『水星の魔女』ガンダムは「学園モノ」に向かない? 過去作でも描かれた「学校生活」
マグミクス / 2022年11月19日 17時10分
■『ガンダム』で学校が舞台に向かない理由
現在、好評放送中のTVアニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』。これまでの『ガンダム』では珍しい、学校が舞台という設定が斬新だと言われています。しかし、過去の『ガンダム』でも学校が出てきた作品がいくつかありました。
もともと『ガンダム』の主人公は十代の若者であることが多く、そのため大多数は学生ということになります。それゆえに学校という舞台は不可欠のように思われますが、『ガンダム』シリーズ作品には一か所にあまりとどまらない「ロードムービー」的な側面を持つことが多くありました。このために学校が舞台として成立しづらいということになります。
振り返ると初代作品『機動戦士ガンダム』では、主人公アムロ・レイをはじめとしてレギュラー陣のほとんどが学生でしたが、劇中で学校に通うシーンは描かれていません。急な避難命令から物語が始まり、戦火の拡大により避難民としての逃亡劇となったからです。
こういった流れは後発のシリーズでもほぼ踏襲され、本格的に学校が舞台に組み込まれたのは『ガンダム』初のOVA作品『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』でしょうか。この作品は主人公的存在が3人いる特異な作品で、そのうちのひとりアルフレッド・イズルハがまだ11歳の民間人だったことが理由です。そして、メインとなる舞台がサイド6のコロニー「リボー」のなかという、ロードムービーではなかったことも要因でした。
そうすると、TV作品で学校が明確に作品に組み込まれた『ガンダム』は何になるのでしょうか?
TVでは『新機動戦記ガンダムW』が、はじめて学校が舞台のひとつとなった作品になると考えられます。この作品では主人公であるヒイロ・ユイが、ヒロインであるリリーナ・ドーリアンの通う学校に転校する場面が第1話で描かれていました。そして、この出会いでヒイロのもっとも有名なセリフである「お前を殺す」が初披露されます。
この後、中盤でも不穏なイメージのあったドロシー・カタロニアが、転校生としてリリーナの前に現れました。ドロシーもまた「早く戦争になーれ!」という名セリフで知られています。
『水星の魔女』でも主人公がヒロインのいる学校に転校するという展開でしたから、番組開始前はこの『W』との共通点が話題になりました。しかし、ふたを開けてみると似た部分はほとんどなく、むしろ正反対の展開だったことからファンには評判になっています。
『W』は5人のガンダムパイロットがそれぞれ独自に動いている作品でした。そのため、ひとりが一か所に居座る形でも、他のキャラが動くことで閉塞感を感じさせない利点があったわけです。
少なくともTVシリーズの『ガンダム』は各地に移動することで物語を動かしてきたので、学校という固定された舞台は使いづらいのでしょう。これが『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』のように本拠地と言えるベースからならば無理はありません。しかし、学校から各戦地に向かうというのも設定的に難しいのではないでしょうか?
■学校の友だちが敵に!
「お前を殺す」のセリフでおなじみの学園描写があった『新機動戦記ガンダムW』。画像は「ガンダム30thアニバーサリーコレクション 新機動戦記ガンダムW Endless Waltz 特別篇」DVD(バンダイビジュアル)
その後も『機動戦士ガンダムSEED』では、主人公のキラ・ヤマトが中立国オーブのコロニー「ヘリオポリス」でゼミの学生として暮らしていたところから物語が始まり、戦いに巻き込まれたことをきっかけに同級生たちと共に戦艦・アークエンジェルに乗り込んで逃亡劇になるという、ロードムービーの序盤にのみ学校という舞台は出てきました。
もともと平和の象徴とも言える学校生活と、MS(モビルスーツ)という兵器で戦争を行う『ガンダム』では接点を作ることが難しいのかもしれません。しかし、あえてそこにチャレンジした作品がありました。それが『機動戦士ガンダムAGE』です。
『AGE』は親、子、孫の三世代がそれぞれのパートで主人公という特異な作品でした。この「子」にあたる第二世代のアセム・アスノが主人公だった第2部の物語開始当初が、学校を舞台としていたのです。
同級生と「MSクラブ」という部活動に熱中し、コンテストで優勝を目指すなど、普通の学校生活を送っていたアセム。そのアセムの前にゼハート・ガレットという転校生が現れます。実はゼハートは敵のスパイでしたが、そうとは知らないアセムは、その人柄の良さから友情をはぐくんでいきました。
やがて卒業式を迎え、偶然から発生した戦闘をきっかけにしてアセムはゼハートの正体を知ります。やがて軍に入隊したアセムは、敵側の指揮官となったゼハートと望まない戦いを何度となくすることとなりました。
このように学校で同級生だった者同士の戦いという悲劇展開の舞台装置として学校が使われたのです。思えば前述した『SEED』も学校生活を描いていませんが、キラと幼いころに親しかったアスラン・ザラとの望まぬ戦いが物語の軸のひとつでした。
そう考えると、現在『水星の魔女』で描かれている学校生活は、いずれあるだろう第二部での対決構図への序章かもしれません。そのため、この日常が描かれているとしたら第二部との落差が大きいことも予想されます。
ちなみに同じ『ガンダム』シリーズでも、ガンプラを扱っている『ガンダムビルド』シリーズは平穏な学校生活が終始描かれていました。彼らの日常は本来の『ガンダム』とは違って平和な時代ですから、そういった点からも比較対象にはならないでしょう。
これらの『ガンダム』の歴史を振り返っても、『水星の魔女』がいかに今までなかった作品かがわかります。はたして平穏な学園生活に、いつ終わりが告げられるような大事件が起こるのか? もしかしたら予想を裏切って、このまま全編が学校を舞台とした『ガンダム』で終わるのも面白いかもしれません。
※本文を一部修正しました(11月21日9時19分)
(加々美利治)
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