ゲーム開発は「仕事もの」マンガで描きにくい? 作品の少なさに業界関係者が思うこと
マグミクス / 2022年12月25日 15時10分
■人間ドラマの「型」を使って描こうとすると…?
マンガには「仕事もの」というジャンルがあります。例えば「医療もの」「教師もの」「料理人もの」など専門的な分野を扱い、その職業の裏側をのぞいたり、疑似体験したりできることが特徴のひとつです。ニッチな職業を扱うものも多く、仕事の多彩さがよくわかります。
さて、ゲーム業界に身を置く筆者は最近、「ゲームもののマンガ作品は難しい」という話題で知人と話す機会がありました。作品数があまりないように思えるのは難易度が高いからではないかと言うのです。数の話はさておき、筆者はこの「難しい」という点に興味を惹かれたので、少し考えてみようと思います。まずは物語の作り方の一端を掘り下げます。
物語にはいくつかの型があります。例えば「特殊な才能を持った主人公が、それを欲する人物(組織)と出会い、才能を開花させる話」とか、「ある職業に憧れる普通の主人公が、偶然その世界に足を踏み入れるチャンスを得て、のし上がっていく話」というような枠組みです。
ちなみに、シェイクスピアがすでにそれらの「型」を出し尽くしたとも言われますが、筆者は懐疑的です。ただ型が存在することと、私たちが目にする作品の多くがそのどれかに分類されることは事実だと考えています。これは特に商業ベースでは顕著で、ひとつの型が売れると同じものを使った別の作品が作られます。
これはマンガに限りません。むしろスマホゲームを例に挙げた方がわかりやすいかもしれません。「ガワ替え」と言って、売れているゲームを参考に、それと類似しているものを次々生み出すのです。
「仕事もの」マンガも同じです。専門的な知識を描いてはいても、ハウツー本ではないのですから、作者が描きたいのは人間ドラマです。するとそれは何かの型に乗っていると考えられ、もしかすると「医療ものマンガA」と「教師ものマンガB」と「料理人ものマンガC」は、同じ物語の型を使った「ガワ替えマンガ」であるかもしれないわけです。
「ガワ替え」が悪いと言っているのではありません。それはたくさんの型のなかからトレンドを効率よく選択し、短縮した時間を表現の追求に回す手法とも言えるからです。問題なのは「ガワ替え」自体ではなく、そこで終わってしまい独自性に乏しい劣化コピーのような作品があることだと思います。
■遠慮なく華やかに「ゲーム業界」を描いてほしい
ゲームメーカーで夢をもって働く女の子たちの物語『NEW GAME!』1巻(得能正太郎/芳文社)
とにかく冒頭で出た「ゲームものは難しい」というのはつまり、「ガワ替えの題材として選ぶには難しい」という意味で、なるほどこれには思い当たる点があります。
皆さんご想像の通り、ゲーム開発というのはほとんどがデスクワークです。1日中席で黙々と作業をするので「動き」がありません。動画でなくてもこれは描きづらいと思います。
またゲームは集団で開発するので、個人が作っているものは部品でしかなく、全体像がわからないということもありますし、その全てが画面のなかで完結しているというのもネックです。作業者にとっては画面のなかにこそさまざまなドラマが詰まっていて、物語が動くきっかけになり得るのですが、外から見ているとよくわかりません。
さらには、結果が出るまで長い時間がかかるので、テンポの良い一喜一憂の展開というのも作りづらいと言えるでしょう。要するに「華」がなさ過ぎるのです。華がないということは、格好いいとか憧れといったイメージもあまりないのかもしれませんね。こう考えると、確かに題材としての弱点が多い感は否めず、「ガワ」を選ぶならもっと簡単で扱いやすいものがあるでしょう。
しかし、こういう理詰めは誰でもできるので、多くの人は同じ結論に到達します。ですから扱いやすい題材は簡単に飽和状態、つまりレッドオーシャンになってしまい、その中で独自性を発揮して抜きん出るのは至難の業ではないでしょうか? 難しい題材を選んで挑戦するのとどちらが良いかは作家さん次第でしょうが、合理を優先しすぎると思わぬ失敗が待っているかもしれません。
それに、どんな職業を扱う場合でも大なり小なり脚色はするわけで、たとえゲーム開発のリアルが地味なものであったとしても、遠慮なく華やかに描いていただいていいと思うのです! むしろその時は「これこそゲーム業界」と堂々と言い切ってもいいぐらいです! イメージ向上にひと役買うことで、「ゲームものにこの人あり!」と言われる存在を目指すというのはどうでしょう?
まとめると、「ゲームもの」が難しいという話には一定の説得力があると思え、その結果もしかしたら作品数も少ないのかもしれません。しかし反面、まだまだブルーオーシャンで手を出している人が少なく、伸びしろがある題材とも言えます。
ゲーム開発はもとよりベンチャービジネス……すなわち冒険とか投機的な商売だと言われています。ハイリスクハイリターン、どれだけ見かけに華がなくても多くの夢が詰まっている業界なので、それを世間にパァっと広げていただけると嬉しいです! その際は微力ながら筆者も力をお貸しします!
(タシロハヤト)
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