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さようなら、節子が愛した缶入りドロップ 『火垂るの墓』ほかジブリ印のおやつたち

マグミクス / 2022年11月17日 19時10分

さようなら、節子が愛した缶入りドロップ 『火垂るの墓』ほかジブリ印のおやつたち

■「ジブリ飯」とは、ひと味違う「ジブリおやつ」

「またドロップ、なめたい」

 節子のそんな言葉が脳裏によみがえった人もいるのではないでしょうか。スタジオジブリ制作、高畑勲監督による劇場アニメ『火垂るの墓』(1988年)に登場したことでも知られる「サクマ式ドロップス」ですが、製造会社である「佐久間製菓」が2023年1月に自主廃業することが報じられました。

 スタジオジブリの作品は、主人公たちの日常生活をディテール豊かに描くことで定評があります。宮崎駿監督の『天空の城ラピュタ』(1986年)の「目玉焼き載せトースト」、『崖の上のポニョ』(2004年)の「ハム入りラーメン」などは、「ジブリ飯」として人気があります。

 観ているだけで食欲が湧いてくる「ジブリ飯」ですが、今回はジブリ作品に登場したお菓子「ジブリおやつ」に着目したいと思います。

■『火垂るの墓』で涙を誘ったドロップの空き缶

 かつては夏休み映画の定番となっていた『火垂るの墓』。4歳の少女・節子のお気に入りのお菓子として、すっかり有名になったのが缶入りドロップでした。佐久間製菓の創業者・佐久間惣次郎氏が1908年(明治41年)にサクマ式ドロップスの製造を始め、1913年(大正2年)から缶入りとして発売されるようになりました。大変な人気となり、初代佐久間氏は「ドロップ王」と呼ばれたそうです。

 イチゴ、レモン、オレンジ、パイン、リンゴ、ハッカ、ブドウ、チョコ、8種類の味のカラフルなドロップが缶に入っていました。缶をカラカラと鳴らし、何味が出てくるのかが楽しみでした。

 戦前から子供たちに愛されたサクマ式ドロップスですが、太平洋戦争が始まると砂糖を入手することが困難になり、佐久間製菓は1944年(昭和19年)にも一度廃業に追い込まれています。

 ドロップの入っていた空き缶に水を注ぎ、かすかに甘みがする水を節子が愛おしそうに飲み干すシーンは、胸に迫るものがありました。

 直木賞を受賞した野坂昭如氏の原作小説では、冒頭にドロップが入っていた空き缶が出てくるだけで、ドロップに関する具体的なエピソードは描かれていません。ドロップの懐かしい味覚を使い、戦時中の節子と戦争を知らずに育った戦後世代との記憶を巧みに結びつけた高畑監督の演出手腕がお見事でした。

 物価の高騰やコロナによる販売減が、今回の佐久間製菓の廃業理由だそうです。100年以上愛され続けた人気のお菓子が消えることは、一抹の寂しさを感じさせます。

■『風立ちぬ』に登場した昭和初期の人気菓子

『風立ちぬ』に登場した、三角形の「シベリア」 (C) 2013 Studio Ghibli・NDHDMTK

 新作の完成が待ち遠しい宮崎駿監督は、前作『風立ちぬ』(2013年)にとても印象的なお菓子を登場させています。三角形のカステラで羊羹を挟んだ「シベリア」です。見るからに甘そうです。飛行機の設計技師という頭脳労働者である堀越二郎は、『デスノート』の名探偵・Lと同様に甘いものが大好きなようです。

 昭和初期に人気のあった「シベリア」は、明治時代後半から大正時代に日本で生まれたお菓子だと思われます。考案者や名前の由来ははっきりしていません。日露戦争(1904年~1905年)後に開通した「シベリア鉄道」をイメージしたものだという説が有力です。

 国産飛行機の開発で忙しい堀越二郎は、夜遅くまで開いていたパン屋で「シベリア」を買い求めます。しかし、パン屋の店先にひもじそうな子供たちがいることに二郎は気づき、「シベリア」を手渡そうとします。

 日露戦争や第一次世界大戦に勝利し、当時の日本は軍国化への道を歩んでいました。軍拡が進む一方、経済格差も大きく広まった時代でもありました。気軽に「シベリア」を買い求めるエリート社員の二郎と、空腹に耐える子供たちとの生活事情の違いが、くっきりと描かれた1シーンでした。

 愛知県長久手市に開業した「ジブリパーク」内にあるミルクスタンド「シベリあん」では、「シベリア」を販売しているそうです。「シベリア」には罪はありませんが、あの夜に二郎が口にした「シベリア」はただ甘いだけでない、とても複雑な味がしたのではないでしょうか。

■『耳をすませば』には受験生の必須アイテムが

 近藤喜文監督のデビュー作にして、遺作となった『耳をすませば』(1995年)は、主人公たちが大人になった実写版が現在公開中です。厳格にはお菓子ではありませんが、アニメ版には雫が「カロリーメイト」を口にくわえるシーンが描かれています。小説を書き上げることに集中するあまり、雫は食事を摂る時間も惜しいようです。

 栄養バランスの整った「カロリーメイト」は、1983年に「大塚食品」が缶入りのドリンクタイプとブロック状の固形タイプを発売しました。発売当初は慣れない味に賛否が割れましたが、1984年にフルーツ味が販売されると、徐々に人気を得るようになります。手軽に食べられるため、受験生たちが徹夜で勉強する際の必須アイテムとなっていきます。

 作品の時代背景は、まだバブル経済が到来する前の1980年代。狭い団地で暮らし、小説家になるという夢に向かって突き進む雫のストイックな想いが、雫が口にくわえた「カロリーメイト」から伝わってきました。

 この他にも、高畑監督が撮った『おもひでぽろぽろ』(1991年)では1961年に発売が始まった明治製菓の「マーブルチョコレート」や、当時はまだ珍しかった輸入パイナップル、『じゃりン子チエ』(1981年)ではチエが母親と食べる「ぜんざい」や「カルメラ焼き」などが描かれています。

 宮崎駿作品の主人公たちは、『となりのトトロ』(1988年)の手作りおはぎをはじめ、カロリー高めの食べ物をがっつりとお腹に収めます。一方、高畑監督の作品に登場するお菓子類は、ライトな印象があります。近藤監督は、その中間でしょうか。おやつや間食の描き方にも、監督の嗜好性が反映されているようです。

 マルセル・プルーストの長編小説『失われた時を求めて』の主人公は、紅茶に浸したプチマドレーヌを口にすることで、幼少期の記憶を鮮明に取り戻します。ジブリ作品に登場したお菓子たちにも、同じような効能があるのではないでしょうか。

(長野辰次)

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