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『∀ガンダム』実は「ヒゲ」じゃなかった? ファンの「誤解」も多い、異色デザイン秘話

マグミクス / 2023年2月4日 6時10分

『∀ガンダム』実は「ヒゲ」じゃなかった? ファンの「誤解」も多い、異色デザイン秘話

■「ターンXの傷」にまつわる裏話も

 1999年4月~2000年4月に放送された『∀(ターンエー)ガンダム』。1979年の『機動戦士ガンダム』からそれまで続いてきたガンダムシリーズが作りあげてきた「宇宙世紀」という世界の総括を富野由悠季監督が行った作品としても、ガンダムファンの間では、他のシリーズとは少し異なった位置づけを得た作品です。

 また、物語に登場する∀ガンダムをはじめとする、この作品オリジナルのモビルスーツのデザインを、世界的インダストリアルデザイナーのシド・ミードが担当したことでもファンの話題をさらいました。

 特に主人公ロランが乗るモビルスーツ「ホワイトドール(∀ガンダム)」は、頭部の両頬部から延びる2本の不思議なパーツがまるで「ヒゲ」のように見えることから、「ヒゲガンダム」などとも呼ばれました。

 一方、それをデザインしたミードは、決してヒゲではなく、日本の戦国武士の兜の両頬にある「吹き返し」のオマージュだったと言っています。それは、ミード自身がこのシリーズに参加するにあたり、ガンダムをデザインという方向から分析したひとつの答えでもありました。

 もともと、ミードは工業デザイナーであり、工業製品として実際に存在できることを前提としてデザインを起こします。そのため、最初は架空であるガンダムという存在の理解に苦しみました。

 しかし、別件で在米していたサンライズのスタッフから直接説明を受け、日本のヒーローロボットについて理解します。そこで、それまでのガンダムのイメージから一歩進んだ「∀ならでは」の個性を生み出したのです。

 もし∀のプラモデルなどをお持ちであったなら、あの「ヒゲ」を頭部から外してみてください。その個性は一気に弱まり、∀らしさがなくなってしまうことに気づかれることと思います。

 こうしたデザインのポイントともいえるものは、優れたデザインには必ずあります。そして、そのポイントは、デザイナーの創造性から生まれるものです。

『∀』の敵側、ギム・ギンガナムが搭乗するモビルスーツ「ターンX」も、デザイナーの想像が魅力として活かされたモビルスーツです。

 ターンXの名を象徴する胸元の大きな「X」型の傷。作画用にクリンナップされたものは、都合上ど真ん中にXの中心が来ていますが、実はミードのデザイン上では、ほんのわずかだけ中心が左側にずれているのです。

 それこそが、デザイナーによるデザインのポイントです。

 このX型の傷は、かつて∀と戦ったときにつけられた修復不可能な刀傷。刀傷なのだからど真ん中であるわけはない。それがミードが思い浮かべたイメージだったのです。このイメージがなかったら、ターンXは別のデザインになっていたのかもしれません。

 ちなみに「ターンXは、ミードが来日したときに、宿泊した温泉旅館でデザインされたもの」という情報がネット上にあるようですが、それは誤りです。たしかにミードは、来日時に静岡のバンダイのプラモ工場の見学に向かう際、中伊豆の温泉旅館に一泊し、そこでデザインラフを描いています。ですが、それは「ターンX」ではなく「バンデッド」なのです。

 静かな山あいを流れる谷川沿いの、家族経営の小さな温泉旅館で、気心の知れたサンライズのスタッフと夕食を共にしたミードは、そこで食卓に並んだ伊勢エビに目を留め、その伊勢エビの殻を手に取ると「とてもいいデザインをしてるね。これはヒントになるよ」と、そのまま伊勢エビの殻をちゃぶ台上に残しました。

 翌日、早朝に目を覚ましたミードは、部屋のちゃぶ台の上で、デザインラフの作業を行っていたのです。

 改めてバンデッドを見てみてください。その頭部や背面部などに、そこはかとなく「伊勢エビ」を感じませんか?

 デザイナーが何かをデザインするとき、たとえ世界的な著名デザイナーであっても、そこにはデザイナー自身の想像力とイメージが根幹にある、という好例が、このターンXとバンデッドなのかもしれません。

「川の音を聞きながら作業するのは、とても気持ちが良かったよ」

 ちゃぶ台上のラフ画を見せてくれながら、日本座敷にあぐらをかいた、このときのミードの笑顔は、今もしっかりと私の脳裏にも焼き付いています。

(これらのデザイン画は『MEAD GUNDAM』(講談社)や関連ムックなどにも掲載されています)

【著者プロフィール】
風間洋(河原よしえ)
1975年よりアニメ制作会社サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の『勇者ライディーン』(東北新社)制作スタジオに学生バイトで所属。卒業後、正規スタッフとして『無敵超人ザンボット3』等の設定助手、『最強ロボ ダイオージャ』『戦闘メカ ザブングル』『聖戦士ダンバイン』『巨神ゴーグ』等の文芸設定制作、『重戦機エルガイム』では「河原よしえ」名で脚本参加。『機甲戦記ドラグナー』『魔神英雄伝ワタル』『鎧伝 サムライトルーパー』等々の企画開発等に携わる。1989年より著述家として独立。同社作品のノベライズ、オリジナル小説、脚本、ムック関係やコラム等も手掛けている。

(風間洋(河原よしえ))

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