「短いマンガ」の実写化は良作が多い? 「少しの改変がナイス」
マグミクス / 2023年1月12日 20時10分
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■原作が短いからこそ描き出せる繊細な表現
長編マンガを実写映画化する際には、約2時間にまとめるために話が駆け足になったり、途中までしか描かれなかったりする場合も少なくありません。先の展開が続編に持ち込まれ、シリーズ化される楽しみもありますが、すぐに最後まで観たいと思う人もいるのではないでしょうか。今回は2巻以内に完結している短いマンガが原作で、最後まで物語を描き切ったおすすめ作品をご紹介します。
●『青い春』
松田龍平さん主演の映画『青い春』(2001年)は、松本大洋先生の同名短編集に収録された『しあわせならてをたたこう』をベースに、同短編集収録の印象的なエピソードを取り入れて構成されています。男子校に通う不良高校生たちの閉塞感のある学校生活と、それぞれの「青い春」を痛切に描いた作品です。
物語の軸となっている『しあわせならてをたたこう』は、約20ページほどの短いストーリーですが、大人と子供の間を生きる高校時代という独特の瞬間を切り取り、理由のない焦燥感や他者への憧憬と羨望、一筋縄ではいかない友情の変遷が大きな熱量で表現されています。映画自体も上映時間83分と短めですが、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTによる劇中曲が疾走感を煽り、鑑賞後は強烈なインパクトと重厚な余韻を感じさせる作品になっていました。
●『ソラニン』
三木孝浩監督の映画『ソラニン』は、浅野いにお先生の同名マンガを原作とした作品です。バンドで成功する夢を追うフリーターの種田(演:高良健吾)と、彼とともに暮らす芽衣子(演:宮崎あおい)を中心に、若者たちの苦悩と青春をリアルに表現しています。全2巻の原作をほぼ忠実に描いた映画版は、セリフや展開だけでなくキャラクターの雰囲気や、会話の温度感、ある場面の字幕の出し方まで再現していました。
原作もストーリーが短く、いい意味で肩の力の抜けた空気が魅力で、サクッと読める作品です。映画はその雰囲気を再現し、さらにどこか不安定ながらも音楽に真っ直ぐな種田の静かな情熱や、将来への希望を見出せずにいる芽衣子の感情表現で心を揺さぶってきました。
キャラクターたちのもがきが、他人事とは思えないほど、世界観に没入してしまいます。また、作中に登場する楽曲「ソラニン」の歌詞(浅野先生が作詞)は、文字だけでもグッときますが、ASIAN KUNG-FU GENERATIONが曲をつけたことで、より切実に響くものとなりました。
●『窮鼠はチーズの夢を見る』
セクシュアリティを越えて恋に落ちる男性ふたりの姿を描いた映画『窮鼠はチーズの夢を見る』は、水城せとな先生の同名マンガと、その続編である『俎上の鯉は二度跳ねる』を原作としています。異性愛者で既婚者の恭一(演:大倉忠義)が、大学時代の後輩で同性愛者の今ヶ瀬(演:成田凌)と再会するところから始まる、本格ラブストーリーです。
全2巻ながら登場人物の心情や葛藤が細やかに描き出されており、読みごたえのある内容になっています。繊細で儚く美しい、けれども傲慢で欲深い、そんな人間味にあふれるふたりの恋愛模様、その純粋さに胸を焦がされる作品です。
原作はセリフやモノローグの心情描写も多いですが、実写版は言葉による説明を減らし、主演ふたりを中心にキャストの高い演技力で登場人物の感情を読み取らせる、映画らしい作風になっています。映画単体としても高く評価されていますが、オリジナルの演出が追加され、展開も少し変わっているので、後から原作を読むと、作品の解像度もさらに上がるのではないでしょうか。
●『マイ・ブロークン・マリコ』
永野芽郁さん主演の映画『マイ・ブロークン・マリコ』は、平庫ワカ先生の同名マンガを原作としています。大切な「ダチ」であるマリコ(演:奈緒)を亡くした主人公・シイノが、彼女の遺骨を持って旅に出るロードムービーです。原作は全1巻4話で完結しており、映画も起承転結がハッキリしていて、非常に入り込みやすい作品になっていました。
幼い頃から酷い虐待を受け感情が壊れてしまったマリコと、長い間見守ってきたシイノの関係が丁寧に描かれています。マリコの自殺をきっかけに、本当の意味で彼女と向き合うことになるシイノの爆発する感情、心の底からあふれ出るようなセリフの数々が印象的です。
映画版はキャラクターを再現した俳優陣の演技や、躍動感あるカメラワークが素晴らしく、随所に原作へのリスペクトを感じられます。本来全くタバコが吸えない永野さんは、撮影開始3~4ヶ月前から、美容タバコを吸う練習を繰り返し、板についたシイノの喫煙姿を再現しました。また、基本的に原作に忠実ですが、キャラの掘り下げやラストの「手紙」の描写を際立たせるために、いくつかの追加シーンや、あるキャラが重要なセリフを言う場面の変更があり、効果的な改変になっています。
高い評価を得た実写映画版を経て、ますます同作の魅力に気付く人が増えていくことでしょう。
(椎崎麗)
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