声優にかかる、ギャラに見合わない過重な負担 廃業や降板が起きる理由
マグミクス / 2022年12月14日 17時10分
![声優にかかる、ギャラに見合わない過重な負担 廃業や降板が起きる理由](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_126363_0-small.jpg)
■コロナ禍で激変したアフレコの方法
従来のアニメのアフレコは、「大勢の人が」「密閉された空間で」「マスクなしで声を出して飛沫を発生させる」方法で行われるものでした。ほぼ間違いなく、新型コロナウイルスのクラスター感染が起きる環境です。声優業界にとって、感染拡大防止策を規格化して遵守させることは、差し迫っての重要な課題でした。
現在はかつてと違い、「収録ブースに一度に入る人数は3人程度」「スタンドマイクの間はビニールシートで区切る」「出入口での検温やアルコール消毒、収録ブースの防音扉を定期的に開けての換気を義務化する」などのルールのもとでアフレコは行われています。
これで現場での感染を激減させることに成功したのですが、当然、別の問題も出てきます。ひとつには、1作品あたりの収録時間が以前よりも目に見えて長くなったことです。
1作品あたりの収録時間が長くなればなるほど、音響制作スタジオ側にとっては、「よりコストがかかり」「利益率も悪くなる」という状態になります。スタッフは長時間の稼働を余儀なくされ、案件の数も多くは入れられなくなるからです。その結果として、少しでも省力化する必要が出てきます。
具体的にどうするか? まず考えられるのは、キャスティングする声優の頭数を単純に減らすという方法です。主役を務める人気声優は外せませんから、外すのは、これから人気が出るかもしれない新人声優です。ひと言やふた言しかセリフのない端役やガヤ(背景の群衆がガヤガヤしゃべる声)くらいなら、主役級で来ている人気声優でもお願いすれば、追加費用も時間もほとんどかからずに演じてもらえます。
ガヤや端役から頭角を現し、現場の音響制作スタッフさんに顔と名前を覚えてもらうことで、誰もが知る人気声優になっていく方法があります。これまでも狭き門だったことは間違いないのですが、コロナ禍によって、その門がますます狭くなってしまったと言わざるを得ません。
加えて、現在は制作終了後の打ち上げパーティーなども、ほぼ行われなくなっています。新人声優が顔と名前を覚えてもらう手段自体が、かつてと比べて激減しているわけです。そういった状況では、「キャリアが頭打ちだと感じたら、すっぱりと辞めて別の道に進もう」と考える声優が増えても、何ら不思議ではありません。
■作品人気の「属人化」による精神的な重圧
コロナ禍で激減したもののひとつとして、顔出しのアニメイベントも挙げられます。詳細は割愛しますが、顔出しのイベント出演料は、アニメ自体の出演料とは違った基準で設定されていて、新人声優でもそこそこの額を受け取ることができます。これまでは「アニメで良い役をつかむことで名前を売り」「顔出しのイベントを中心に出演数を増やすことで稼ぎながらキャリアを伸ばしていく」という図式も成り立っていました。それも、かなりの部分で崩れてしまったと言わざるを得ません。
また、製作側がキャスティングを行う際に、候補の声優がSNSを中心にネットでどれだけ数字を持っているかを重視する傾向が強まっています。特に、北米やヨーロッパのマーケッターは、その声優がタレントとして出した写真集についている販売サイトのレビューの数や内容まで、ビジネス上の判断材料として集めています。もちろん、「この役を演じられる声優はこの人しかいない」という制作現場の声が一番強い事実は揺るがないのですが、それでも、製作委員会への出資者を募る時など、マーケッターの声を無視できない局面は多々あります。
「この人気作に出ている声優」ではなく、「こんな人気声優が出ている作品」というふうにとらえる属人的な傾向が、業界内で強まっているというわけです。本来は裏方仕事のはずだった声優に、現状のギャラには明らかに見合わない、過重な負担を与えている状況です。
俳優として声の演技に集中したいだけなのに、ある日突然「お前の一挙手一投足が作品人気に影響を与える」などと、日常生活まで制限されるようなことを言われたりしたら、どんなふうに感じるでしょうか? 「それなら顔出しの仕事は拒否します」と宣言して持ち役から降りたり、あまりにも生真面目で大人しい性格だったりすると、心身に変調をきたすほど思い悩んでもおかしくはありません。
いわゆる顔出しのタレントのギャラが高額なのは、「作品人気を背負う責任への対価」も含まれているからです。声優の場合、この点に不分明さが残っているのは否定できないでしょう。
コロナ禍の影響で過渡期にある声優業界が、今後どのように変わっていくか、VTuberをからめて語れそうな気もしますが、それはまたの機会に譲りたいと思います。
(おふとん犬)
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