売れっ子遊女が死後の世界でバケモノに遭遇？ 丁寧な暮らしをするおちゃめな「餓鬼」 現代人に響く2作の面白さ！

■死んだ遊女の悲しい過去と、餓鬼道界の「ガッキー」の物語に没入する

　2022年12月20日、ふたつの不思議な物語の新刊が同時発売されます。漫画家の安達智先生による単行本『あおのたつき』7巻（編集：マンガボックス、発行：コアミックス）と、同作者が「塵芥居士」名義で描いた『丁寧な暮らしをする餓鬼』の最終巻・3巻（KADOKAWA）です。

『あおのたつき』は「マンガボックス」で連載中の、江戸最大の遊廓・新吉原が舞台の物語です。売れっ子遊女・あおが迷い込んだのは、浮世と冥土のはざまにある社。ここには悲しい過去をもつ遊女たちが次々とやってきて……というお話で、遊女たちの一見華やかな日常と、その裏にある苦悩が繊細に描かれています。

『丁寧な暮らしをする餓鬼』はTwitter（@gaki_teinei）にて投稿されたイラストが反響を集めたことをきっかけに書籍化され、Twitterのフォロワー数は2022年12月現在9.2万人。「第51回日本漫画家協会賞大賞カーツーン部門」を受賞した作品です。餓鬼とは仏教の世界観である死後の世界「六道」のなかの「餓鬼道」に生まれた者のこと。飢えと渇きに苦しみ、ギョロっとした目とぽっこり出たお腹が特徴ですが、本作に登場する餓鬼はとても優しくておちゃめ。イメージと異なり丁寧に暮らす餓鬼にほっこりさせられます。

　両作に共通するのは、斬新な設定と不思議な世界観が、日本画を学んだ作者の繊細なイラストで情緒たっぷりに描き上げられるとともに、遠い時代の物語でありながら、現代社会に通じる「生きるうえで大切なこと」を問いかけてくれる作品であるということです。作者の安達先生に、作品についてお話を聞きました。

ーー安達先生の漫画家としてのデビューの経緯を教えて下さい。

安達先生（以下、敬称略）　オリジナル同人誌即売会に参加した時に、『あおのたつき』担当編集の松井さんに声をかけていただいたのがきっかけです。

ーー『あおのたつき』『丁寧な暮らしをする餓鬼』は斬新な設定ですが、お話はどのように生まれたのでしょうか？　なぜ遊女や餓鬼を主人公にしようと思ったのでしょうか？

安達　『あおのたつき』に関してですが、花魁に興味があって、マンガを描けば作品づくりをしながら結果的にもっと花街のことを知ることができるかなと思って始めました。女性たちの生き方ひとつひとつの物語を描いてみたいと思い、オムニバスのように展開できる構成を模索しているうちに、「依頼人が次々にやってくる社があったらどうだろう」と担当編集さんからのアドバイスで今の形に落ち着きました。

『丁寧な暮らしをする餓鬼』は特に裏話のようなものはなくて、何となく描いたものがバズってしまって、たまたまお彼岸の時期で、たまたまTwitterをやっているお坊様方に面白がっていただいていつの間にか……という感じです。

ーー日本画を学んでいらっしゃったということもあり、江戸時代の遊廓の世界や餓鬼草紙タッチのイラストに引き込まれます。作画で大事になさっていることはありますか？

安達　日本画は胡粉を引いた紙に筆を落としたあとは一発勝負で、少しでも間違えればやり直しなので、線の一つひとつに命がこもっているなという感じがします。今私はデジタルで描いていますが、その時の気持ちを思い出しながら描きたいと思っています。

2022年12月20日に同時発売される単行本『あおのたつき』7巻（左）と『丁寧な暮らしをする餓鬼』3巻（右）　(C)安達智／マンガボックス　(C)塵芥居士／KADOKAWA

ーー単行本『あおのたつき』7巻、『丁寧な暮らしをする餓鬼』3巻が2022年12月20日に同時発売されます。収録内容や見どころなどをご紹介いただけますか？

安達　『あおのたつき』も『丁寧な暮らしをする餓鬼』も、それぞれにコラボマンガを収録していますので見ていただけたらと思います。今回の巻に限らず、『あおのたつき』にはたまに「餓鬼」が友情出演していますので、餓鬼探しも楽しんでもらえたらうれしいです。

ーー最後に、『あおのたつき』『丁寧な暮らしをする餓鬼』の読者の方へ、メッセージをお願いします。

安達　『あおのたつき』の連載を始めて、もう電子書籍では9巻、単行本では7巻も出させていただいていることに日々感謝の気持ちでいっぱいです。連載を続けていくうちに本を読んだり取材の機会に恵まれて、最初思っていたものとは違う花街や江戸が見えてきたような気がします。

　連載が始まったばかりの頃はもっと妖艶さだったり怖さだったりで構成していく方向性だったのですが、読者の皆さんが想定外に廓言葉や江戸の風俗や雅なものに興味を持って下さってるなと感じて、毎回「こういうのはどうかな？」という気持ちで作品づくりに取り組んでいます。いつもアンケートを書いて下さってる方や、Twitterなどで感想をつぶやいて下さる方、お手紙を下さる方、皆さんと一緒にマンガを作っていってるような気持ちでいます。

『丁寧な暮らしをする餓鬼』は単行本は3巻で終わりになりますが、これからも功徳を積んでいかないと人間になれないので、次の善行を探していきたいと思います。

（マグミクス編集部）