名作アニメの「リメイク」が多い理由 ファンに「嫌われない」作り方とは?
マグミクス / 2022年12月21日 12時10分
![名作アニメの「リメイク」が多い理由 ファンに「嫌われない」作り方とは?](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_128173_0-small.jpg)
■業界大手にリメイク物が多い理由
いわゆる「製作委員会の偉い人」といえど、頭のてっぺんからつま先まで計算高いわけではありません。したたかで油断ならないという評判のある人ほど、腹を割って話してみると、アニメ自体が純粋に好きで、子供の頃に夢中で見ていた作品について目を輝かせて語ってくれたりします。
そういった偉い人にとって、リメイク物の企画はうってつけです。大好きなタイトルを自分自身で手がけられるうえ、リクープ(かけた費用を売上として回収すること)の見込みも立てやすいからです。
たとえば1980年代にTV放送された『うる星やつら』は、視聴率が常に20%を超える人気番組でした。ごく大ざっぱに、1%につき40万人程度が番組を見ていたと仮定すると、約800万人のファンがいることになります。
そのファンが、放送当時20歳前後だったとすれば、2022年の今は60歳辺りでしょう。さすがにアニメ離れしているかもしれませんが、お子さんやお孫さんなどは別です。その人数がざっくり何人くらいで、購買単価がこれくらいだとしたら……いかにも説得力がありそうな数字を並べた企画書を作り、契約を締結して出資金を引き出す。それが、製作委員会の偉い人、なかでも「幹事会社」と呼ばれる会社のプロデューサーの重要な役割です。
生涯のマイベストアニメの新作を自分で作り、800万人の目を輝かせたうえ、ガッポリ儲けることもできる。企画プロデューサーたる者、乗らない方がおかしいくらいの話でしょう。それなりの規模の会社に勤めている社員であれば、作品のヒットが出世の道を開いてくれる可能性すらあります。
業界大手の東映アニメーションにリメイク物が多いのは、実はこれが理由だったりします。四半期ごとの決算情報の公表が義務付けられている上場企業ですので、企画ごとの費用対効果も株主から厳しく問われます。そうすると、『美少女戦士セーラームーン』や『スラムダンク』など、自社コンテンツとして扱いやすいうえ、最初から数多くのファンのついている作品をリメイクすることが、企画としてのファーストチョイスになるのです。もともと、そういったタイトルが好きで入社したのであれば、充分な情熱を傾けて仕事をすることもできます。
■リメイク物の最大のリスク要因は「ファン」
2022年元日に発表され話題になった、『うる星やつら』リメイク (C)高橋留美子・小学館/アニメ「うる星やつら」製作委員会
ただし、リメイク物には、それなりのリスクもあります。おかしなことを言うようですが、最大のリスク要因は、そのタイトルを当初から熱狂的に愛してくれているファンです。
もちろん、彼らは真っ先に顧客になってくれます。ですが、リメイクされた作品の質や内容が意に沿わなかった場合、心からの失望と罵倒を拡散するインフルエンサーにもなり得ます。SNSの公式アカウントを炎上させたり、ほとんど脅迫まがいの苦情メールを、世界各国の言語でお問い合せフォームを通して送ってきたりすることさえあります。
ひとつの作品を長年の間、心血を注ぐように応援してくれる理由は何か? 作品を見たことが、人生における感動の原体験になっているからです。その時の気持ちを何度でも味わいたくてリメイク物も真っ先に見るのが、ファン心理というものです。
ですが、再体験が原体験を超えることはまずありません。客観的に見れば明らかにリメイク物のクオリティの方が高い場合でも、完全な満足とはいかず、どこか不満が残ってしまう結果になります。
2022年10月からフジテレビ・ノイタミナ枠で放送されている『うる星やつら』の主題歌は、有名な「ラムのラブソング」ではありませんでした。音楽タイアップ出資を含め、さまざまな事情があってそうなったのでしょうが、熱狂的な作品ファンとっては、どうでも良いことです。なぜ「ラムのラブソング」ではないのかと、不満を表明するしかありません。
映画『THE FIRST SLAM DUNK』の声優交代についても、情報解禁の方法には問題があるように思えるものの、スタッフや関係者が元の作品を軽く見ているから交代させたかというと、そんなことはあり得ません。監督も脚本も原作者である井上雄彦先生なのですから、軽く見ようがありません。にも関わらず、元の作品を熱狂的に愛する一部のファンには、「敬意を払っていない」ように見えてしまうのです。
2019年に公開された『劇場版シティーハンター<新宿プライベート・アイズ>』などは、元の作品を再現するのに、ほぼ成功した事例と言えるかもしれません。ただし、その場合でも、別のリスクが生まれます。同じ主題歌や声優にこだわるのであれば、音楽タイアップによる出資金の獲得や、人気声優を通した新規顧客層へのアプローチは、当然ながら難しくなるからです。
■「実写化」の成功例を見ると…作品愛に欠けると嫌われる
2024年 Netflixにて全世界独占配信されるNetflix映画『シティーハンター』
アニメやマンガの実写化が発表された際、真っ先に語られるのは、「実在の俳優が架空のキャラクターにどれだけ似ているか?」です。これは、「リメイク物アニメが元の作品をどれだけ再現しているか?」と、似たようなことを言っています。
2024年にNetflixで配信される日本初の実写版『シティーハンター』では、主人公・冴羽リョウを鈴木亮平さんが演じるそうです。同じく主演作である2013年公開の『HK 変態仮面』も、「週刊少年ジャンプ」のマンガを実写化したものでした。
この作品で、彼は15kgにおよぶ体重調整を含めた徹底した肉体改造を行い、「いかにも変態っぽく見える」すり足での歩き方まで研究して開発したそうです。
元の作品を忠実に再現するためだけでなく、俳優として、面白さを最大限形にするためにそうしたのです。2019年に公開されて話題になったフランス映画『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』(フィリップ・ラショー監督)が、原作マンガやTV放送当時のアニメをそのまま再現していると言えるでしょうか? 冴羽リョウも槇村香も、そもそもフランス人ではありません。
それでも受け入れられたのは、再現度以上の「作品愛」があったからです。抽象的な言葉ですが、そうとしか表現のしようがありません。コアなファンだけでなく一般のお客さんにも、作品愛の有無は伝わります。どれだけ再現度が高くても、製作委員会の偉い人にありがちな「より売りたい」という下心が先立ってしまえば、作品愛に欠けているとみなされて、受け入れてもらえません。「ああ、そのために工夫しているのだな」と、お客さんがしらけてしまうからです。
リメイク物に対する否定的な反応を見て、「そこまで悪意にとらえなくても」と感じることは正直あります。ですがそれは、作品愛を表現するための製作側の工夫が、鈴木亮平さんやフィリップ・ラショー監督の領域に及んでいないということなのかもしれません。
「より売りたい」という下心は、アニメを産業として持続させるために必要不可欠なものではありますが、それでも、「好きだからやっている」という初心は忘れずにいたいものです。
(おふとん犬)
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