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型破りな富野監督が描いた「ダブルヒロイン」の元祖とは? 『ザブングル』での先見の明

マグミクス / 2022年12月14日 7時10分

型破りな富野監督が描いた「ダブルヒロイン」の元祖とは? 『ザブングル』での先見の明

■パターン破りの『ザブングル』らしいダブルヒロインの描き方

 今から40年前に放送されたロボットアニメ『戦闘メカ ザブングル』。当時は画期的作品として、さまざまな新要素でそれまでの常識を打ち壊していき「パターン破りのザブングル」として人気を博した作品でした。

 主人公メカ「ザブングル」が最初から2台存在。そのザブングルを途中で乗り換えて2号ロボ「ウォーカー・ギャリア」が登場。母艦である「アイアン・ギアー」がロボットに変形、その同系艦が敵として登場して戦う……といった部分、主にメカニックのパターン破りが有名です。

 もちろんキャラクター面でも主人公であるジロン・アモスが、それまでの主人公の定番だった端正ある顔つきでなく、まるでコンパスで描いたかのような丸顔の三枚目。作中でも「ドマンジュウ」「メロン・アモス」などと罵られていました。

 また、ヒロインのひとりであるエルチ・カーゴが番組中盤で敵にさらわれて洗脳され、以降は敵とした戦うというのも当時のアニメとしては異例の展開だと言われています。

 しかし、これらは『ザブングル』の後にロボットアニメでは定番化したものもあり、本作が以降の作品のスタンダードとなったパターンの数々でもありました。さらに上記はよく言われていることですが、それ以外にもそうではないか? と筆者が思うことがあります。それが本格的な「ダブルヒロイン」の登用でした。

 本作では主人公のジロンを巡って、エルチとラグ・ウラロというダブルヒロインが三角関係になっている構図が描かれていました。これまでもそういったシチュエーションはなかったわけではありませんが、メインヒロインとゲストという関係がほとんどで、最初から最後までストーリーの流れに沿って描かれるのは珍しいことです。

 もっとも本作の総監督である富野由悠季監督は、それまでの作品を見ると一目瞭然ですが、ロボットアニメで定番だった紅一点を否定するかのごとく、ヒロインは必ず複数人用意していました。

 最初の監督(クレジット表記はチーフ・ディレクター)作品である『勇者ライディーン』では桜野マリと明日香麗。日本サンライズ(現在のサンライズ)オリジナル作品第1号である『無敵超人ザンボット3』では一見するとヒロインは神北恵子だけに思われますが、主人公に寄り添う形で登場しているブスペアのアキとミチは、ストーリーの展開を見ていけばヒロイン以外の何ものでもありません。

 簡単に分類すると、メカに乗り込んで戦う女性が恵子、人間爆弾という悲劇にあう女性がアキ、そして主人公が帰ってくる場所となる女性がミチ。そう整理すると、それまでのヒロイン役に集中していた役割を分散していたことが読み取れます。

 そういった点で富野監督作品では最初から複数のヒロインが登場して、それぞれの立場で女性陣が作品に華を添えていました。振り返ってみれば『ザブングル』で今さらダブルヒロインもないだろうと思う人もいるでしょうが、本作でのエルチとラグの活躍を見ると、それまでとはまた違ったヒロイン像が描かれていたことが分かります。

■ダブルヒロインの恋模様は常に変化していった

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 本作の物語は当初、ジロンが両親の仇であるティンプ・シャローンを追い続けるところから始まりました。そして、ジロンがティンプを倒した(実は死んだふりをしていただけ)ところでストーリーの流れは一度止まります。

 その後に始まったのがエルチとラグ、それぞれを中心にしたストーリーでした。共にひょんな出来事から仲間たちと離れて家出ならぬ船出をして、出会った男性に一目ぼれをするものの、戦いのなかで男性は死亡してしまいます。そして、結果的にジロンたちのもとに戻りました。

 こう書くと似たような展開と思われますが、それぞれのドラマのなかではエルチとラグの性格が出ており、ふたりの考え方の違いや逆に似ている部分を明確にしたエピソードです。

 このふたりのエピソードが終わったあとから、中盤の激動の展開が始まりました。ザブングルと母艦であるアイアン・ギアーの破壊、その代わりとなる新しいアイアン・ギアーとギャリアの獲得を経て、ジロンたちに試練を与えるためエルチは誘拐され、洗脳により過去のことを忘れて戦うマシンにされます。

 ここからストーリー的にはシリアスの様相を呈していきました。コミカルな作風は変わらないものの、重苦しい展開が続きます。そして、前半と違ったエルチとラグが見られるようになりました。

 洗脳されて、ジロンを敵と思い込まされたエルチの変化は分かりやすいと思います。一方のラグにも変化はありました。前半はエルチの役割だったアイアン・ギアーの指揮を執ることが増えたのです。これは常に前しか見ないジロンのフォローという意味もあるのでしょうが、エルチ不在を一番気にしていたのがラグだったからとも考えられます。

 そして、最終決戦では洗脳から目覚めたエルチがザブングルに乗って前線へ、ラグはアイアン・ギアーで後方支援に徹するという形になりました。この戦いでジロンたちは勝利しますが、エルチには視力を失うという過酷な試練が待ち受けていたのです。

 このことがきっかけで、ジロンはエルチの手と足と目の代わりになることを誓いました。ラグに悪いと言うエルチにジロンは、ラグは強い子だから大丈夫と言います。その後、ラグは吹っ切るようにジロンに口づけをして笑顔で物語は完結しました。

 この時のジロンとエルチとラグの心情は見事に描かれていて、『ザブングル』という物語は3人の成長物語だったことを改めて気付かせる流れになっていました。その後の劇場版では、このTV版から後の超展開も描かれています。それもまた『ザブングル』という物語らしい終わり方だったと思います。

 この後、富野監督以外のロボットアニメでも複数のヒロインが活躍する物語が増えていき、むしろヒロインがひとりの作品の方が少なくなっていきました。もっとも、これは『ザブングル』の影響と言うよりも、この時期から増えてきたラブコメ作品の影響と言うのが正しいのかもしれません。

 しかし逆を言えば、その要素をいち早くロボットアニメに取り入れた富野監督の先見の明が光るわけです。常に時代を先取りした、富野監督ならではのダブルヒロインが描かれた作品が本作『ザブングル』でした。

(加々美利治)

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