なぜ『アニポケ』サトシは25年も優勝できなかったのか 「弱かったから」ではない悲しき理由
マグミクス / 2022年11月27日 12時10分
■負け続けることで主役の座にいたサトシ
先日、TVアニメ『ポケットモンスター』(以下アニポケ)のなかでポケモンワールドチャンピオンシップス優勝を果たした主人公のサトシ。渋谷の大型ビジョンでは速報が流れ、Twitterではトレンド入りするなど、大きな話題になりました。
どうしてサトシの優勝がこれほどの話題になったのでしょうか? その理由に、これまでサトシの歩んできた道、その戦績が大きく影響しています。サトシは主人公ゆえに、これまでいくつもの敗北を経験してきました。
アニポケ第1シーズンにあたる『ポケットモンスター』での最初の大きな大会となるポケモンリーグ・セキエイ大会では、サトシはこの直前に登場した同じくピカチュウを使うライバルのヒロシに負けてベスト16で終わっています。しかも原因が、手持ちのリザードンが言うことを聞かなかったための不戦勝という課題点の残る敗北でした。
このころのサトシは未熟な姿で描かれることが多く、また当時から番組の人気も高かったことから、今後のストーリーで成長を描くことも考え、あえて反省点の多い敗北を喫したのでしょう。ちなみにこの時、本命のライバルだったシゲルはベスト32で終わっています。ここでシゲルより好成績だったことで、サトシはかろうじて主人公の面目を保ちました。
その後のサトシの成績は何年も似たような感じになります。シリーズ通じてのライバルには勝利するものの、その後に大会直前に現れた新しいライバルに敗北するというパターン。また、サトシに勝利したライバルが優勝できないことも少なくなく、大きな大会の層の厚さを見せつけました。
色々な作品がありますが、『アニポケ』では主人公は苦難の道を歩むという方向性が決まったのが、この第1シーズンということになります。もしも、ここで主人公であるサトシが優勝することになれば、おそらく以降のシリーズで敗北させる展開が難しくなり、最終的に必ず大きな大会で優勝というフォーマットになっていたかもしれません。
そう考えると、以降の『アニポケ』はゲームのようにシリーズごとに新しい主人公によるバトンタッチ、シリーズ最後に地方リーグで優勝というパターンになっていたことでしょう。そして、サトシはゲームにおけるレッドのような立場のキャラとして、他のシーズンにゲスト出演するようになっていたかもしれません。
そうなると現在のようにサトシが主役の『アニポケ』が四半世紀に渡ってTV放送することもなかったでしょう。結果的にサトシは敗北することで『アニポケ』の主役として長い間、活躍することになったというわけです。
■優勝したサトシの今後は?
サトシの決勝戦の相手であり、無敗の絶対王者であったダンデ (C)Nintendo・Creatures・GAME FREAK・TV Tokyo・ShoPro・JR Kikaku (C)Pokemon
サトシの優勝がどれだけ重要か考えた時、本家であるゲーム版『ポケモン』を参考にするとわかりやすいかもしれません。
ゲーム版『ポケモン』では各地のジムリーダーを倒してバッジを集め、最終的にポケモンリーグに進んで四天王とチャンピオンに勝利することでエンディングを迎えます。ソフトによって若干の違いはありますが、基本的にはこのパターンがほとんどでした。
つまり、この法則を『アニポケ』に当てはめると、リーグ優勝は最終回ということになります。もちろん、ゲームでもエンディング後のやり込み要素があり、単純にイコール最終回というわけではありません。しかし優勝するということは、それだけのことを成し遂げたというわけです。それゆえ前述したように、サトシのリーグ優勝は大きな意味も持つことになるでしょう。
ただし、サトシの優勝は今回の『ポケットモンスター』(2019年版)が初めてではありません。実は前シーズンに当たる『ポケットモンスター サン&ムーン』で、アローラリーグ・マナーロ大会に出場し、「初代チャンピオントレーナー」となっています。この時もTwitterは盛り上がり、CNNでも取り上げられるなど大騒ぎになりました。
しかし、今回の優勝はアローラの時とは比べ物にならないほどの快挙です。なぜならば、トーナメント出場の8人は全員が各地方のチャンピオンクラス。いわば各シーズンのラスボスが集結したようなもの。これまでのサトシなら、誰に負けても不思議のない相手ばかりです。
それゆえに「サトシ引退」という不穏なワードが、「サトシ優勝」と一緒に当日のTwitterをにぎわせました。それは前述したように優勝がサトシにとって最後の花道となると、誰もが思っていたからです。
そして、それを裏付けるようにポケモンバトルを見守る人たちのなかには、これまでのシーズンでサトシが戦ってきた仲間やライバルたちがカメオ出演、まるでフィナーレを飾るようなゲストとして登場していたのです。
今後の放送がまだ残っており、公式からは何の発表もされてはいないのですが、ファンの多くはこの流れから終わりの始まりを察する人が多くいました。
考えてみれば、1年で番組が変わるのが当たり前のバトル系のアニメとしては異例の四半世紀もの間、休むことなく主人公を務めてきたサトシ。今後の展開はまだわかりませんが、ファンの多くはまるでスポーツ選手の引退発表を待つかのような神妙な気持ちになっているようです。
(加々美利治)
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