女性声優の体調不良での休養、増加の理由 原因は「求められること」の過度な多様化か
マグミクス / 2022年11月2日 18時10分
![女性声優の体調不良での休養、増加の理由 原因は「求められること」の過度な多様化か](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_119511_0-small.jpg)
■体調を崩す女性声優があまりにも多い
2022年11月1日、『ウマ娘 プリティーダービー』のサイレンススズカ役などで知られる声優の高野麻里佳さんが、適応障害と診断されたため一部の活動を制限すると発表がありました。また、声優の楠木ともりさんは指定難病のエーラス・ダンロス症候群(関節型)であることを公表し、『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』の優木せつ菜(中川菜々)役を、2023年3月末をもって降板すると発表がありました。
エーラス・ダンロス症候群の関節型は大きな動きを行なうと身体にダメージが生じやすくなる病気のため、ダンスを伴うアイドル声優としての活動は確かに難しくなるでしょう。声の演技やトークなどは継続できるのが不幸中の幸いです。とはいえ、厳しい競争を勝ち抜いて獲得した大事な役を降板しなければいけない無念は察するに余りあります。
近年、体調を崩す若手女性声優のニュースが増えています。2022年6月には『アクセル・ワールド』の黒雪姫役や『ウマ娘』のサクラバクシンオー役で知られる三澤紗千香さんが一時休業し、8月に復帰しています。
その他にも体調不良を訴える女性声優は数多く、月に数人は体調を崩し静養を余儀なくされるというニュースが流れてきます。はっきり言って異常な状態です。
なぜ、若手女性声優ばかりが体調不良に追い込まれるのか。それは仕事の種類の増加と過密スケジュールが理由として挙げられるでしょう。
現在、若手女性声優がこなす仕事は、声を当てる以外にも膨大な種類があります。歌唱、ライブ、ダンス、トーク、ラジオ、イベント出演、TV出演など数え上げればキリがありません。もちろん、これらの仕事をこなすためのトレーニング時間も膨大になります。また、外見を整えることも重視されるので肌の手入れや健康管理にも気を遣わなければいけません。日々の身体的負荷やストレス、プレッシャーは極めて厳しいことが簡単に想像できます。
一方で、若手男性声優が体調不良に陥るニュースはあまり聞こえてきません。これは単純に女性声優の方が、人数が多いという点があります。もちろん、男女関係なく過度な負荷を与えられれば体調に影響するのは当たり前ですが、女性は特に体力面や周期的な体の変化などの影響を受けやすいことは確かです。ダンスとそのトレーニングが身体にかける負荷は、尋常なものではないのです。
■解決は容易ではない
高野麻里佳さんは声優ユニット「イヤホンズ」としても活動 画像はコンセプトEP『identity』(キングレコード)
おそらくは新型コロナウイルスも、女性声優の体調不良に大きな影響を与えています。同時に収録できる人間の数に制限があるため現場に新人を入れる機会が減少し、慣れた人材だけで仕事をするため収録にかかる時間が減少しました。それまでは1日あたり2~3個の現場を回るのが限界でしたが、倍近い数の現場に入ることが不可能ではなくなったのです。
さらに声優という仕事は、基本的に「仕事をもらう側」であることも負荷に拍車をかけています。定められた時間に求められた何かをこなす必要があるため、自分のペースでスケジュールを組むことが難しくなっています。人気のある声優であればあるほど、ひたすらに詰め込まれる仕事を次から次へとこなしていかなければなりません。精神的に疲弊するのも当然と言えるでしょう。
そして最も重要なのが、若手女性声優にとって、活躍できる時間は限られているという問題です。もちろん、人気と実力を兼ね備えた声優であれば、歳を取っても仕事の声がかかります。TVのナレーションや主人公の母親役などで、かつてヒロイン役を演じていた方がさらに円熟味を増した声を披露しているのを耳にすることはしばしばあるでしょう。しかしナレーションや母親役は、基本的にヒロインたちほど数が多くありません。そういった仕事に就けるまでの競争も、また尋常ではないのです。
自分が輝ける時間は限られているかもしれない。そのプレッシャーのなかで、仕事を断る勇気などなかなか持てるものではありません。断ればその仕事は他の人に行ってしまうのです。もしその仕事で自分以外の人がブレイクしたら、後悔してもしきれないでしょう。
それでも筆者は、声優に身体を大事にして欲しいと考えます。 自分が愛するキャラクターを演じていた声優たちが、肉体的に、精神的に苦しんでいる姿など見たくはないのです。
事務所に所属していることが多いとは言え、声優は基本的に個人事業主です。健康管理は自分の責任で行わなければいけません。体調が悪ければ病院に行く。疲れていたら短時間でもいいからリラックスする。その他にも整体や鍼灸など、体調を良くする手段は数多くあります。忙しさの隙間を何とか見つけて、心身を回復する手段を可能な限り実行して欲しいものです。
私たちは、声優たちの元気な姿が見たいのです。
体調不良を押してギリギリまで仕事をして、手遅れになった方々の二の舞いを踏んでほしくはありません。もう二度と。
(早川清一朗)
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