母を亡くした子猫、飼い主宅から消えた？ すれ違いでひとりぼっちに「いい話」「泣いた」

■距離を置いていた飼い主を思いうかべ、探しまわる子猫

　生まれてすぐにお母さんを亡くした子猫・トラを引き取った陽子。トラと仲良くなろうといろいろなことを試みますが、トラは常に距離をとり、なかなかなついてくれません。トラの寂しさを感じ、「この子の居場所になりたい」と思っていたある日、玄関のドアを開けた隙にトラの姿が見えなくなり……？

　黒崎冬子さん（@natsukosama）による創作マンガ『大切なものをなくしたねこが、大切な人に出会う話』がTwitterで公開されました。本作は単行本『トラと陽子』の冒頭部分のエピソード。いつもそばにいた飼い主がいなくなり、探してまわる猫の様子に胸を打たれます。

　読者からは「いい話」「泣いた」「心が温かくなった」「トラちゃんかわいい」「みんな幸せになりますように」などの声があがり、Twitter投稿は1.1万リツイート、6.6万いいねの話題作となっています。

　2022年10月12日に単行本『トラと陽子』のほか、『平家物語夜異聞』1、2巻の3冊を同時発売した作者・黒崎冬子さんにお話を聞きました。

ーー黒崎冬子さんの漫画家としてのデビューのきっかけを教えて下さい。

　2018年夏のコミティアで「コミックビーム」の編集さんにスカウトしていただきました。参加して5年目頃でした。

ーー『大切なものをなくしたねこが、大切な人に出会う話』は猫がとてもいじらしくてキュンとなるお話ですね。お話はどのように生まれたのでしょうか？

　あまり詳しくは話せないのですが、親族に向けた手紙のような気持ちで描きました。命は等しくなくなってしまうけど、その存在がなくなることは決してなく、一緒に過ごした喜びや幸せが遺された人の心に残り続けて他者への優しさに昇華していく、ということを伝えたくて考えた話です。

　また、大切な人を亡くしても、遺された人を見守っていてともに歩いていく第三者が必ずいるということも表現したかったです。

ーーたくさんの感想が寄せられています。特に印象に残った読者の声について、教えて下さい。

　保護猫と暮らしている方々から共感の声が多かったのが想像していなかったので驚きました。ズンドコしたラブリーギャグの本編とのギャップに驚いた方も多かったようなのですが、Twitterの反応を見る限りではそれも楽しんでいただけたようでうれしいです。

単行本『トラと陽子』が発売中（KADOKAWA）

ーー本作は単行本『トラと陽子』の冒頭部分ですが、『トラと陽子』のこのあとの展開や見どころなどをご紹介いただけますか？

　一貫して、個性豊かなねこーずとおねいさんたちののんびりポジティブギャグなのですが、いろいろテーマを込めています。

　そのなかのひとつに「自分より小さい存在に優しくする、尊重する」というテーマがあります。『トラと陽子』に出てくる人間はみんな、小さい猫たちに対して絶対威張らないし、押し付けないし、否定しない……というのはすごく意識していて、現実もこうだといいなーと思いながら描いています。

ーーKADOKAWA「月刊コミックビーム」で『平家物語夜異聞』を連載されています。平家物語のファンの方におすすめしたいポイントをご紹介下さい。

　平家物語は中学の授業で習った時からずっと好きな古典だったので、連載させていただけてすごくうれしいです。古典特有の真面目な登場人物や世界観をはちゃめちゃに派手に脚色していますが、平家物語の世界の本質はおさえているつもりです。ギャグとして描かれる場面と、乱世の厳しさ、儚さ、虚しさの織りなすジェットコースターを楽しんでいただきたいです。

　そして平家物語は平家、源氏、天皇家の家族の話という側面もあると思うので、そこにも自分の価値観や作品としてのテーマを持たせています。主人公の夜くんが平家で、沙羅ちゃんは源氏でどのような家族になり、ふたりがどういう自分に出会い、変化していくかを描きたいなと思っています。ぜひ読んでいただきたいです！

ーー今後の創作活動について教えて下さい。

　何でもやってみたいです。神話や古典をもとにマンガを描くのが大好きなので、今後も機会があればうれしいですし、ありがたいことにカラーイラストを褒めていただくことがあるので、絵の仕事もしてみたいなーと妄想しています。何よりマンガを描き続けられるといいなと思っています。

（マグミクス編集部）