに常時晒されています。
企画、プログラムなどの担当者も似たようなものです。ゲーム内で季節物のイベントシナリオを用意していたのに無駄になり、追加の制作費が必要……というのは、分かりやすく当事者を追い込む一例です。ここで嘘をついたり逃げたりするのは最悪ですが、残念ながらそれは「業界あるある」です。
一方で、経営者も「延期する」か「無理矢理でも予定通りリリースする」かで悩みます。事前登録が始まっていたりすると、どうしてもっと早くわからなかったのかと頭を抱えることになります。延期すると広報の計画が全部狂ってしまうため追加予算が必要になり、取り戻すべき金額がふくらんで1.5億円くらいになるかもしれません。それなのに延期でコラボの計画もパーです。
有名アニメは売れっ子芸能人と同じで、分刻みならぬ日刻みでいろんなコラボが決まっています。次はいつできるかわかりません。現場から上がるこれらの報告を総合して、どの道を選んだら損失が最も少ないのかを考え、最終決断を下します。
しかし開発が遅れていてもリリースを強行するというのは、デバッグが不完全だといっているようなものです。どこにどんなプログラム的問題が潜んでいるかわかりません。でもそのリスクに正面から向かい合うと「延期」の一択になってしまうので、「サービスを続けてその利益から改修費を出し、半年かけて直そう」などと皮算用がセットになることがあります。それしかやりようがないのです。
しかし運悪く起こった問題が致命的なものだとそれは破綻し、長期改修のためにサービス停止になって余計に出費がかさむ(そのまま終了ということも……)、機能を削りに削って間に合わせてもプレイヤーにつまらないと思われて利益が上がらず、改修費どころか運営を続ける費用も出せなくなって、あっという間にサービスが終了する……といったことが起こるのです。
なかには、こんな泥沼に陥っても起死回生の復活を遂げたゲームも存在しますが、ただでさえ困難な予算と期限の壁をその状態から越えることは奇跡に近く、大多数は厳しい現実に晒されながら生き残りを賭けて戦っているといえるでしょう。
(タシロハヤト)
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