『ガンダム』にも影響? 美形敵キャラを輩出した『ボルテスV』と「長浜ロマンロボ」
マグミクス / 2023年1月28日 18時10分
■長浜忠夫監督の代表作『ボルテスV』
「たとえ あらしがふこうとも たとえ 大波あれるとも」
アニソン界の女王・堀江美都子さんが歌った、『超電磁マシーン ボルテスV』の主題歌「ボルテスVの歌」です。1977年~78年にテレビ朝日系で放映されたロボットアニメ『ボルテスV』は、フィリピンでも大人気に。「ボルテスVの歌」はフィリピンでは「第二の国歌」と呼ばれるほど親しまれています。
2023年内には、フィリピンで実写ドラマ『Voltes V Legacy』がTV放映されることが決まっています。ネット上で公開された予告編には、CGによるボルテスVの勇姿も映し出されています。なかなかのかっこよさです。日本で視聴できる機会が楽しみです。
フィリピンでは1978年に放映され、あまりの『ボルテスV』の人気ぶりに、当時のマルコス大統領は途中打ち切りを命じたそうです。フィリピン人も大熱狂させた、『ボルテスV』の生みの親、長浜忠夫監督のロマンあふれる演出を振り返ります。
■アニメ界に取り入れられた「劇画的演出」
舞台や人形劇の経験があった長浜監督は、野球マンガ『巨人の星』のTVアニメ化の演出を手がけ、一躍アニメ界で注目を集めました。星飛雄馬が魔球を投げるたびに、グラウンドは風雲たなびく異界へと変貌。ライバルたちとの対決シーンには、なぜか龍と虎も登場します。過剰なまでに熱い劇画的演出を、アニメ作品に取り入れたのが長浜監督でした。
ダイナミックな長浜監督の演出ぶりは、1970年代に大ブームとなった巨大ロボットアニメにもぴったりでした。テレビ朝日系で放映された、1976年の『超電磁ロボ コン・バトラーV』、1977年の『ボルテスV』、1978年の『闘将ダイモス』は、「長浜ロマンロボ」三部作と呼ばれ、ファンから愛されています。
合体ロボを操る主人公の少年少女たちだけでなく、地球を狙う敵勢力の視点も交え、さまざまな人びとの愛憎が渦巻く群像劇として、「長浜ロマンロボ」は親しまれました。とりわけシリーズ第2弾『ボルテスV』は、主人公兄弟と生き別れになった父親との物語が縦軸となっており、大河ドラマとしての見応えがありました。熱い人間ドラマが、家族のつながりを大切にするフィリピン人の心を揺さぶったようです。
地球を狙うボアザン星では、王室や貴族たちによる圧政に民衆は苦しんでいましたが、ボルテスVと一緒にボアザン星の民衆も蜂起することになります。植民地時代が長く、マルコス大統領による独裁政治が20年にもわたったフィリピンでは、ボルテスVは革命運動の象徴にもなったのでした。堀江美都子さんが1999年にフィリピンを訪問した際は、国賓級の待遇で出迎えられたそうです。
■悲運を背負った美形キャラに、女性ファンは萌えた
ボルテスVを超合金で立体化した「DX超合金魂 VOLT IN BOX 超電磁マシーン ボルテスV」(BANDAI SPIRITS)
連続ドラマとしての面白さに加え、「長浜ロマンロボ」で忘れられないのは美形キャラクターの存在です。『巨人の星』の花形満しかり、富野由悠季監督の途中降格を受けた『勇者ライディーン』のプリンス・シャーキンの結末しかり、長浜監督作品では主人公のライバルとなる美形キャラが強いインパクトを放っています。
長浜ロマンロボなら、『コン・バトラーV』の大将軍ガルーダ、『ボルテスV』のプリンス・ハイネル、『闘将ダイモス』のリヒテル提督です。それまでの敵役は、見るからに悪役っぽいビジュアルで描かれることが多かったのですが、ガルーダ、ハイネル、リヒテルはルックスだけでなく、心もイケメンで、主人公に対して真っ向勝負を挑みます。中世の騎士を思わせるキャラ設定です。
高貴な身分に生まれながら、悲劇的な運命に彼らは翻弄されることになります。長浜監督が描くロボットアニメは、女性ファンからも熱い支持を集めました。
■富野由悠季監督に与えた影響
勧善懲悪的なそれまでのアニメ作品とは異なり、敵対する側にもいろんな事情があり、対立構造があることが長浜監督作品からは感じることができました。
1979年にTV放映された『機動戦士ガンダム』(テレビ朝日系)で大ブレイクした富野由悠季監督は、「さすらいのコンテマン」時代に『巨人の星』に参加しており、長浜監督と初めて遭遇しています。
「アニメにこれほど率直に情熱を注ぎ込むことのできる長浜監督をうらやましく思った。僕にとって、アニメはメシの種以上のものではなかったからだ」
富野監督は著書『だから僕は… ガンダムへの道』(徳間書店)で、そう記しています。長浜監督の仕事に対する取り組み方は、富野監督に大きな刺激を与えたようです。また、『ボルテスV』の最終回では、主人公の剛健一は因縁深きハイネルと剣で戦うことになります。長浜ロマンは、『機動戦士ガンダム』に多くの点で影響を与えたことがうかがえます。
アニメファンを長浜監督はとても大切に扱い、ファンがスタジオを訪ねると歓待し、ファンクラブ設立への協力を惜しまなかったそうです。多忙でありながらも睡眠時間を削って、ファンレターの返事をまめに書き続けたことでも知られています。アニメーションが日本を代表する文化になることに、多大な貢献を果たした人物だったと言えるでしょう。
1980年に48歳の若さで急逝した長浜監督は、『ボルテスV』が映画化されることを望んでいたそうです。フィリピンで実写ドラマ化されたことを、きっと遠い星から喜んでいるのではないでしょうか。
(長野辰次)
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