ファンは諦めない? ヒット作描くも「実写化」がない漫画家4選
マグミクス / 2022年12月7日 15時10分
■実写化を難しくする、さまざまな理由とは?
多くの人気作がアニメ化、ゲーム化、舞台化、そして「実写化」されるマンガ業界ですが、3作以上の連載をヒットさせながらも、いまだ実写化作品がない漫画家も存在しています。今回は、そんな漫画家を代表作とともにご紹介しながら、実写化を難しくしている理由は何か、考察します。
●『SLAM DUNK』の井上雄彦
代表作に『SLAM DUNK』『リアル』『バガボンド』などがある井上雄彦先生は、スポーツや戦いを通して成長していく青年たちの姿を描き、数々の熱い物語を生み出してきました。2022年12月3日からは、自ら監督を務める新作劇場アニメ『THE FIRST SLAM DUNK』が公開され、大ヒットスタートを切っています。
前述した『SLAM DUNK』は、「週刊少年ジャンプ」で連載された原作はもちろん、1993年から1996年にかけて放送されたTVアニメシリーズもヒットし、根強い人気を誇っています。他にも、スポーツ専門CS放送局「スポーツ・アイ ESPN」(現・J SPORTS)のサイト上にて公開された『BUZZER BEATER』は、当時珍しかったウェブコミックとして話題になり、2005年にWOWOWで、2007年に地上波でアニメ化されました。
その人気ゆえに何度も映像化されてきた井上作品ですが、未だ実写化だけはされたことはありません。『バガボンド』の原作に当たる小説『宮本武蔵』(著:吉川英治)は何度も映像化されていますし、『リアル』は深夜ドラマ枠などで実写化されてもおかしくなさそうな内容です。
しかし、劇場アニメ化において、監督・脚本・キャラクターデザインまで担当する井上先生のこだわりを考えると、実写化の話が上がったとしても、ご自身が関わる可能性があります。同じように自分で映画を撮った漫画家といえば、『AKIRA』などで知られる大友克洋先生が、劇場アニメを監督したのちに『蟲師』(自作ではありませんが)で実写映画の監督を務めた前例もあり、井上先生が実写作品を撮る未来も考えられます。
現在、映画『SLAM DUNK』の内容に期待が高まっていますが、今回の井上先生の挑戦が、マンガの映像化という観点で新たな道を作り出す可能性もあるでしょう。
●『FAIRY TAIL』の真島ヒロ
2022年6月、デビュー25周年を記念してYouTubeチャンネルを設立したことで話題になった真島ヒロ先生も、実写化作品がまだない漫画家のひとりです。代表作の『RAVE』や『FAIRY TAIL』、連載中の『EDENS ZERO』もアニメ化されており、『FAIRY TAIL』に関しては舞台化されていますが、映像としての実写化はありません。
真島先生の作品といえば、ファンタジーな世界観における冒険譚、バトルアクションが多く、長期連載になるにつれてシリアスな展開が繰り広げられる傾向にあります。似たジャンルとしてダークファンタジーで考えてみると、『鋼の錬金術師』(原作:荒川弘)や『進撃の巨人』(原作:諫山創)といった人気タイトルが実写化されていますが、特殊な世界設定や激しい戦闘シーンに加え、主要キャラクターの多くが日本人ではないという点で、実写化に苦戦するジャンルなのは間違いないでしょう。
■CMやTV番組での「プチ実写化」はできた作品も?
山本崇一朗先生原作で、アニメ映画化された『劇場版 からかい上手の高木さん』メインビジュアル (C)2022 山本崇一朗・小学館/劇場版からかい上手の高木さん製作委員会
●『からかい上手の高木さん』の山本崇一朗
2012年にデビューした山本崇一朗先生は、『からかい上手の高木さん』『くノ一ツバキの胸の内』『それでも歩は寄せてくる』の3作品を同時連載中で、そのすべてがアニメ化されています。多筆で知られる山本先生が描くのは、青春ラブコメや、女の子キャラを中心とした日常ギャグなどの、チャーミングな主要キャラが送るほのぼのとしたストーリーです。
『くノ一ツバキ』はタイトルの通り「くノ一」の話で、実写化のハードルを上げるファンタジー要素がないとは言い切れません。しかし、山本作品の特徴として挙げられる「思春期男女の日常譚」の色が濃厚な、『高木さん』『それでも歩は寄せてくる』は、今後実写化される可能性もあるでしょう。
特に、第3期までアニメシリーズが展開され、2022年には劇場アニメが公開された代表作の『高木さん』は、一部ファンの間でも実写化が期待されているようです。主要キャラが中学生という設定がキャスティングを難しくしている点もありますが、SNS上では「ゲッサン」のCMで高木さんを演じたことがある、モデルの林芽亜里さんに担当してほしいという声が上がっています。
●『ARMS』の皆川亮二
代表作に『ARMS』(原案協力:七月鏡一)や、作画を担当した『スプリガン』(原作:たかしげ宙)ほか、長期連載作が多数がある皆川亮二先生も、未だ実写化作品がありません。前述の『ARMS』は2001年にアニメ『PROJECT ARMS』として4クールに渡り放送され、『スプリガン』は1998年に劇場アニメとして公開、大友克洋先生が総監修を務めたことでも話題になりました。また、2022年6月よりNetflixにて『スプリガン』がオリジナルアニメシリーズとして配信され、大きな注目を集めています。
そんな皆川作品は、高度な世界設定や圧巻の画力が、実写化を難しくしている要因だと思われます。人体に備わった兵器や、古代の遺跡、遺物(オーパーツ)など、原作のリアルな再現を求めるならば必要不可欠な要素が、実写化においてかなり高いハードルになっていそうです。
しかし、2018年に放送された「週替わりで登場する役者が実写化したいマンガを選び、独自の役作りでキャラクターとの一体化に挑む」、というコンセプトのドキュメンタリー番組『このマンガがすごい!』のドラマパートで、『ARMS』が実写化されたことがあります。俳優・中川大志さんが同作を取り上げ、主人公の高槻涼役に挑戦しました。マンガのコマに入り込む形で演じるという企画のため、厳密な実写化とは異なりますが、こうして実際にキャラクターを取り上げる俳優の姿を見ると、実写化の可能性もゼロとは言い切れません。
その他、『うしおととら』『からくりサーカス』などのダークファンタジーマンガをヒットさせた藤田和日郎先生も、舞台化はあるものの実写化された作品はなく、『GS美神 極楽大作戦!!』などの椎名高志先生もアニメ化作品はあれど、実写化はされていません。やはりファンタジー、SF系の作品の実写化は難しいようです。しかし、一見実写化しづらそうな作風に見えて、長期連載3作(『荒川アンダー ザ ブリッジ』『聖☆おにいさん』『ブラックナイトパレード』)が実写化されている、中村光先生のような例もあります。今回取り上げた漫画家たちの作品も、映像技術の発展に伴い、いつか実写化されるかもしれません。
(椎崎麗)
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