受注生産で「転売」は撲滅できる? 効果はアリ、でも「決め手」に欠けるワケ
マグミクス / 2022年11月4日 17時10分
■ガンプラ、PS5、ブランドの限定品……有効な対処法が未だ見つからない転売問題
人気が高くて手に入らないけど、どうしても欲しい……そんな気持ちに付け込み、上乗せした価格での販売を狙って商品を仕入れ、販売する。一般的に「転売」と呼ばれるこうした行為は、大きな問題として広く捉えられています。
ですが、イベントのチケットなど禁止されたものを除き、多くの商品は直接的には制限されていません。そのため法律上では問題がなく、グレーゾーンな扱いというのが現状です。
「転売」と「不用品の処分」の明確な区別を客観的にしづらいのも、線引きを難しくしている要因のひとつ。「自分用に買ったけど、急な出費でピンチなので売ります」と言われた場合、それが本当かウソか、受け手側は判断できません。
転売問題は小売店側も考慮しており、さまざまな施策で対応しています。果たしてどんな対処が行われたのか。また、成果はあったのか。転売の対象になりやすい人気商品を例に、振り返ります。
●転売への対応策はさまざま、しかしいたちごっこの側面も
転売行為そのものは昔から行われてきましたが、PCにスマホといった端末と、インターネット普及により、個人の売買も距離を問わず行えるようになりました。そのため、転売行為は以前よりも可視化され、また勢いも加速する一方です。
2020年の発売以来、未だに入手難が続く「PlayStation 5」は、長らく転売の的になっています。今もフリマアプリを覗けば、メーカー希望小売価格に数万円ほど上乗せされた金額がズラリ。「新品」「未使用」の文字も並んでおり、すべてが不用品の処分とは到底思えません。
高額転売は消費者の購入意欲に悪影響をもたらすため、小売店側も対応に追われています。例えば、転売撲滅宣言を打ち出している「ノジマ」は、以前行ったPS5の抽選販売に寄せられた約12万件の応募について、1件ずつ目視による最終確認を実施。転売目的での購入希望者かどうかを精査する対応を報告し、当時話題となりました。
このほかにも、PS5の外箱に開封済みのシールを貼る、内容物を覆う梱包材に×印を入れる、クレジット機能のある会員カードを持つ方にのみ販売するなど、店舗によってさまざまな施策が行われています。
また、こちらも転売問題が根深い「ガンダム」のプラモデル、通称「ガンプラ」を販売する際、そのプラモデルのキット名(モビルスーツ名)を読めない方には売らない、といった対策が講じられたケースもありました。
モビルスーツの名前は、プラモデルを買うほどのファンなら誰でも答えられますが、作品を知らないと全く読めない名前も多数。そのため、転売しか頭にない購買者を炙り出すのに成功しました。
しかし、こうした転売対策が功を奏したかと言えば、PS5は前述の通りフリマアプリの定番商品として並んでいます。またガンプラの件も、関連情報を事前にチェックし、対処される恐れがあります。幅広く使える効果的な転売対策となると、なかなか答えが出ないのが現状です。
転売を懸念する小売店は、転売対応に追われると同時に、対策に向けた予算も割く必要があります。余計な問題が増え、費用もかかるとあっては、小売店にとってデメリットばかり。到底、受け入れられるものではありません。
■転売対策に効果的な手段はあるのか?
「竹箒」がこの夏に発行した「型月稿本」と「Avalon le Fae Synopsys」。いずれも高い注目を集めた
●転売の手は、同人誌に及ぶ場合も
転売問題への効果的な対応はまだ難しいものの、一定以上の効果を上げた例が最近ありました。それは、とあるサークルが行った同人誌の受注販売です。
同人誌とは、同好の士が集まり、自分たちで執筆・編集・発行する自費出版の印刷物を指します。アニメやマンガを原作とした同人誌が話題になりやすいため、二次創作=同人誌と受け止めている方もいますが、一次創作──いわゆるオリジナル作品も同人誌の範疇ですし、例えば写真集や料理のレシピ本といった同人誌も存在します。
アマチュアが手がけるものがほとんどですが、商業で活躍するクリエイターが、自分の作品をモチーフにする同人誌を発行する場合もあります。今回取り上げるのも、商業で活躍するクリエイターたちの個人サークルです。
そのサークル名は「竹箒」。ゲームをはじめ、さまざまなジャンルでヒット作を生み出したクリエイターのふたり、武内崇氏と奈須きのこ氏の個人サークルです。両氏は商業で活躍する以前から同人活動を熱心に行っており、記念すべき100回目を迎えた今夏のコミックマーケットにも、「竹箒」としてサークル参加に臨みました。
武内氏と奈須氏は、同人時代から高い人気を集め、また商業でも華々しい成功を収めています。そのため、この夏に発行した新刊同人誌3冊(「型月稿本」「Avalon le Fae Synopsys」「Kaleido works」)には、頒布前から大きな注目が寄せられていました。
●「竹箒」の受注販売が、フリマアプリの価格に大きな影響を及ぼす
こうした人気クリエイターの同人誌も高額転売の的になりやすく、コミケで「竹箒」の同人誌が頒布された直後から、フリマアプリに「型月稿本」「Avalon le Fae Synopsys」「Kaleido works」が並びます。
販売価格はまちまちですが、当時は3冊セットで4万円という値付けも珍しくありませんでした。ちなみに会場での頒布価格は、3冊セットで3千円。軽く10倍以上の値をつける暴騰ぶりです。即日でこの有様だったため、フリマアプリに並んだほとんどが転売目的での購入と思われても仕方ありません。
これだけの販売価格が続くようであれば、転売側の成功例のひとつになりかねません。ですが「竹箒」は、コミケ終了後に「型月稿本」と「Avalon le Fae Synopsys」の受注生産を実施します。また、「Kaleido works」は会場限定の頒布でしたが、内容の一部を差し替え、期間限定ながらPDF形式でインターネット上に公開しました。
頒布後の受注生産により、会場で買えなかった方や足を運べない人にも、「型月稿本」「Avalon le Fae Synopsys」を入手する機会が巡ってきます。また、受注生産の際に調整を行ったのか、受注の窓口になった「とらのあな」「メロンブックス」の通販サイトや店舗にも追加在庫が入り、申し込まなかった方にも購入できるチャンスが生まれました。
受注による再生産と郵送、そして通販サイトや店舗での販売再開といった展開を経て、フリマアプリでの販売価格は2ヶ月前から大きく変化。3冊セットは2万円強でも売れ残っており、半額程度まで大きく減っています。また、「Avalon le Fae Synopsys」の単品売りは、通販サイト価格の2倍手前後。「型月稿本」に至っては、通販価格を下回るケースもあり、当時の状況とは比べるまでもないほどです。
「竹箒」が行った受注生産の効果で、「型月稿本」と「Avalon le Fae Synopsys」の転売は大きな影響を受ける結果を辿(たど)っています。あくまでファンの求めに応じる形で行った「竹箒」の受注生産ですが、転売に対して一定の効果を見せた例のひとつにもなりました。
●絶対的な対策はまだ難しい転売問題、だからこそ真摯な対応こそ最短の道
今回、受注生産による好例を取り上げましたが、すべてにおいて受注を行えば転売がなくなるわけではありません。まず、同人誌は個人活動なので、基本的には印刷直後に売り切る形が多く、長期的に販売するケースは稀。必然的に購入機会が限られるため、そこに転売のつけ入る隙がありました。
その隙を今回埋められたのは、「竹箒」に向けられた非常に高い人気と、再生産を行うだけの力を有していたため。多くのサークルにとっては、大きなリスクが伴う行為です。
また一般的に流通する商品の場合も、受注だけでは十分な申し込みが集まらず、生産そのものが打ち切られる場合が少なからずあります。加えて、受注生産だけで枠を埋めてしまうと、顧客になり得る未来の新規ユーザーの受け皿がなくなり、先細りになる恐れもあります。かといって過剰に生産すれば、在庫が余るリスクを抱えるため、実に悩ましいところです。
転売行為による問題と、それを阻むための対処について、絶対的な答えはまだ見つかっていません。だからこそ、問題に向き合い、誠実な対応を重ねていくことが、何よりも大事な一歩となるでしょう。
(臥待)
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