大ヒットマンガの「連載引き延ばし」が近年減ったように感じる理由
マグミクス / 2022年12月29日 15時10分
![大ヒットマンガの「連載引き延ばし」が近年減ったように感じる理由](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_130409_0-small.jpg)
■環境の変化が作品の「寿命」を延ばしている?
去る2022年11月、和井健先生の『東京卍リベンジャーズ』が最終回を迎えました。2023年1月にはTVアニメ第二期「聖夜決戦編」のスタート、ゴールデンウィークには実写映画第二弾『血のハロウィン編-運命-」『血のハロウィン編-決戦-』の公開を控え、ますます人気沸騰が予想されるなかでの完結です。
これまで大ヒット作品と言われるマンガのなかには、物語としての落着は明らかについているのに、一旦の人気がおさまるまで、あるいは他メディアでの展開が終了するまで……といった事情で連載が続いているものも多かったように思います。
一方、近年の『鬼滅の刃』や『進撃の巨人』など、たとえ人気の最中でも展開の必然性に沿って物語の幕を閉じる、いわゆる「連載引き延ばし」をしない作品が増えてきているように思います。『進撃の巨人』などは完結にあたり、同作を掲載していた「別冊少年マガジン」の編集部が、むしろ「いつ連載は終わるのか」と、諫山創先生をせっついていたとさえ聞きます。
昨今のこうした風潮はどんなところから生まれているのでしょうか。
まず考えられるのは、マンガ作品の「寿命」の変化です。この場合の「寿命」とは、連載期間の長短ではなく、作品が一般的に流通し、読者に読まれる期間と考えてください。
いまでは考えられないことかもしれませんが、1960年代、雑誌に掲載されたマンガのなかで単行本になるのはごく少数でした。元来子ども向けの商品と見なされていたマンガは、単行本を買ってまで再読するものではないと考えられていたのです。
それが青年向けの劇画やストーリーマンガの興隆を経て、70年代には単行本の発売はビジネス上のひとつの柱となりました。こうして独立した本になったことで、マンガ作品の寿命は雑誌で読み捨てられるものから大きく延びました。
そして老若男女問わずマンガを読むようになった現在、単行本以外にも愛蔵版や文庫版、新装版など、ひとつの作品がさまざまな形態で再販され、その寿命はさらに延びています。
もちろん、このように多様な形態で再販されるには、最初の連載から単行本になった段階で人気作であることが条件ですが、同時に再読に耐えうるひとつの作品としての完成度も重要な要素となります。
冒頭に挙げた「連載引き延ばし」の減少は、こうした作品の寿命の変化を受けてのものではないでしょうか。
多様な再販によって作品の寿命が延びた現在、目先の人気にとらわれて「連載引き延ばし」で木に竹を接いだような展開になるよりは、ひとつの作品としての完成度を高めたほうが、結果的に長く読まれる作品になる土壌は整っています。
「終わりよければ、すべてよし」という言葉がありますが、特に連載とリアルタイムでなく完結後に作品に接する読者にとって、物語がきれいに完結しているかどうかは、重要な評価基準のひとつでしょう。
また作品の寿命が延びたことから、昨今アニメや実写などで旧作マンガの映像化も急増していますが、これらも物語として上手くまとまっている作品のほうが、映像化の際に有利なのは言うまでもありません。
■作品と漫画家の意向を重視する傾向も
連載引き延ばしの例として挙げられることの多い『ドラゴンボール』は、原作の完結後もアニメシリーズが作られ続けている。画像は「ドラゴンボール超 TVシリーズ コンプリートDVD BOX 下巻」(ハピネット)
もうひとつ考えておきたいのは、漫画家さんの活動期間についてです。もし20歳でデビューして60歳まで描くとすれば、漫画家としての活動期間は40年です。
通常、週刊連載であれば、年間に出せる単行本はだいたい5冊前後、月刊連載であれば3~4冊程度です。もし30巻ほどの長期シリーズを描くと、40年の漫画家人生のうち、週刊誌連載で6年、月刊誌連載であれば10年近くの期間を、その作品に費やすことになります。
さらに言えば、どんな才能あふれる漫画家さんでも、全盛期といえる期間は決して長くありません。鳥山明先生を見出した担当編集の鳥嶋和彦氏が後年、『ドラゴンボール』はフリーザ編で終わるべきだった、そこで終わっていれば『Dr.スランプ』『ドラゴンボール』に匹敵する第三のヒット作を描けていたのでは、と語ったのは有名です。
かつてはヒット作品といえども、読者への露出の場は雑誌連載と単行本の新刊発売時がメインでしたから、多少の無理をしてでも長期連載していたのかもしれません。しかし再販の形態が多様化し、作品そのものの寿命が長期化した現在、むしろヒット作を描けている活力が衰えない間に、きちんと物語が終わるのであれば終わらせて、新作に取りかかったほうが最終的にヒット作の数が増える可能性もあります。
最後に、連載引き延ばしの有名な例として、本宮ひろ志先生の『男一匹ガキ大将』という作品を挙げたいと思います。同作は、ガキ大将・戸川万吉がさまざまな戦いを通じて、日本の不良の頂点に立つというお話で、1968年に創刊間もない「[m1]少年ジャンプ」を人気雑誌へと牽引した大ヒット作です。
連載時、富士の裾野での天下分け目の決戦で展開に行き詰った本宮先生は、いきなり敵が投げた槍を腹に受けた万吉に「こんなもんじゃ、人間なんてのわぁ」と叫ばせ、「完」と描いて失踪。同作を強引に終わらせようとしたのです。しかし人気作品を終わらせたくなかった編集部は、該当回の槍と「完」を、本宮先生に無断で消してジャンプ本誌に掲載します。
掲載号を見て驚き、失踪先から帰った本宮先生は、編集部の説得に応じて、連載を継続しました。しかし以降の展開に納得がいかなかったのか、その後発売された文庫版や電子書籍版では12巻以降をばっさりとカットしており、2018年に連載50周年記念として全22巻の電子書籍が刊行されるまで、後半部分は読めない状態が長く続いてしまいました。
もちろん今でも不人気による終了であれ、人気を集めてしまったゆえの引き延ばしであれ、商業誌に連載している以上、漫画家さんが思った形で作品を終えるのは難しいことでしょう。
それでも、「連載引き延ばし」をしないで完結を迎えていく昨今のヒット作を見ると、時代の流れは作品と漫画家さんの意向を重要視する方向に変化しつつあるのではないかと、期待を込めて思うのです。
(倉田雅弘)
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