『ジョジョ』3部のスタンド「最初から尖りすぎ」問題 いきなりルールを破る敵が続出

■革新を重ねた「スタンド」バトル

　大人気マンガ『ジョジョの奇妙な冒険』（著：荒木飛呂彦）は、能力系バトルの礎を築いた作品としても知られています。シリーズ第3部から登場した「スタンド」と呼ばれる能力は、その後の少年マンガに大きな影響を与えました。
　
　そんな『ジョジョ』のスタンド能力ですが、「シリーズを追うごとにどんどん複雑化してしている」という指摘をよく目にします。これは既出の能力との差別化をはかるのであれば、『ジョジョ』のみならず能力系バトルモノでは避けては通れぬ道でしょう。
　
　一方で、『ジョジョ』が他の能力系バトルマンガとは一線を画している点があります。それは、「そもそも序盤からクセの強いスタンド能力が多かった」という点です。

　まず「スタンド」の簡単なルールから説明します。第3部26話「黄の節制 その4」の扉絵に一覧がありますが、大事な点をまとめると、基本的に「一人一体」であり、本体の性格や精神を反映した「固有の能力」を発揮します。また「スタンド」は能力者でないと目視できないという設定です。また、スタンドはスタンドでしか攻撃できず、スタンドが傷つくと持ち主も負傷し、本体が死亡するとスタンドも消滅、さらに「射程距離」が存在し、本体から離れるほどスタンドパワーは減っていきます。

　例えば第3部主人公・空条承太郎のスタンド「スタープラチナ」は、パワーとスピードと正確性を兼ね備えた主人公らしい能力です。さらに「スタープラチナ」より先に姿が描かれた、モハメド・アヴドゥルのスタンド「マジシャンズレッド」は「炎を自由自在に操る能力」であり、こちらも能力バトルでよく見るまさに王道中の王道です。また、承太郎の祖父であり、第2部の主人公でもあったジョセフ・ジョースターの「ハーミットパープル」は、「念写」というバトルにおいてはさほど役に立たない能力はありますが、スタンドには調査役も担う補助的な能力もあることを端的に示してくれました。

　問題は次です。最初の刺客として登場し、その後仲間となる花京院典明の能力「ハイエロファントグリーン」で、すでに荒木ワールドが炸裂しています。最初の敵なのですから、普通は「風」や「氷」といった、やや弱い自然系がなんとなく王道な気がしますが……「ハイエロファントグリーン」は違いました。体を紐状に伸ばしたり、液体エネルギーを宝石の形にして放出して攻撃したり、光るメロンのような容姿をしていたり、「後半に出てきそうな雰囲気」が凄まじい、クセの強いスタンドなのです。これが最初の敵として登場したのですから、当然以降のDIOの刺客たちのスタンドは、さらに驚かされる絶品珍味フルコースとなっていきました。

　まず、エジプトへと向かう飛行機で遭遇した敵スタンド「タワー・オブ・グレー」は、クワガタムシに酷似しており、凄まじい速度で移動しては乗客の舌を食いちぎります。しかも「本体」の姿はわからない遠隔操作型という、その後の『ジョジョ』のスタンドバトルらしい独特の展開が出来上がっていたのです。

　さらに、「スタンド能力は能力者以外には見えない」という原則が、早くも揺るがされます。空路を諦め、海路を選んだ承太郎一行たちの前に現れた巨大な貨物船。実はこれ自体が、敵のスタンド能力「ストレングス」だったことが明かされます。しかも！　この「ストレングス」の本体は、フォーエバーという名の「オランウータン」でした。「一般人にも見える物質同化型スタンド」を「人間以外の本体」が操るという、意表を突くふたつの要素を贅沢にも一度に使ってしまうのです。

　さらにその後も、拳銃や太陽、水の形をしたスタンドが登場したり、本体が死亡してもなお単独で能力を発揮し続ける刀スタンド「アヌビス神」も投入されたり、兄弟で能力が被るダービー兄弟と命がけのギャンブル＆ゲーム対決を繰り広げたり、イギー（犬）とペット・ショップ（鳥）による「動物同士」の激しいスタンドバトルが勃発したり、「スタープラチナ」の能力に大きな変化が現れたりと、「スタンド能力」初登場の部にして、すでに多彩な能力バトルのバリエーションで魅了してくれました。

『ジョジョ』のスタンド能力の「クセ」は、のっけからフルスロットルだったと言えます。荒木先生のキレキレなアイデアが、各部でさく裂する『ジョジョ』。第9部では、どんな斬新な能力が出てくるのでしょうか。

（片野）