人生ゲームはどうつくられる? 50年間、絶対に変えないこと、絶対に入れたかったものとは
マグミクス / 2019年1月2日 18時0分
■「新国立競技場はどうしても入れたかった」
億万長者になる。社長になる。破産する。子沢山になる――。
1度きりなはずの人生を何度も楽しめてしまう「人生ゲーム」が2018年、50周年をむかえました。これまでに発売された種類はなんと62作品(コラボや特注品を除く)。累計販売数は1500万個にのぼるといいます。
そんな人生ゲームの醍醐味といえば、プレイヤーをことごとく翻弄してくるマス目に書かれた文言の数々。思わずクスッとしてしまう内容が多々盛り込まれるだけでなく、その時々の世相が絶妙に反映されています。1作品あたり、約150くらいあるというマス目。この内容はいったい誰が、どのようにつくっているのでしょうか。
「人生ゲームには大きく分けて、テーマ版とスタンダード版、2つの種類があり、種類によってマス目の考え方も異なってきます。
テーマ版は、毎年新しいテーマを設定して発売しているものです。たとえば2018年に発売された『人生ゲームタイムスリップ』は、ゲーム生誕50周年を機に、50年前の日本にタイムスリップをして、50年の日本の歩みを、みんなでわいわい言いながら楽しもうというものです。過去だけでなく、50年先の未来もあります。
まずはコンセプトを決定し、そこに合わせ、マス目を思案していくのですが、未来を想像するのは、なかなか大変な作業でした……」
そう話すのは、タカラトミー(東京都葛飾区)で人生ゲームの開発とマーケティングに携わる、池田さん。『人生ゲームタイムスリップ』のマス目には「2054年 完成した宇宙エレベーターに乗る」など、壮大な未来予想図が広がります。
そしてゴールには、新国立競技場を模した立体が。ここにもこだわりがあったといいます。
2018年に発売した『人生ゲームタイムスリップ』。前後100年を旅する壮大な人生ゲームだ(2018年12月19日、高橋亜矢子撮影)
横のデザインがキモとのこと(2018年12月19日、高橋亜矢子撮影)
「テーマである『未来と過去』をつなぐものとして、新国立競技場はどうしても入れたいと考えていたんです。つくるにあたっては、建設会社さんやデザイナーさんの許可もいただいています。許諾申請は初めてだと言われました(笑)。まだ完成前の新国立競技場ですが、立体化したのは弊社が世界初だと思います」(池田さん)
■トレンドを先読みし、長く遊べるものを
一方、スタンダード版は、初代の人生ゲームの良さを踏襲しながらつくっているもので、8~10年ごとに、新しいものをリリースしているとのこと。現在は7代目が販売されています。
「スタンダード版は、1度出すとしばらくリニューアルされないため、数年後に遊んだ時でも違和感がないように、今流行っているものだけでなく、『今後はこれがトレンドになり、やがてスタンダードになっていくだろう』というものを先読みして、マス目に盛り込むようにしています」(池田さん)
そのために必要なのは、自分たち自身が常に世相を追いかけること。
「日常的に様々なメディアを見聞きし、時事を把握しながら、都度、チームでその情報を交換しています。街で面白いものを見た時などにも、チームのSNS内にその場で投稿し、共有したりしています」
チームの人数はわずか3人。しかも、全員別の仕事と兼務しながらといいます。そのため、1作品あたりの制作時間は長期に渡ります。
「1作品あたり、10か月から1年位かけてつくることが多いのですが、凝ったものになると、1年半くらいかけてつくるものもあります。特に時間をかけるのはギミック、そしてやはりマス目の中身ですね」
■世相とは関係なしに、マス目に必ず盛り込む要素とは?
人生ゲームに世相が反映され始めたのは3代目からです。
「初代人生ゲームは、1960(昭和35)年にアメリカで誕生した『THE GAME OF LIFE』の内容をそのまま日本語に置き換えたものでした。
そのため『隣の羊にランを食べられた』とか『石油を掘り当てた』など、アメリカの開拓時代の名残のような、日本に馴染みのないマスが沢山あったんです。ですが当時は、『意味はよくわからないけれど、アメリカのゲームはかっこいい』と魅力を感じる人が多かったようで、大ヒットを記録しました」
1968年に発売された初代人生ゲーム(2018年12月19日、高橋亜矢子撮影)
「牧場を売る」「ラッキーデー石油が出た」「かつらを買う」(2018年12月19日、高橋亜矢子撮影)
「3代目あたりからは、人生ゲームが日本に馴染んできたため、オリジナルのマス目を取り入れ始めています。より身近なものにするために、お正月やお歳暮などの日本独自のネタを入れ込んだり。ここから日本独自の進化が始まりました」
進化を遂げるマス目ですが、世相と関係なく、毎回必ず入れているキーワードがあるといいます。
「羊、宇宙人、石油。アメリカの人生ゲームに頻出するようなキーワードは、あえてしつこく入れ続けています。あと、マス目ではないのですが、ルーレット、人物ピン、お金。この3つは、変えないようにしていますね」
これらの3つを変えないのは、人生ゲームを「大人から子どもへ引き継がれていくゲーム」だと考えているためだといいます。
■親子のコミュニケーションを意識
「子どものころ人生ゲームを楽しんだ人が大人になり、その楽しかった思い出を子どもへ引き継ごうと思った時、『リニューアルされてはいるけど、大枠や雰囲気は変わっていない』と感じられるよう、変える必要のないところは、極力変えないようにしています」(池田さん)
車のデザインや人物ピンの太さには若干の仕様変更があるというが、「車にピンを刺す」という大枠の構造は変えていない(2018年12月19日高橋亜矢子撮影)
「家族で遊ぶことは、人生ゲームにとって、重要なテーマです。子どもがマス目の内容をほぼわかっていなかったとしても、親と一緒に遊ぶことで、都度、親に聞きながら、理解を進めることが可能になります。
ただ与えられたことをやるのではなく、探究心を持ち、『このマス目はどんな意味なのだろう』と話し合うことで、コミュニケーションや学習にもなると考えています。たとえば、お金に関しても、ゲームを介しながら『借金はよくないことなんだよ』とか、大人から学習できるという」
■「このままでは忘れられてしまうのでは」という危機感
ですが、「親から子へ」という構造は、近年変わり始めているといいます。
「最近、親子間のコミュニケーションが希薄になりつつあります。一緒にはいても、それぞれがスマホとタブレットを持ち、それぞれの液晶を眺めているなど、会話の機会が減っているように思うのです。そうなると、人生ゲームを親子間で伝え聞いて楽しんでもらうことも、難しくなってしまうでしょう。このままでは、忘れられていってしまう可能性があるんじゃないか……と、危機感を持っています」
そのため、タカラトミーでは、子どもに対し、ダイレクトに人生ゲームを伝えていきたいという思いを持ちながら「まちあそび人生ゲーム」を実施しています。
「まちあそび人生ゲーム」とは、現実にある商店街を人生ゲームのボード盤に見立て、参加者が商店街を散策するもので、小学生以下は保護者の同伴が必須。子どもは、事前に親から人生ゲームの詳細を伝え聞かずとも、その場で直接体感し、人生ゲームを知ることができます。
そのほか「みんなでつくる人生ゲームプロジェクト」を足立区の辰沼小学校で行ったほか、沖縄県竹富町の11つの小学校合同で実施。これは、授業の一環として、人生ゲームのマス目を考えたり、それをもとに、手づくりの人生ゲームをつくるものです。
「このことをきっかけに、人生ゲームをやりたくなったという子が沢山いたという話も聞きました。こういう活動は無駄じゃないんだなと感じています」
人生ゲームの開発とマーケティングを担当する池田さん(2018年12月19日高橋亜矢子撮影)
池田さんは、人生ゲームの今後について次のように話します。
「人生ゲームは、年末年始やゴールデンウィークなど、皆で集まった時はやるんですけれど、そのあとは押入れに入れたままになってしまうことも多いゲームです。時間もかかりますし、場所もとる。めんどくささもあるので皆やりづらいのではないかと思います。
ですが、大枠を変えてしまうと、人生ゲームではなくなってしまうので。そんななかで、いかに日常的に遊んでもらえるかというのが今後の課題ですね」
国民的ゲームでありながらも、「忘れられないように」という危機感を持ち、常に新しい取り組みを続ける人生ゲーム。もし、あなたの家の押入れのなかに、しばらく使っていない人生ゲームがあるとしたら、ぜひその箱を開いてみては。
(マグミクス編集部)
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