マンガアプリ「マワシヨミジャンプ」が「エモさ」を目指した理由とは
マグミクス / 2019年2月6日 16時23分
■アプリ開発コンテストの入賞企画だった
スマートフォン搭載のGPS機能を使った集英社のマンガアプリ「マワシヨミジャンプ」が現在、インターネット上で話題を呼んでいます。
「マワシヨミジャンプ」は、実際の地図と連動したアプリ内の地図上に落ちている電子書籍を拾って、ユーザ間で回し読みできるというもの。電子書籍は「週刊少年ジャンプ」のバックナンバーを始め、『ONE PIECE』『DRAGON BALL』『青の祓魔師』など、600作品以上がラインナップされています。
各電子書籍には「マワシヨミ帳」という機能が付いており、ユーザはマワシヨミ帳に作品の感想を記帳することができ、次に拾うユーザと共有できます。
「マワシヨミジャンプ」の画面(画像:集英社)
「マワシヨミジャンプ」は、週刊少年ジャンプ創刊50周年記念イベント「ジャンプアプリ開発コンテスト」の第1期入賞企画で、同社とミライアプリ(東京・品川)が共同で、企画・制作しました。
制作の背景には「電車の網棚に置かれた漫画誌を手に取ることで、知らなかった作品を読んで好きになるような、かつてあった体験を現代に新たに蘇らせたい」という思いがあったといいます。
電車の網棚にはかつて、マンガ雑誌などがよく置かれていた(画像:写真AC)
そんな「マワシヨミジャンプ」ついて、担当者の週刊少年ジャンプ編集部主任・籾山悠太さんに聞きました。
■テーマは、マンガとの「一期一会」
――マワシヨミジャンプ開発の背景を教えてください。
もともと、スマートフォンを使ったジャンプの新サービスを考えており、2017年春に「少年ジャンプアプリ開発コンテスト」でアイデアを一般募集しました。そこで、ミライアプリ(東京・品川)さんが提案した、スマートフォンの位置情報を使って現実のマップ上に電子コミック本を置き、交換/共有するというサービスを見て、興味を持ったのがきっかけです。地図上でのマンガとの新たな出会いという点に「懐かしい」と感じました。
週刊少年ジャンプ編集部主任の籾山悠太さん。趣味は海外旅行で、その経験が今回のアプリ制作にも結びついたという(マグミクス編集部撮影)
昔は電車の網棚や公園などによく雑誌が落ちていました。日本人がよく利用するような海外の安宿やレストランも同じです。そこでは雑誌や文庫が置かれたり、交換されていたりしていました。以前からそういった部分に「楽しさ」を感じていたこともあり、ミライアプリさんとともに、1年強の時間をかけて作りました。
――御社の既存サービスとマワシヨミジャンプの利用シーンはどう異なりますか。
「この作品が読みたい」という明確な気持ちがあるとき、ユーザーは(少年ジャンプの漫画が無料で読めるウェブマンガ誌の)「少年ジャンプ+」「ジャンプBOOKストア!」などを使うと思います。しかし、マワシヨミジャンプはそうではありません。作品との「一期一会」を楽しみながら、家にいるときや、街を移動しているときの「ひまつぶし」として使ってもらいたいです。
――「一期一会」がマワシヨミジャンプのテーマなのですね。
そうですね。
■キーワードは「エモさ」「風情」
――アプリではどのような作品が読めるのでしょうか。
「週刊少年ジャンプ」と「ジャンプSQ(スクエア).」で連載した作品を中心にした、一定の巻数以上が出ている作品を対象としています。
――そのなかで気をつけたことは何でしょうか。
幅広い作品を読める「少年ジャンプ+」と異なり、マワシヨミジャンプは「週刊少年ジャンプ」と「ジャンプSQ.」だけですので、「ジャンプ感」をより打ち出したいと思っていました。私は現在36歳ですが、普段の生活ではもう出合わないような1990年代の作品をマワシヨミジャンプを使って読み直すなど、新たな出合いがあります。
――対応冊数を増やす予定はありますか。
「週刊少年ジャンプ」と「ジャンプSQ.」からたくさんの新連載が生まれ、巻数も増えているので、対応冊数は毎月増やしていきます。
■あえて、アナログさを表現
――特定のマンガが現れるエリアがあるそうですね。
全国各地に数か所あります。東京でいえば、亀有駅の近くにあの有名作品が現れる……などです。エリアの数も今後増えていく可能性があります。
――地図上の移動履歴や「マワシヨミ帳」機能を通じて、読者に伝えたいことを教えてください。
古本を買ったら、文中に前の持ち主が引いた線が残っているときがあります。そのとき、「どんな人だったのか」「どんな気持ちで引いたのだろうか」と思いますよね。とても「エモ」くて「風情」がある、そんな感じを表現したかったです。
作品の感想を記帳することができる「マワシヨミ帳」(画像:集英社)
――エモい、風情ですか。
エモさや風情という言葉は、打ち合わせのときから頻繁に使われていました。現在、地図上に置いているのは本だけです。作品の1話だけをファイルにして置いても構わないのですが、やはり本そのものが置かれている感じが良いかなと。そこで風情を表現しています。
――アプリというデジタルツールで、あえてアナログさを表現しているということですか。
その通りです。紙媒体の魅力ではなく、マンガをユーザーの気持ちに響かせるためのひとつの「手段」として捉えています。
■新しい「お気に入り」を見つける場に
――インターネット上には「地方の人が都会の人と同じように楽しめるのか」という旨のコメントが散見されますが、どうお考えですか。
地方に住んでいる人でも同じように楽しめるよう、システムの調整を行っています。
App Storeでもすでに多くのレビューが投稿されている(画像:Apple)
――アナログさゆえに「読みたい作品が読めない」「続きが読めない」という声もあります。
ジャンプの作品は面白いので、すぐに続きが読みたい人たちはストア機能を利用していただけるとうれしいです。
――無人の場所でもマンガは落ちているのですか。
国土交通省の「街区レベル位置参照情報」を参照しているので、人の住んでいないところには基本的に落ちていません。
――2019年度のアプリの目標DL数を教えてください。
マワシヨミジャンプは宣伝費をかけていませんが、App Storeの総合ダウンロードランキングで2位になりました。目標DL数などの具体的な数値は公表していませんが、思ったより反応があって驚きました。
――そのほかに、アプリを通してうったえたいことはありますか。
これまで読んだことのなかった作品を読んで、新しくお気に入りのマンガを見つけてください。ジャンプのマンガは途中から読んでも面白いものが多いので。ジャンプはこれからも新しいことにチャレンジしていきます。
※ ※ ※
現在、電子書籍の形でマンガを配信するアプリやサービスは数多くあり、ランキングやレビューといった形でおすすめのマンガを紹介する情報も日々発信されています。そうしたなかで、「マワシヨミジャンプ」は「情報」ではなく「偶然の出合い」に特化して新たな作品に触れる機会を提供する試みといえるでしょう。
「一期一会」をコンセプトとしたマワシヨミジャンプの「エモさ」「風情」が、ユーザーの間でどのように共有されていくのか、今後も目が離せません。
(マグミクス編集部)
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