「これじゃない…」クリスマスプレゼント、ファミコンだと思ったら「違った」 悲劇が多発したワケ
マグミクス / 2022年12月24日 7時10分
■子供たちを襲った、「じゃない」ゲーム機という悲劇
Nintendo SwitchにPlayStation 4、そして供給が未だ需要に追い付かないPlayStation 5など、家庭用ゲーム機の人気は衰え知らず。今度のクリスマスプレゼントに、ゲーム機やゲームソフトをリクエストする子供たちも多いことでしょう。
一般的な家庭用ゲーム機自体は、1970年代から幕を開けましたが、1983年に発売された「ファミリーコンピュータ」(以下、ファミコン)の大ヒットがきっかけで国民的なブームとなり、世間に広く知られるようになりました。
ファミコンの希望小売価格は14800円。現在のゲーム機と比べるとかなり安く見えますが、当時と今では物価も違いますし、小中学生のお小遣いで手が届く値段ではありません。そのため、この頃の子供たちも、誕生日やクリスマスのプレゼントとして「お願い」するケースが多々ありました。
しかしこの「お願い」が、時に悲劇を招いたことも。ファミコンだと思って開けたプレゼント箱から、「マスターシステム」や「メガドライブ」、「PCエンジン」などの「別のゲーム機が出てくる珍事件」が、しばしば起きたのです。
もちろん、メガドライブたちは何も悪くありません。しかし、ファミコンだと信じて疑わなかった中身がまるで違ったら、ショックを受けるのも至極当然。子供たちは、高まる期待から一気に落胆し、涙に濡れた記念日を迎えてしまいます。
なぜ、こんな事態が起きてしまったのか。二度と繰り返さない礎とすべく、かつての悲劇を振り返ってみました。
●親の認識不足が不幸を招く……!
親がファミコン以外のゲーム機を買ってしまう最大の要因は、ある種の思い込みにあります。ファミコンが一大ブームとなり、興味がない人もその名を耳にしますが、それはあくまで単なる単語。そのジャンルを知らない側からすれば、ファミコンに対する正確な知識はありません。
しかも当時は、家庭用ゲーム機自体が今ほど一般的な認知を得ておらず、「ファミコンというのが流行ってるらしい」程度の知識しかない人もいました。しかもそのなかには、全てのゲーム機をまとめて「ファミコン」と認識しているケースもあり、広まりはすれど知識に関しては非常にバラつきがあったのです。
子供が口にする「ファミコンが欲しい」は、任天堂のファミリーコンピュータが欲しい、という意味以外ありません。ですが、ファミコン=ゲーム機と解釈している側には「ゲーム機が欲しい」との訴えだと捉えられ、ゲーム機ならどれでもいいのかなと結論づけたのでした。
当人は間違いないと思い込みつつ、実際にはあやふやな知識と共に売り場へ向かえば、そこには色々なゲーム機が並んでいます。そこで店員に詳しく話を聞ければ、誤解が正される可能性もありますが、思い込みのまま突き進み、迷うことなく別のゲームを購入してしまうと……その先の展開は、もはや想像するまでもありません。
この間違いを「まさか」「あり得ない」と感じる方もいるでしょうが、現代のスマホ事情に準えてみましょう。マイボイスコムが今年の10月に開示したデータによれば、スマホの所有率は全体の9割強。若い世代ほど高い数字になっていますが、70代でも8割を超えています。
それだけ普及したデバイスであっても、未だに「iPhone」と「Android」の区別がついていない人が少なからず存在します。興味がなく必要だから持っているだけ、子供や孫に持たされたから──理由はさまざまですが、所持者であっても知識がバラついているのが現状です。
これだけ普及しているスマホでさえ、正確な認知が広まり切っているとは言えません。こうした実態を踏まえてみれば、当時の大人たちがファミコンを満足に理解していなかった事情も納得がいくかと思います。
もちろん親の知識が甘かったからといって、「じゃあ、しょうがないよね」と子供が割り切れるわけではなく、願いと誤解がすれ違う悲劇に泣き崩れるしかありませんでした。
■親にも「事情」があった
ファミコン「じゃない」ゲーム機が届いてしまった少年の日々を描いた小説「ボクはファミコンが欲しかったのに」(著:岐部 昌幸)
●人気ゲーム機は買えず、しかしプレゼントは用意したい親心
「直接購入する親側の知識不足」が、ファミコンじゃないゲーム機がやってきてしまう大きな理由でした。しかし、悲劇を招いた原因はそれだけではありません。
人気の高いゲーム機につきものの展開ですが、ファミコンも品薄の状態が一時あり、入手する機会そのものが限られていました。今現在PS5が非常に買いにくい状況が起きていますが、そうした「ゲーム機が買えない」事態はそれぞれの時代に訪れています。
しかも、今のようなオンライン販売は当然存在せず、購入手段はほぼ店頭で買うのみ。必然的に自分の行動半径にあるお店しか選択肢がないので、周囲の環境次第では熾烈な競争を勝ち抜かなければなりません。
そして戦いに敗北した場合、子供へのプレゼントが用意できないという事態に。ない袖は振れず、しかし親としては「ごめん、買えなかった」で済ませるわけにもいきません。この窮地に追い込まれた親たちが選んだ手段が、「別のゲーム機を買う」でした。
状況だけ見ると、「どれもファミコンだと思って購入」したケースと変わりませんが、こちらは親の理解度が違います。ファミコン「じゃない」と分かっていながら、あえてそれを買うしかない……という苦渋の決断だったのです。
この選択も、子供からすれば悲劇に変わりはありません。しかし、全力を尽くしてもなお届かない現実に、それでも親たちが必死に抗った結果だと思えば……当時は納得できずとも、大人になった今なら理解も示せるのではないでしょうか。
●横行した商法に、親の懐が耐え切れず……
理解不足と入手難だけでなく、もっと分かりやすく、そして子供からすれば最も理解したくない理由がひとつあります。
ブーム中のファミコンは売り切れが相次いだ一方で、在庫がある店もありました。しかしそれは、穴場の店などではなく、高まる需要から生まれた厳しい現実の産物だったのです。
そうした店は、定価14800円のファミコンに複数のゲームソフトを加え、その分の価格を上乗せする販売──いわゆる、抱き合わせ商法を行っていました。何本くらい抱き合わせるかは店によって異なりますが、3本~5本のゲームを抱き合わせた店も少なくありません。
ファミコンソフトの値段は、安いものだと3000円台のものもありますが、ほとんどは4000円台。ちょっと高くなると5000円台だったので、おおざっぱに1本5000円と考えた場合、3本抱き合わせなら+15000円。5本だと、+25000円になります。
ゲーム機本体と同程度か、それ以上の額を上乗せとなると、どれだけ人気があっても即売り切れとはならず、店頭に残っているのも納得です。しかも抱き合わせのゲームは、完全に店側が指定するか、特定のタイトルから数本選ぶという形が多く、選択の幅が狭いのも購入しづらい要因でした。
こうした抱き合わせ商法は問題のある行為ですが、40年近く前の話なので、売る側も買う側も現代と比べると意識がやや緩く、日常的に横行していました。また、この形態でもしっかりと売れていたのも、ファミコン人気を裏付ける一例と言えるでしょう。
ですが個々の事情としては、この抱き合わせ商法のせいで手が出なかった人もいました。それは、子供へのプレゼントとして買いに来た親たちも含まれています。抱き合わせの現実を知らないまま見積もりを立てたものの、その予算を大きく上回る提示額に、泣く泣く諦めざるを得ない……そんな親たちが、予算内に収まる別のゲーム機を買ってしまい、「じゃない」現象に陥ったのです。
* * *
ゲーム機を全部「ファミコン」だと思っていた勘違い、買いたくても品薄だった供給不足問題、抱き合わせ商法の弊害と、いくつもの事情に阻まれ、ファミコン以外のゲーム機を渡された子供たち。それが全体の何%なのかは分かりませんが、衝撃の大きさを考えれば、些末な一例では片付けられない重みがあります。
しかし、折角もらったのだからと、ファミコン「じゃない」ゲーム機を遊び始めたら、そのままハマってしまう……といった展開を迎えることも。悲劇が新たな出会いに繋がるのは、美談なのか怪我の功名なのか。ともあれ、子供が望んだもの「じゃない」プレゼントを用意しないよう、皆様はご注意ください。
(臥待)
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