『ファイヤーマン』50周年 強すぎた裏番組『サザエさん』との因縁とは
マグミクス / 2023年1月7日 6時10分
![『ファイヤーマン』50周年 強すぎた裏番組『サザエさん』との因縁とは](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_131067_0-small.jpg)
■裏番組に翻弄された悲劇の特撮ヒーロー作品
1月7日は1973年に特撮ヒーロー番組『ファイヤーマン』が放送開始した日です。2023年で、もう50周年になります。ウルトラシリーズとはまた違った魅力を持つ、『ファイヤーマン』について振り返ってみましょう。
『ファイヤーマン』は、円谷プロ創立10周年記念番組として製作された作品です。さらに、日本テレビ開局20周年でもありました。
企画当初の仮題は『レッドマン』で、円谷プロの伝統的な仮タイトルを引き継いでいます。「怪獣特撮」の原点回帰を目指していた本作は、海と地中から出現する怪獣と戦う巨大ヒーローという、オーソドックスな王道展開を目指していました。
ヒーローとなるファイヤーマンも巨大な目が特徴的ではありますが、デザインは比較的シンプルで、赤と銀の色合いはウルトラマンを連想させるものです。これらの要素から、シリーズを重ねることで派手になっていったウルトラシリーズとは別の方向性、原典に立ち返った怪獣特撮を目指していたことを感じさせる作品でした。
当時は特撮ヒーロー番組が乱立し始めて、派手なヒーローが多くなっていった頃だったので、逆にシンプルで王道を進もうとしたのは、「老舗」である円谷プロの意地だったのかもしれません。しかし、筆者のような当時の子供には、地味な印象に映ったことは否めないと思います。
各社が競って新しいタイプのヒーロー番組を目指していた時期だったので、『ファイヤーマン』のような原点に立ち戻った作品は、時期尚早だったのでしょう。そして何より高い壁となったのが、日曜18時半台の放送枠の裏番組で、当時すでにオバケ番組と呼ばれていた人気アニメ『サザエさん』です。
このため視聴率は低いままで伸び悩み、同じく特撮ヒーロー番組だった『サンダーマスク』の後番組として、3か月ほどで火曜19時台の枠に移動することになりました。余談ですが、この時間枠では、後に再放送版の『まんが名作劇場 サザエさん』が、1975年4月から放送されています。さらに近年の話ですが、2010年に『ファイヤーマン』がTOKYO MXで放送された時も、日曜18時半台の放送で、またしても『サザエさん』の裏という因縁がありました。
こういった事情もあって、『ファイヤーマン』は時間帯変更後はオープニング画像の構成を一部変え、その話数の怪獣を「先見せ」するといったテコ入れを行います。ファイヤーマンも「ファイヤーブレスレット」という強化アイテムを得て、「ファイヤーダッシュ」という派手な必殺技を使うようになりました。
もっとも、この火曜19時台の枠も安全地帯というわけでなく、TBSは『おくさまは18歳』から続くドラマ枠(当時の裏番組は『赤い靴』)、フジはタツノコプロ制作のアニメ作品(当時の裏番組は『けろっこデメタン』)といった「鉄板枠」が並ぶ激戦区です。そのなかで切磋琢磨し、『ファイヤーマン』も後世に残るような名エピソードをいくつか生み出していきます。
■怪獣もシナリオも独自要素が強かった作品だったが
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前述したように、怪獣特撮の原点回帰を目指した『ファイヤーマン』の怪獣は、恐竜が進化して怪獣になったようなものがほとんどです。しかし、オーソドックスな恐竜タイプだけでなく、他作品であまり見られないような、独自の怪獣もいくつか登場しました。
筆者としては『ファイヤーマン』の怪獣で真っ先に思い出すのが、第10話「鉄の怪獣が東京を襲った!」に登場した「ロボット怪獣 バランダーV」です。そのインパクトは絶大で、近年のアニメ作品『SSSS.GRIDMAN』でカメオ出演するなど、ファンが多いのかもしれません。
また、近年活躍の場があった怪獣といえば、第19話「宇宙怪獣対原始怪獣」に登場した「宇宙怪獣 ムクムク」です。2019年に東京ドームシティで開催された体感エンターテイメント『かいじゅうのすみか』で、同企画の宣伝隊長に選ばれました。「初期ウルトラ怪獣以外のキャラを発掘する」という目的だったそうです。確かにムクムクは怪獣というより、そのままコアラのぬいぐるみという姿で、劇中でも違和感を覚えたデザインでした。
しかし、違和感と言う点では、第24話「夜になくハーモニカ」で登場した「音霊怪獣 ハモニガン」に敵うものはないでしょう。夢の島に捨てられたハーモニカが怪獣になったものですが、デザインはハーモニカそのものでした。「オブジェ」的な怪獣は他にもいますが、ただのハーモニカというデザインは、シュール以外の何ものでもありません。
ところが、このハモニガンはかなりの実力者で、ファイヤーマンの必殺技・ファイヤーダッシュが通じないほどの強さです。このため、ファイヤーマンは戦闘以外の方法でハモニガンを静めるのですが、この場面もシュールなシーンになっていました。未見の人はぜひご覧ください。
ここまで登場怪獣を中心にご紹介しましたが、ストーリー面でも特筆すべき点が多いと思います。いわゆる救いのない、ビターな物語が時おりあったのですが、第29話「射つな!怪獣だって友達だ」は、その最たるものではないでしょうか。
大人しい怪獣・スペーグスが、子供が人間に殺されて凶暴化し、ファイヤーマンがやむを得ず戦うというのが大まかなストーリーです。ここに子供の成長と、人間の行き場のない怒りの暴走というエッセンスも加えられ、考えさせられる物語となっていました。作品自体がマイナーゆえに取り上げられることも少ないのですが、ウルトラシリーズなら傑作群と言われてもおかしくないほどのエピソードだと思います。
その他にも、第12話「地球はロボットの墓場」は、キャストとしても宇宙工学博士・水島三郎役で出演している岸田森さんの脚本で、彼の代表作である『怪奇大作戦』を思わせる、秀逸なラストが印象的でした。
現在では評価がされるようになった『ファイヤーマン』ですが、放送当時は視聴率面で苦戦します。そして、他の円谷プロ創立10周年記念番組として製作され、1年間放送された『ウルトラマンタロウ』や『ジャンボーグA』と異なり、全30話で終了しました。
『ファイヤーマン』は他の特撮ヒーロー作品と比べても、原典に立ち返りながらも独自の色が強かった作品でしたが、それゆえに地味な印象がぬぐえなかったのかもしれません。「裏番組に苦戦した、早すぎた名作」、そんな作品だったのでしょう。
(加々美利治)
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