ジブリとルーカス、コラボの背後に「奇妙な縁」 宮崎駿監督と40年以上の繋がりも?
マグミクス / 2022年12月10日 19時20分
■ディズニーを介してつながる、ジブリとルーカス
かねてから示唆されていた、ジブリとルーカスフィルムのコラボレーション作品は、映画『となりのトトロ』と、TVシリーズ「マンダロリアン」のキャラクターが共演するショートアニメ『禅 グローグーとマックロクロスケ』でした。同作は2022年11月12日から配信サービス「Disney+」で配信中です。
制作はスタジオジブリで、監督はスタジオジブリの数々の作品に参加し、『魔女の宅急便』ではキャラクターデザインも手掛けた近藤勝也氏。3分ほどの短編ですが、マックロクロスケとグローグーの交流が、『となりの山田くん』や『かぐやの物語』のような筆タッチで描かれ、ジブリらしさを感じさせてくれます。
本作の発表前からSNS上では「世紀のコラボ」と話題になっていましたが、同時に「なぜスタジオジブリが『スター・ウォーズ』を?」疑問に思った方もいるかもしれません。
実は『スター・ウォーズ』の制作会社であるルーカスフィルムは、2012年にウォルト・ディズニー・カンパニーの買収にあい、傘下であるウォルト・ディズニー・スタジオ(以下、ディズニー・スタジオ)の一部門となっています。
そのウォルト・ディズニー・カンパニーとスタジオジブリは、1997年の映画『もののけ姫』を契機に、ビデオパッケージの販売など業務提携の関係を結んでおり、その契約締結の際に、当時ウォルト・ディズニー・カンパニー側の窓口としてスタジオジブリとの交渉にあたったのが、現在スタジオジブリの会長兼社長を務める星野康二氏なのです。
こうしたディズニーを媒介としたつながりが、スタジオジブリとルーカスフィルムという世紀のコラボを実現させる礎(いしずえ)となったのは間違いないでしょう。
しかし、スタジオジブリの創設者のひとりである宮崎駿氏のキャリアをさかのぼると、ルーカスフィルムやディズニーとの間に、さらに複雑で興味深い縁を見ることもできます。
■ジョージ・ルーカスのもとで「宮崎アニメ」制作の可能性もあった?
スタジオジブリ創設以前の1980年代初頭、宮崎駿氏は、とある日米合作アニメに参加しています。ウィンザー・マッケイ原作の映画『NEMO/リトル・ニモ』です。
東京ムービー社長(当時)の藤岡豊氏がプロデューサーを務める同作は、日米にスタジオを構え、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ(以下、ディズニー・アニメスタジオ)の伝説的アニメーターであるフランク・トーマスとオーリー・ジョンストンを顧問に招き入れ、ディズニー流のアニメ制作の教えを乞うなど、おそらく本邦初となる世界公開を視野に入れて制作された劇場アニメでした。
宮崎駿氏は、高畑勲氏とともに演出候補のひとりとして参加したものの、企画そのものには否定的で、アメリカ側のプロデューサーに自身が考える娯楽映画の要素をまとめたレポートを提出して却下され、1982年11月にはテレコム(『NEMO/リトル・ニモ』のために設立された日本側の制作スタジオ)自体を退社してしまいます。
そのレポートを却下したアメリカ側のプロデューサーは『スター・ウォーズ』シリーズを手掛けたゲイリー・カーツ氏であり、藤岡豊氏がカーツ氏以前にプロデューサーを打診し、断られたのが『スター・ウォーズ』の生みの親であるジョージ・ルーカス氏その人でした(ルーカス氏は、一度は協力を約束したものの多忙を理由に、代わりに当時ルーカスフィルムから独立したカーツを紹介したそうです)。
歴史に「もし」はありませんが、『スター・ウォーズ』のプロデューサーのもとで、ディズニー・アニメスタジオの技術がつぎ込まれた宮崎駿氏のアメリカデビューの作品が生まれる可能性もあったのです。
■ジブリとピクサーが仲良くなったきっかけも
1989年公開の日米合作アニメ映画『NEMO/リトル・ニモ』Blu-ray(TCエンターテイメント)
また宮崎氏は、この『NEMO/リトル・ニモ』の制作スタジオで、見学(売り込み)に来ていた当時ディズニー・アニメスタジオの若手アニメーターだったジョン・ラセター氏と出会います。
言うまでもなくラセター氏とは、2017年までピクサー・アニメーション・スタジオ(以下、ピクサー)とディズニー・アニメスタジオのチーフ・クリエイティブ・オフィサーを兼任し、『トイ・ストーリー』をはじめ数々の3DCGアニメの傑作を世に放ってきた人物です(現在はスカイダンス・アニメーションに所属)。
ラセター氏と宮崎駿氏、ピクサーとスタジオジブリのスタジオぐるみの親交は有名で、以前から『トイ・ストーリー3』『ズートピア』といったピクサーやディズニー・アニメスタジオの作品に、トトロなどスタジオジブリのキャラクターがカメオ出演しています。
そんなラセター氏とピクサーも、実はルーカスフィルムと深い関わりがあります。
『NEMO/リトル・ニモ』の制作スタジオで、宮崎駿氏と出会った直後、当時最先端の技術だったCGに魅せられたラセター氏は、手描きとCGを交えた作品の企画をディズニー・アニメスタジオに提出したところ、手描きを重んじる社員たちに疎まれ、退社を余儀なくされました。
そして次にラセター氏が入社したのが、ルーカスフィルム傘下のSFX/VFX会社インダストリアル・ライト&マジックだったのです。ラセター氏が所属していた同社のCG部門は、『ヤング・シャーロック ピラミッドの謎』などの特殊効果で高い評価を受けました。そして彼らが1986年にスティーブ・ジョブズの支援を受けて独立、創業したのがピクサーなのです。
『禅 グローグーとマックロクロスケ』が生まれた背景には、世紀のコラボと呼ぶのにふさわしい、スタジオジブリとディズニーとピクサーとルーカスフィルムの40年にわたる奇妙な「縁」があったのです。
※引用・参考文献:
『吾輩はガイジンである』スティーブン・アルパート(岩波書店)
『PIXERぴあ』ぴあ株式会社
『《スター・ウォーズ》知られざる真実 ルーカス帝国の興亡』ゲリー・ジェンキンズ(扶桑社)
『作画汗まみれ』大塚康生(文春ジブリ文庫)
『リトル・ニモの野望』大塚康生(徳間書店)
(倉田雅弘)
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