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声優は「裏方」に戻るべき? 相次ぐ「休業・廃業」問題、ギャラ決める「ランク制度」の功罪

マグミクス / 2022年12月20日 11時50分

声優は「裏方」に戻るべき? 相次ぐ「休業・廃業」問題、ギャラ決める「ランク制度」の功罪

■声優は「裏方」なのか

 声優の休業や廃業のニュースが相次いでいます。この数ヶ月で、人気アニメの主要キャストを務める声優の一時休業や廃業を伝えるニュースを目にする機会が増え、ファンや業界人からも懸念の声が上がっています。

 個別の要因はそれぞれ異なるでしょうが、相次いでいる一因として、声優に課せられる業務内容があまりにも多岐に渡り多忙過ぎるのではないかといった声や、声優志望者の増加による過当競争によるメンタルダメージ、給与の問題などさまざまな意見が噴出しています。

 声優とはどうあるべきで、どう変わるべきなのでしょうか。声優の歴史などを振り返りながら、考えてみたいと思います。

●大御所声優の「裏方に戻るべき」発言も話題に

 声優の休業ニュースが増えた背景は、声優がニュースバリューがある存在となったからです。

 今ほど声優が注目されていなかったころは、誰かが休業しようが廃業しようが話題になりませんでした。昔と今で報じられ方が全然違うことことを踏まえて、実際に統計などを見ないと、実際に休業が増えたのかどうか、本当のところはわかりません。

 あるいは、もしかしたら昔は「休みたい」と言っても休ませてもらえないこともあったのかもしれません。今は休みたい人が休める状況になったという可能性もあります。

 近年、20代など若い世代でメンタルの不調は増加傾向にあります。公益財団法人「日本生産性本部」の2019年の企業アンケートで、「心の病」を抱えた20代が増加傾向だと指摘していますし、コロナ災禍でそれはさらに加速した可能性もあります。何も若手声優だけが心身を崩しているわけではなさそうです(※1)

●そもそも「声優」はどう生まれた?

 かつて、声優に大きなニュースバリューがなかったのは、声優が表に出る「スター」ではなかったからでしょう。昨今の相次ぐ休業を受けて、声優の三ツ矢雄二さんが「“声優は裏方”という根本に使う側が戻ってもらいたい」とネット番組で語ったことが話題になりました(※2)。

 声優とは「裏方」なのでしょうか。それを検討するには、声優の歴史を紐解く必要がありそうです。声優はラジオの時代に生まれたと一説に言われています。1925年に日本でラジオ本放送が始まり、1941年にラジオドラマに出演する俳優の養成所「NHK放送劇団」が設立され、その第一期合格者を報じる新聞記事で初めて「声優」という言葉が使われたと言われています(※3)。

 その後、50年代からTV放送が始まり、アメリカ製のTVドラマなどのための需要が増加。当時のTV画面は小さく不鮮明なので、字幕では限界があり、吹替が多く採用されました。この時、吹替を担当していたのは、前述したラジオの放送劇出身の人や舞台俳優でした。

 舞台俳優にとって吹替の仕事は、本業以外のアルバイトのような感覚で、舞台だけで食べていけない人たちが多く参入していたようです。そのうち、TVの普及にともない、アメリカ製のドラマの人気が高くなると、吹き替える人たちにも注目が集まりだします。やがて舞台から声の仕事を中心にしていき、さらに日本でもTVアニメが製作されるようになり、「声優」という言葉が定着していきました。80年代~90年代にかけてアイドル的な人気を博す声優も登場し、その傾向は今日まで続いている状況です。

 声優が「裏方」だった時期もあるにはあったでしょうが、一時期に限られていたようにも思います。90年代からは、かなり注目されていましたし、TV放送前のラジオの時代、NHK放送劇団の人には全国的な知名度を持つ人もいました。2020年のNHK朝の連続TV小説『エール』でラジオドラマ『君の名は』のエピソードが出てきますが、このドラマは当時絶大な人気を誇り、出演していた声優さんにも大きな注目が集まったようです。

 また、TV放送初期の声優は、舞台と掛け持ちで活躍する人が多かったですし、ラジオ劇団の方も舞台やTVで芝居することもあり、声専門の芝居をする人は、むしろ珍しかったのではないかと考えられます。ある意味、マルチに活躍する人が多かった時代と言えます。少し形は違いますが、マルチな活動をする点で、今のマルチタレント化した声優は、昔に戻ったとも言えるかもしれません。

■声優の権利を守るために先人が勝ち取った「ランク制度」

 そんな声優が今なぜ、体調不良の休業が相次いでいるのでしょうか。それは「裏方」かどうかよりも、やはり労働環境や待遇面に課題を抱えているように思えます。

 声優の出演料がランク制度で決められていることは、昨今この問題を取り上げたニュースでもしばしば言及されます。

 ランク制度とは、ランクに応じて出演料を固定で定めるもので、30分の作品でジュニアの15000円から始まり、ランク45の4万5000円を上限として、それ以上はランクフリーとなり自身でギャラの交渉をするという制度です。この基本給にプラスして時間割増や2次利用の転用料率などが加算されます。

 この制度について、声優のギャラを低く抑える「ダンピング」の原因になってしまっているのではという指摘も見受けられるようになってきました(※4)。

 声優に限らず俳優は、使われる側なので立場は弱くなりがちです。だから俳優の権利を守るために組合が存在します。協同組合日本俳優連合(日俳連=にっぱいれん)と呼ばれる組織がそれです。声優のランク制度も、日俳連が声優の権利を守るために勝ち取った仕組みです。

 日俳連の公式サイトによると、ランク制度で今の金額が保証されたのが、1991年(ランク制度の原型はその前からあった)。この年、所属声優たちが大規模なデモと記者会見を行ったのです。こうした行動が実って、以下のランク制度が合意に至ったのです。

「・最低ランクを1万5000円とし、日俳連の組合員であるなしにかかわらず、これ以下で出演してもさせてもならない。
・すでにランクを持っている人は、段階によって順次引き上げ、日俳連の目標であるランク1.5倍引き上げを、平成4(1992)年4月1日実施目標に行う。
・ランクの上限は4万5000円とし、それ以上をノーランクとする。
・時間割り増し、ビデオ化に関しては新しい料率を設定する。」(※5)

●ランク制度は今の実態に合っているか

 このランク制度によって、立場の弱い新人声優にもきちんとキャラが支払われるようになりました。ただし、これは31年前の社会状況のなかで決まったものです。1991年と言えば、消費税はまだ3%の時代で、東京都の最低時給は575円の時代です(※6)。

 30年あれば時代は激変します。例えば、1991年の30年前は1961年ですが、この年は日本初の国産TVアニメ『鉄腕アトム』が始まる前ですから、30年で声優を取り巻く環境は相当に変化したはずです。たとえば、声優の数は20年で4倍になっているとも言われています(※7)。

 声優の数がものすごく多いので、新人声優は安いギャラで起用できるけど、ランクを上げると他の若手に仕事が回されてしまうので、ダンピングのような事態が起こりやすいということです。

 今よりも声優の数が少なかった1991年当時は、ダンピングが起きる環境ではなかったのかもしれません。しかし、2000年には、ランクの高い声優から高額のギャラを理由にキャスティングを外されるという声が出て、個人の意思でランクを上げ下げできるように改訂されています(※8)。同じ制度のままで、今の声優の権利を守れるのかどうか、さらなる検討が必要なのかもしれません。

●アメリカでも声優は戦っている

 日本だけでなく、アメリカでも声優の待遇改善のために戦っている人たちはいます。2016年には、ゲームのボイスキャストたちが待遇改善を求めて大規模なストライキを行ったことがあります(※9)。

 筆者は2000年代にアメリカに住んでいたことがありますが、当時、脚本家の大規模なストライキがありました。その時、TV番組はどんどん収録中止に追い込まれ、再放送だらけになっていました。そうやって当事者たちが権利を行使して待遇を勝ち取る姿勢は、アメリカの映画関係者の多くは持っているようです。

 韓国の映画・ドラマ業界も、2000年代には劣悪な状態だったのですが、2010年代には多くの業界人が戦って待遇改善を要求し、今ではかなり改善されていると言います。しかし、それでもこうした戦いはどこかの時点で終わるものではなく、常に継続していくものという姿勢を大事にしているそうです(※10)。

 時代が変われば働き方も変わります。労働条件が時代に合っているかどうかは常にチェックし、問題を明らかにしていく姿勢が必要ではないでしょうか。

 そういう意味では、声優が注目されている今だからこそ、問題点を洗い出す絶好のチャンスだと言えるでしょう。今後マルチな活動を前提にするなら、そのための保護の制度を、今の制度をベースにアップデートしていく姿勢が大切なのではないかと思います。

参考・引用文献
※1:第9回「メンタルヘルスの取り組み」に関する企業アンケート調査結果「心の病」多い世代 20代が初めて3割を超える(公益財団法人 日本生産性本部)
※2:体調不良、業界を変えるには“ブームの終息”が必要?(ABEMA TIMES)
※3:『声優になるには』山本健翔著、ぺりかん社、P60
※4:「1万5000円からギャラ上げられない」 現役声優が訴えたアニメ現場の「過酷な労働実態」(J-CAST ニュース)
※5:1991年 | 日本俳優連合30年史(日俳連)
※6:第2回目安制度のあり方に関する全員協議会議事録 資料8地域別最低賃金に関するデータ(時間額)(厚生労働省)
※7:声優人口、20年で約4倍 男女ともに最多更新「声優名鑑」370人→156ふたり(ORICON NEWS)
※8:2000年 | 日本俳優連合30年史 | 日本俳優連合
※9:米労働組合SAG-AFTRAのゲーム声優ストライキが96日目に突入、最長記録の次点を塗り替え続く膠着状態(AUTOMATON)
※10:【action4cinema 韓国・釜山訪問レポート】2022(action4cinema / 日本版CNC設立を求める会)

(杉本穂高)

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