20世紀のアニソンはなぜ熱かったのか? 歌詞・楽曲・歌い手…それぞれに理由があった
マグミクス / 2022年12月27日 19時40分
■2022年はアニソン界にとって節目の年に
楽しいとき、もしくはちょっとブルーなとき、思わず懐かしのアニメソングを口ずさんでしまうことはありませんか? かつてのアニソンには、気分を盛り上げてくれるノリノリの熱い曲が多かったように思います。
往年のアニソンには、なぜ胸を熱くする印象的な曲が多かったのでしょうか。昭和サブカルチャー研究家であり、ものまね芸人でもある剣持光氏に、この漠然とした難問に答えてもらいました。
折しも、2022年6月23日には数多くのアニソンを作曲した渡辺宙明氏が、12月6日には「アニソン界の帝王」と呼ばれた水木一郎氏が亡くなっています。アニソン界にとって、大きな節目の年になりました。両氏の功績を偲びつつ、20世紀のアニソンについて考えてみたいと思います。
■「アニキ」は生き方そのものが熱かった
剣持氏は『ヒデ夕樹とテレビまんが主題歌の黄金期』(ケンケンクリエイト)を自費出版するなど、アニソンが「テレビまんが主題歌」と呼ばれていた頃からの歴史に詳しい方です。肺がんであることを公表し、最後の最後までステージや配信番組で歌い続けた「アニキ」こと水木一郎氏について語ってもらいました。
剣持「ロボットアニメ『マジンガーZ』のテーマ曲などで雄叫びのイメージが強い水木さんですが、歌手としては個性があまりない方でした。個性のなさに悩んでいたこともあったそうですが、歌は抜群にうまかった。個性がないことで、逆にどんな作品の世界観にも合ったんです。水木さんがいなければ、アニソン歌手という存在はなかったんじゃないでしょうか」
昭和時代のアニメ番組や特撮ドラマは、ジャリ番(子供向け番組)として低く見られていた時期がありました。そんななか、水木氏は『超人バロム・1』『マジンガーZ』『バビル二世』など多くの主題歌を熱唱。ささきいさおさん、子門真人さんと合わせて「アニソン界の御三家」と称せられるようになります。
剣持「ささきいさおさんは、俳優や声優もされています。『およげ!たいやきくん』を大ヒットさせた子門真人さんは、歌手業を離れて広告代理店に勤めることになります。水木さんも一時期は俳優や声優に挑戦しましたが、結局は歌手一本で勝負しています。浮き沈みの激しい歌手業だけで生計を立てるのは、並みの苦労ではなかったはず。辞めようと考えたこともあったと聞いています。つらい時期を乗り越え、水木さんは逃げずにアニソンを歌い続けた。水木さんの生き方そのものが、アニメや特撮ドラマのヒーローのように熱かったんだと思います。熱い生き様が、水木さんの歌からは伝わってきます」
■最先端の音楽を取り入れ続けた「宙明サウンド」
2023年2月25日(土)に開催予定の「TWENTY’S 20世紀のアニメソング」に出演する、新井正人、山野さと子、たいらいさお、MIQ、剣持光の各氏(左から)
作曲家の渡辺宙明氏は、水木一郎さんとのタッグとなった『マジンガーZ』をはじめ、『人造人間キカイダー』『秘密戦隊ゴレンジャー』など多彩なアニソン・特撮ソングを残しました。どれも明快なサウンドで、忘れられない曲ばかりです。96歳で亡くなった渡辺宙明氏ですが、2021年放送の『機界戦隊ゼンカイジャー』の挿入歌を手がけるなど、最晩年まで現役として活躍しています。
剣持「もともとは映画音楽を手がけてきた渡辺宙明さんが、最初にテレビの特撮ものに参加したのは『忍者部隊月光』でした。子供向け番組に宙明さんは当時の最新音楽だったツイストを取り入れています。画期的なことでした。さらに『キカイダー』にはブラスロックを、『電子戦隊デンジマン』ではシンセサイザーを使っています。大人っぽい音楽に、子供たちは驚き、魅了されました。2021年に亡くなられたもう1人の大御所作曲家・菊池俊輔さんのほうが作品数が多いのは、業界的に宙明さんの音楽は斬新すぎると思われていたからではないでしょうか」
時代の最先端の音楽を常に取り入れていったのが、「宙明サウンド」の魅力だったと言えそうです。また、主題歌やエンディング曲だけでなく、劇中音楽まで渡辺宙明氏は担当していました。水木一郎さんが歌った『キカイダー』の挿入歌「ハカイダーの歌」も、宙明氏の作曲です。
剣持「渡辺宙明さんは海外の音楽に精通し、『鬼警部アイアンサイド』などで知られる大物作曲家クインシー・ジョーンズ、『スパイ大作戦』『燃えよドラゴン』で有名なラロ・シフリンを尊敬していました。また、劇伴と呼ばれるのを宙明さんは嫌っていました。劇伴ではなく、サウンドトラックと呼ばれるように変えていきたいと考えていたようです。
日本のクインシー・ジョーンズを目指していたと言っていいかもしれませんね。『宇宙刑事ギャバン』では編曲に若い馬飼野康二氏を起用し、続く『宇宙刑事シャリバン』では単独で音楽を担当しています。新しい才能から貪欲にセンスを吸収していた点もすごい。大御所になると、なかなかできることではありません」
■必殺技や呪文が歌われた「テレビまんが主題歌」
冒頭で触れた「20世紀のアニソンはなぜ熱いのか?」という問いにも、剣持氏は答えてくれました。
剣持「70年代~80年代のアニソンは、YouTubeを介して若い世代にも人気です。当時のアニソンは『正義が勝つ』『困っている人には手を差し伸べよう』といった明快なテーマ性がありました。混迷の時代を生きる現代の若者たちも、励まされているように感じるんじゃないでしょうか。
80年代中期以降のアニソンは、人気歌手が起用され、イメージソング化し、大ヒットするようになります。でも、テレビまんが主題歌と呼ばれていた時代のアニソンは、必殺技や主人公の名前、魔法の呪文など作品の世界観をそのまま歌ったものが多かった。その分、作品のことを鮮明に思い出すことができるんです」
往年のアニメソングは、当時歌っていた歌手が鬼籍に入り、また現役を引退してしまったケースも少なくありません。そんな人気アニソンをカバーし、歌いつなごうという趣旨のコンサート「TWENTY’S 20世紀のアニメソング」を、剣持氏は2023年2月25日(土)に相模女子大学グリーンホールで開くそうです。アニソン界のベテラン、たいらいさおさん、MIQさん、新井正人さん、山野さと子さんの出演が決まっています。
剣持「水木一郎さんと仲のよかったたいらいさおさんには『マジンガーZ』を、MIQさんには『ルパン三世 愛のテーマ』を歌ってもらうなど、水木一郎さんの追悼コーナーも予定しています。プロのアニソン歌手たちが歌う名曲のカバーの数々を、ぜひライブで楽しんでください」
20世紀の子供たちの胸を熱くしたアニソンは、これからも歌い継がれることになりそうです。
●「TWENTY’S 20世紀のアニメソング」
2023年2月25日(土)13時30分と18時30分からの2回公演。会場/相模女子大学グリーンホール 出演/たいらいさお、MIQ、新井正人、山野さと子、剣持光 企画・主催/ケンケンクリエイト
(長野辰次)
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