アニソンは事実上「もう存在しない?」 クリスマス・お正月回も激減したワケ
マグミクス / 2022年12月24日 15時10分
![アニソンは事実上「もう存在しない?」 クリスマス・お正月回も激減したワケ](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_129231_0-small.jpg)
■格下に扱われていた「アニソンらしいアニソン」
串田アキラさんの歌う「キン肉マンGo Fight!」は、タイトルの通り『キン肉マン』のユーモラスかつ熱い世界観を歌にしたもので、おじさん世代がカラオケで歌うアニメソング=アニソンの定番です。もう少し若い世代になると、『勇者王ガオガイガー』の主題歌で遠藤正明さんの歌う「勇者王誕生!」だったりするでしょうか。もちろん、他にもたくさんの、定番中の定番と言える名曲があります。
アニソンはひと昔前まで、オリコンランキングの上位に載るような曲に比べると、格下のものとして扱われるのが普通でした。一般のリスナーだけでなく、アーティストや音楽レーベルにとってもです。CD販売が音楽ビジネスの主流だった頃は、ジャケットやライナーノーツにアニメの絵が使われるのを嫌がるアーティストも、珍しくありませんでした。アニメには関係はないがアニメファンに好かれるとイメージダウンになるからという理由で、レーベル側に路線変更を申し出る事例もあったと、聞いたことがあります。
アニソンの地位向上の陰には、串田アキラさんや遠藤正明さん、先日亡くなった水木一郎さんなど、偉大な先達による長年にわたる苦闘と努力の歴史があったわけです。
とはいえ、現在は「キン肉マンGo Fight!」や「勇者王誕生!」のように、作品の世界観やタイトルをそのまま楽曲に織り込んで歌う王道のアニソンは、すっかり少なくなったように思います。「アニソン歌手」というくくりも同様です。水樹奈々さんやLiSAさんがそのように呼ばれることはありますが、おふたりの歌は、決して「特定のアニメありき」で作られているものではないでしょう。
「このアニメを広く視聴者に届けるためのテーマ曲を作ってほしい」ではなく、「このアニメに出資するのと引き換えに主題歌を作ってビジネスをしていい」という、いわゆる音楽タイアップの形が一般的になったのが最大の理由です。
もちろん、タイアップする作品を深く研究し、より作品を輝かせる楽曲を作るアーティストがほとんどです。それでも、作品ありきではなく、アーティストとしての自分自身の世界観を前面に打ち出して楽曲を作るのが普通です。「キン肉マーン!」や「ガガガ、ガオガイガー!」と歌のなかで叫んだりすると、アニメファンは喜んでくれるが、アーティストについているお客さんには届かなくなると考えるからです。
そういったことを踏まえると、事実上、アニソンというジャンルが「もう存在しない」とも言えます。否定的に言っているのではなく、アニメビジネスの発展によって、ジャンルの垣根自体がほとんどなくなったという意味です。
■アニソンらしいアニソンの持つ可能性
フィリピンで主題歌が歌われている『超電磁マシーン ボルテスV』画像はDVD Vol.1(東映ビデオ株式会社)
TV放送のゴールデンタイムにアニメ番組があった時代、冬になればいかにも冬らしい、クリスマスやお正月のエピソードが流れるのが普通でした。これも、アニソンらしいアニソン同様、すっかり少なくなってしまったように思います。
主要な放送形態が、いわゆる4クール(全12話程度×4ターム)から1クール(全12話程度)になったのが、大きな要因でしょう。季節ならではのお話を入れ込む余裕なんて、はじめからないのです。逆に、その余裕がある4クール放送の「プリキュア」シリーズなどでは、季節エピソードが今でも制作されています。
アニメビジネスは今や、海外での動画配信が主戦場です。そのため、業界の一部にはいまだに、「特定の地域や季節ありきではなく、世界中の人間がいつでも誰しも受け入れられるような普遍的な内容でないと」という意見が根強くあります。
本当にそうでしょうか?
アニソンはアニメの世界観が前面に出すぎるとアーティストのファンに受けないという考えと同様、固定観念に過ぎないように思えます。
『超電磁マシーン ボルテスV(ファイブ)』のオープニングテーマ曲「ボルテスVの歌」が、フィリピンで第2の国歌さながらに歌い継がれているのは有名な話です。作品が放送された当時のフィリピンの政治状況など、さまざまな背景はあるのですが、単純すぎて見落とされがちな理由として、キャラクター名や作品ならではの歌詞が盛り込まれていたので、違う言語圏であっても耳に残って口ずさみやすかったいうのがあります。
フィリピン以外にも、言葉の通じないさまざまな国でアニメが広く見られるようになった今だからこそ、キャラクター名や世界観をストレートに盛り込んだアニソンらしいアニソンが求められていると、考えることはできないでしょうか。
王道のアニソンは格下という偏見は、先達が打ち壊してくれました。特定の季節や地域ありきの作品内容も、理解できない方が実は興味をそそられるという話も聞きます。日本のアニメ文化をより普遍的なものにするために必要なのは、案外、アニメの内容をそのまま歌うアニソンの「古さ」や、日本という国や季節ならではの内容を描くエピソードの「狭さ」への、原点回帰なのかもしれません。
(おふとん犬)
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