『ガンダム』もしアムロの初戦がシャアだったら…どっちが勝っていた？

■歴史は大きく変わっていた？

　アニメ『機動戦士ガンダム』の華と言えば、人型戦闘兵器モビルスーツ。第1話では史上初のモビルスーツ同士の戦闘が行われます（アニメ『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』では、宇宙世紀0078年にザクI、ブグとガンキャノン最初期型との戦闘が描かれていますが、これはパラレルワールドです）。

　第1話の戦闘では、主人公機でもあるガンダムが、ジオン軍の量産型モビルスーツ・ザクIIを性能で圧倒します。ザクIIの120mmマシンガンが直撃しても、ガンダムの装甲を貫通できず、白兵戦用武器を装備してこなかったザクIIは体当たり攻撃を仕掛けますが、ガンダムはビームサーベルでこれを迎撃し、ザクの装甲をやすやすと貫通するのです。

　地球連邦軍の秘密兵器であるガンダムは、ジオン公国から一番遠いスペースコロニーであるサイド7で開発されていましたが、それを察知したシャアがサイド7を調査したことが、この戦闘の発端です。多くの作戦では、シャアは指揮官先頭で陣頭指揮を執りますが、この「ガンダム対ザク」では、部下であるデニムとジーンに偵察を任せます。

　そして、功績を焦ったジーンがガンダムへの攻撃を開始します。ジーンのザクが撃破されたのを見て、デニムもガンダムと戦闘して、撃破されるわけです。

　シャアはジーンが戦闘を開始したのを見て、宇宙巡洋艦ファルメルから「デニムに新兵が押えられんとはな。私が出るしかないかもしれん、船をサイド７に近づけろ」と命じていますから、この戦闘の時点で、特に他にやることはないようでした。

　シャアの作戦目的は、連邦軍の秘密兵器製造計画「V作戦」と関わっていると思われる新鋭戦艦ホワイトベース（強襲揚陸艦と言う設定ですが、第1話では連邦軍士官が新鋭戦艦と発言しています）です。ホワイトベースを追って、サイド7に来たのです。

　シャアは、デニムたちが連邦軍のモビルスーツを発見する前に、副官のドレンに「我々のザク・モビルスーツより優れたモビルスーツを開発しているかも知れんぞ」と発言していますから、V作戦がモビルスーツ開発計画だと予測しています。

　にも関わらず、デニムとジーンのザクには、白兵戦用武器のヒートホークが装備されていませんでした。シャアは「作戦途中の帰り道」「帰還途中でありましたので、ミサイル、弾薬がすべて底をつき」と発言していますので、第3話で補給艦パプアからの補給を受けるまで、ザクバズーカやヒートホークを使える状況になかったと推測されます（第4話以降ではヒートホークやザクバズーカを使用しています）。

　もし、シャアが自らザクIIに搭乗し、偵察行動を取っていたらどうなったでしょうか。ジーンは手柄を焦って、連邦軍のモビルスーツを破壊しようとしましたが、デニムが命令違反と止めていますから「モビルスーツの破壊」はシャアの命令にないものと思います。

　シャアは第4話で「第一目的は連邦軍のモビルスーツを奪うことだ。第二に敵の新造戦艦の木馬も奪うことである。手にいらずんば撃破するのみ」と命令していますから、これが第1話の作戦目的だったのでしょう。

　シャアが指揮しているなら、彼は冷静に「サイド7内の反撃能力があるもの」を観察し、その破壊を優先させたと思われます。トレーラーに乗っている完品のガンダムは、最優先で確保すべき目標に違いありません。つまり、周囲の制圧をデニムに行わせ、自分は無傷でパイロットが乗っていないガンダムの確保に動いたと思われます。

　この場合、アムロがガンダムに乗りこもうとしたら、マシンガンを掃射するなどして妨害したでしょう。劇中では、サイド7の防衛戦力は2機のザクに撃破されていますから、アムロがガンダムに乗れなければ、ガンダムはそのまま奪取された可能性もあります。

　アムロがガンダムに乗れた場合はどうなるでしょうか。ザクのマシンガンが通用しないことはジーンと同じでしょうが、シャアのザクは通常より30％推力の多いS型で動きは速く、パイロットとしての練度もジーンより遥かに上です。

　アムロが操作に戸惑っている間に「蹴る」などして、ガンダムを転倒させ、制圧しようとしたと思われます。ガンダムは頭部バルカン砲やビームサーベルを使おうとするでしょうが、至近距離からガンダムの頭部をマシンガンで射撃するなどして、視界を塞ぎ、明らかに危険なビームサーベルもマシンガンで破壊するなどして無力化したと思われます。

　その上でシャアは「撃破されたくなかったら、そのモビルスーツから降りろ」とアムロに言ったのではないでしょうか。

　どちらにせよ、ガンダムは無力化されて、シャアに奪取されるものと思われます。なお、ガンダムがザクと交戦したのは、宇宙世紀0079年9月18日です。

　ちなみに、ジオン軍でガンダムとほぼ同性能のゲルググ先行量産型が生産開始したのは同年10月です。ゲルググのビームライフルが本格生産されたのが11月なので、ガンダムを入手できれば、若干はビーム兵器の開発が早まった可能性はあります。

　ただし、この時のガンダムはビームライフルを装備していませんので、アムロが持っていたV作戦のファイルに詳細が書かれていなければ「肝心の知りたいこと」はあまりわからなかったかもしれません。

　とはいえ、ホワイトベースにアムロのガンダムが搭載されていなければ、シャアがホワイトベースを攻撃する行動を阻止できませんから、ホワイトベースも大破して拿捕されていた可能性もあります（ホワイトベースはルナツーに救援を要請するでしょうが）。

　ホワイトベースがここで撃破されていれば、シャアは補給艦パプアから十分な補給を受けられてますから、ホワイトベースごとV作戦を入手できる可能性もあります。連邦軍の性質やブライトの性格からして「機密を渡すなら避難民ごと自爆」はしないでしょうし。

　結果として、ガンダム、ガンキャノン、ガンタンクの機密とミノフスキークラフトを搭載したホワイトベースの機密を、ある程度ジオン軍が入手することになったでしょう。

　前述したように技術開発としては、V作戦の機体が敵に渡っても影響は少ないでしょうけど、連邦軍のモビルスーツを敵役とした演習が繰り返されることは影響します。

　高性能への対策（「エースパイロット限定でビームライフルを装備させる」や「連邦軍モビルスーツの重装甲に対抗すべくバズーカ装備が推奨される」、「ガンダムしか白兵戦装備がないので白兵戦で対抗する」といったことになるでしょう）を練られることは、少なからず戦局に影響したと思われます。

　地球連邦軍で実際に量産されるのは、ガンダムよりも性能で劣るジムですから、ジオン軍が過剰対策をしたことで、地球連邦軍は相当の苦戦を強いられたかもしれません。

（安藤昌季）